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夢、始まった。

東京に真っ当に来るのは4回目だ。内3回は模試を受けに来ているので、そろそろただ遊ぶためだけに……というか、東京に越してきたいところだ。しかし、そんなことばかり云っていられないのが現実である。何せ今回の東京遠征は『東大実戦』のためだ。所謂“負けイベ”であるため、正直期待していなかったが、それでもあそこまで徹底的に私を打ちのめすこともないではないか。所詮私には学力など無くて、下らない文章を無限生成する程度の能力しかないことを改めて実感させられ、憂鬱に……なる前に秋葉原に行くことにした。森下師の難解な講義(8/14,15の後半分は残っているが)や苦痛でしかない半年ぶりの模試もなんとか切り抜けたのはこのためだ。8/11に駿台お茶の水校に行く途中でリフレの予約を入れていた。大阪にいた時点で指名予定だった女の子も丁度8/13の出勤が確定していた。学力以外は私に味方している!そうも思った。

どうやっても時間が足りない東大英語を無理やり終わらせた帰り道、悪意を感じるタイミングで真夏の通り雨に降られた。女の子と会うための服は1着しか無かったのでこのときに着ていたら詰んでいた。こんなこともあろうかと部屋着のまま受験していた。受験勉強は上手くやれないのに、つまらないことだけは完璧なのだ。生活拠点に戻って妙な気分でシャワーを浴びた。落ち着け、ここはホテルではない。そもそも今日は性的なことをしてもらうわけではない。女の子のプロフィールはお店のサイトに載っている分に関しては当然調べた。甘いものはそこまで好きでもないらしい。コンビニでNIKKEのファイルを2つ手に入れるために買ったポッキーが150本ほど余っているのだがこれはダメか……。しかしスタバのキャラメルマキアートは好きらしい。そんなところに両義性を持たせなくても良いのに……。などとぶつぶつ云いながら携帯鞄の参考書類を抜き、なんだかんだポッキーを入れる。鞄が軽すぎて不安になったが、特に不足も無かったので生活拠点で傘を借りて秋葉原に着いた。あと1時間ほどあるが心配性なのでホテルを確認した。見た目は怪しいが場所は明快だ。これなら適当にその辺を彷徨いていても帰ってこられるだろう。如何にも秋葉原らしいエリアとは逆サイドにあったので、廻ってみてもそこまで大したものは無かったが、受験生をやっているとこういう露骨に無駄な時間というのは許せなくて自発的にはやらなくなってしまったので、たまには良かったのかもしれない。非本質を愛することを止めると、どこか人として壊れてしまう。

20分ほど早いが、別に許されるだろうというのでホテルに入った。ラブホテルに来るのは初めてだったので勝手がわからなかったが、機械じみたアジア人女性の受付から鍵を受け取り、部屋に入った。カーテンが全開になっていたのでとりあえず閉めてみたり、靴下を脱いで部屋を歩き回ったり。緊張していた。似たような感覚を知っている。“エンカ”だ。昔はよくやっていた。一言でも会話を交わしてしまえば他人ではないが、出会うその瞬間までは他人なのだ。あの奇妙な関係。引き篭もりなので女性どころかそもそも人間と会話をあまりしなくなってしまった。その第三人称性を打ち壊す一言目を云えるのか……。時間を1分ほど過ぎて、扉を叩く音がした。
ああ、来た。どんな子だろう。身体情報はカップ数と身長しか知らない。何とも歪だなと思いつつ扉を開ける。特徴は無いが可愛い顔つきだ。それを見て指名したのだから当然だが、胸も大きい。少しブラジャーが透けて見えていた。また雨が降り出したのだろうか?するりと部屋に女の子が入ってくる。業務連絡がされ、1万円札を渡す。この子の労働時間が始まったようだ。ぎこちない会話が始まる。
