400字の世界 ♯17 「水 4」

 館内の中央に設置された高さ10m以上の巨大な円柱状の水槽の中は人の手の及ばない海中の世界がそのまま在り、奥の方から超水圧で悶えるように身を捩り乍らゆっくりと顕れたホオジロザメを見て、Orcaは躰の芯から興奮した。サメは水中を、静かだが濃密なエネルギーで泳いでいて、戦慄するようなエロティックを発散していた。アノマロカリスからダンクルオステウス、メガロドンへと受継がれて来た捕食者の本能は滅する事無く、目の前の王者に確実に受継がれている。Orcaは分厚い強化ガラス一枚向こうの海の王者の姿を眼と脳裏に焼き付けた。平日の館内は閑散としていて、今、サメを見ているのはOrcaだけで、この上無い贅沢を感じている内に、サメは音も無く奥の方へと姿を消した。大学での研究が煮詰まり、気分転換に訪れた水族館であったが、心を撃ち抜かれたような衝撃と幸福を感じていた。風穴が開いた心は実に気持ちが良かった。

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