「今日はどこからいらしたんですか?」
「大阪から……。」
「へぇ〜!遠いですねぇ!何をされに?」
「あぁいや、あぁ……えぇ……東大実戦ってのを受けていたんです。」
女の子はWakkateTVが好きだとプロフィールに書いていたので、これしか掴みが思いつかなかった。しかしながら女の子は特に反応することはなく会話が続いた。これではただの痛いヤツではないか。しかも恐らく本物のE判定を喰らっているのに。
「はえー、それはご趣味ですか?」
「ん?ああいや進学を考えて……。」
おっと。どうやらこの子は私のことを阿○羅か何かだと思っているようだ。しかし何故だ?どうしてそう思う?普通大学模試を受験するのは受験生なのだが……。
ポッキーはダイエット中とのことでお気持だけと断られた。まぁ、私が買いすぎただけのものなので構わなかった。それに、私が女の子なら初対面の男から貰う食べ物は少し怖い。
私が飛行機で来た、というところから家族構成の話にまで繋がり、弟が高3と聞いたので流石に同い年であることを告白するのはまずいと判断し、薄らと考えていたように年齢は1歳盛ることにした。
「実戦と物理の講習を受けに来たんです、浪人してて……19なんです。」
「へぇ〜19……え!?19歳!?歳下!?!?その、落ち着きが凄かったからてっきり全然歳上だと思ってました笑笑」
オブラートに包まれてはいるが、要は口下手だと云いたいのだろう。ここまで下を向きながら髪の分目を矢鱈に弄ったり、吃ったりしていたのでその評価に不満は無いが、見た目に関しては私はそんなに老けているだろうか……。しかし、この辺りから明らかに対応が変わった。金蔓とはいえ、素性が何もわからないというのは怖いのだろうか。
「早速着替えちゃうから覗かないでね♡」
そう云って彼女は風呂場に消えた。淋しいから、という理由で爆音で彼女が流している音楽が全くわからなくて、ああ私はやはり時間に取り残されて……とまたBADモードに入ろうとしていたら彼女が帰ってきた。女子高生のコスプレをしている。私は女子高生をきちんと見たことが数回しか無いので、正直よくわからなかったが、服装を褒めるのを忘れていたと思って先程まで着ていた私服と制服に適当な言葉を投げかけた。当然、笑顔で「ありがとう!」と返された。空虚だ。いつの間にかあちらが敬語を辞めた。私も年上の友人に使うような、雑な敬語に切り替える。「手繋ご?」と声を掛けられた。それはオプションだった気がするので怖くなったが、そんな悪徳店だとは思えなかったのでサービスだろうと、手を繋いでベッドに座った。ん?何だこれは。女性の手はこんなに柔かったか?高校に入ってから触れていなかったから忘れてしまっていた。仮借なき、小さな白から感じられる、人の温もり。ぼんやりとしながら彼女と話をした。大学の話を聞いたり(慶應だろう、指定校で文系に行ったらしい、そんなことはどうでもいいが)、アニメの話をした。何が好きかと聞かれて、最近のものを観ていないので困りながら「懐古厨でね……ちょっと前は『這い寄れ!ニャル子さん』とか『WORKING!!』観てましたね。」と云うと「えー!私阿澄佳奈好きでさぁ〜!」と話を続けてくれたので、好感度が上がった。優しい人のようだ。喋っていると知らぬ間に30分経っていた。初対面の人間と時間を忘れるほどの自然な会話を成立させるのは流石プロと云ったところである。あまりにサービスが長すぎても気まずいし、喋るのは好きだし寧ろ良かった。
「恥ずかしいけどそういうコースだからね……脱ぐね。」とマイクロビキニを披露してくれた。目の前で脱いでいたのだが、女性の背中をあんなにしっかりと見たことはなかったので変な気分になった。しかし不思議な気持になっただけで、意外と落ち着いていた。あまりにも布地が少なくて、「どえらい格好ですね……。」などと呑気な感想が出かかったのを口をぎゅっと結んで堪えた。これはコースに付属していたオプションなので、つまりは私がこの格好をさせていることを忘れていた。追加オプションは迷うことなく‘頭なでなで(1000円)’‘お尻枕10分(3000円)’を選択した。追加で4000円支払い、部屋の電気を消し、「お尻の方が好きなの?」と云う問いに「どちらも好きです。」と真顔で返し、2段階目が始まった。

手を繋ぎながら、お尻に頭を乗せる。何と滑らかなことだろう!心地の良い冷たさで、パン生地(勿論パン生地に顔を埋めたことは無いが)に近いだろうか。女性の臀部に固さなど全く存在しないものとばかり思っていたが、それは私の都合の良い想像に過ぎなかったと思い知らされる。しかし、これはこれで気持ちが良い、いや寧ろこの方が良い。「10分って書いてあるけどそんなに気にしなくていいよ!」と云われたので、繋いでいた手を離して今行っている変態行為に意識を全集中させる。集中すればするほど何も考えられなくなっていき、集中とは程遠い状態に近づいていく。矛盾に快感を覚えたのは後にも先にもこれが初めてだろう。「きちんと目を見て人と話をしなさい。」と幼少期に教育を施されたが、このとき私は彼女の臀部に顔を擦り付けながら彼女の話を聞いていた。人の話を聞く態度としては考え得る限り最悪に近いが、もう考えるのは止してしまった。背中と脚の方に手を置いて、お尻−理想的な脂肪の塊−に軽く口をつけ、匂いをかぎ、目を閉じて頬を擦り付ける。甘美な柔らかさ。これが長い間忘れていた幸福だろうか。「落ち着く……。」とつい甘えた声を出してしまい、笑われてしまった。家の枕も美しい女性の尻に替えないとな、などと考えていたが、リフレには時間制限がある。美しい彼女の躰全てを味わわなければ勿体無い。コースに入っていたのは知っていたが、淡々と切り替えるのも感じが悪いだろうということで、うろ覚えのふりをして声を掛けた。
「このコースってハグは無料なんでしたっけ?」
「おっ、いいよおいで!そういえばオプション付けてくれたけど頭って撫でたいの?撫でられたいの?」
撫でられたいに決まっている。とりあえず、躰を寄せて抱きしめてみる。私は基本的に‘甘雨ちゃん’か‘汐里ちゃん’を抱きしめて寝ているのだが、あれとはまた違った柔らかさだ。人間は脊椎動物だから、堅牢な骨から成るが、そこに付く肉は女性の方が緩いのか。初めてのことなので適切な喩えも思いつかないが、尻に顔を埋めるのとはまた違った良さがある。柔らかいが、しかと幹があり、温かい。自分が“人間”であることを、思い出す。立っている状態なら経験が無くともなんとなくわかるのだが、添寝の状態でのハグなので如何せんどうすれば良いのかわからない。腰とベッドの間に片方の手を通し、もう一方の自分の手と結んで、顔を相手の首の辺りに置いてみる。
「正解ですか?」
「正解だよ〜♡」
とりあえず良しということにしておこう。彼女がそっと私の頭に手を伸ばす。抱きしめられて、撫でられる。眠ってしまいそうだ。私が眠ってそのまま時間が経つのが彼女にとっては1番楽だろうが、残念ながら私はそこまで優しくないので、目を開けて胸をじっくり見てみることにした。「……すご。」また声が漏れて笑われてしまう。これがGカップ。Great,Gigantic,Grace……。きっと、Gの1文字にそんな全てを預けている。彼女が息をする度微動する、文字通りの、2つの肉球。5分程は目の保養にした。予定以上にお金が飛んだって構わないから、やりたいことはやってしまおうということで、声を掛けた。
「あの、顔寄せていいですか?」
「ん?」
「あっ、その、胸に。」
「えっ笑……いいよ笑」
照れ笑いをされた。いいのか?いいんだな!
どうやらお金を取る気も無いらしい。少々申し訳なかったが、顔を胸に埋めてみた。敢えて安っぽい擬音を使ってみると、お尻の方がぽよん、だったのに対して胸の方はむにゅ、だ。先ほどよりも私と彼女の躰が近いからか、より温かくて、とても安心する。「落ち着く……。」ああ、また云ってしまった。最早性的欲求の域を超え、気が鎮められる。現代社会は考えることが多すぎる。ずっとこうしていたい。真に何も考えないというのは、こういうことを云うのだ。トークの方は結構真面目な話になっていた。胸に顔を埋めながらに聞いて、話す、将来像。滑稽極まりない。1つは、アルバイトについて良いことを教えてくれた。
「こっち来たらバイトとか何するの?」
「ガタイはいいから引っ越しとかやりたいですね。」
「えー、単発で人間関係もできないし怖いし辛いし止めた方がいいよ……。スタバ好きならスタバでバイトするのは?笑顔が素敵でちゃんと人と喋れるんだからアリだと思うよ。スタバは長期で働いてほしいからB1じゃないと採用厳しくって、気をつけてね!」
「適当な事云わないでくださいよ〜!なるほど、でもそれも良いなぁ……。」
このとき、谷間の匂いをかいでいた。人生がTPSで展開されていたら、さぞ死にたくなったことだろう。幸い人生はFPSで、目の前の光景に夢中だったから、逆に生への盲目的な執着が生まれてきたほどだ。普段の希死念慮はどこへ行ったのか、知る由も無い。生の素晴らしさを、3つ4つ歳上の女子大生に教え込まれていた。あとはこの前まで彼氏がいた話とか、マッチングアプリはそこまで面白くない、というような話もしてくれた。やはり私のような高校生(実態としては本当に予備校生に近いのだが)とは全く恋愛の形態が異なるらしい。これも将来の参考になるな、と思いながら話を聞いていた。

何分経った?もう考えることを止めていたのでわからなかったが、終わりが近いのか、彼女に声を掛けられた。
「あー、お尻に戻りたかったらいつでも。」
「ん、ほなそれで……。あっ、その……。」
「?」
そういえばこれをやってみたかったのだ。何円になるだろう?
「お金なんぼになるか決めてもらっていいんですけど、お尻揉んでもいいですか?」
「いいよ!おじさん相手なら別オプだよ〜って金毟り取ってたけど♡歳下だしね笑」
「そこに付け込んでるみたいですみませんね……。」
「気にしない!笑」
逞しい人だ。ますます好感度が上がった。両手で指を沈ませてみる。絹とか、ベイビー・スキンとか、そんな陳腐な表現に逃げても良いのだが、やはり未知の領域だった。私では言語化するのが難しい。初体験の、女性の躰。また顔を埋めてみたりもした。「もっと体重掛けてくれても全然いいんだよ?」と云われたが、「女性は実験器具のように丁重に扱うように。」というどこからやってきたかもわからない言葉が頭を駆け巡り、あまり無遠慮なことは結局しなかった。勿論、そんなことをしなくても満足だった。また少し話をした。心霊スポット巡りやホラー映画視聴も趣味らしい。私が全く近寄る気の無い世界の話をしてくれた。なるほど。面白いが、憑かれないようには気をつけてほしいところだ。アラームが鳴った。『2時間弱のバカンス』が終わりに近づいているようだ。少し淋しかったが、本当に満足してしまったので、延長を頼む気も無かった。そんなことをするのは反対に失礼だろう。「最後にちょっと時間あるからまたお話しよ?」と云われたので、財布の中身を見るのを止めた私はまた声を掛けた。
「お金払うんで、膝枕してもらえません?ASMRでしかされたことなくて……。」
「お金はいいよ!どうぞ笑」
私服に着替え終わっていた彼女の膝にお呼ばれされる。今日何度目か知らないが、彼女の躰に頭を預けてみる。正直、膝枕に心地良さは全く期待していなかった。あれの快楽は形態が齎すものだと考えていたからだ。

待て。普段使っている枕など比べ物にならない。頭がふわりと腿に沈む。いい匂いがする。これが花の園だろうか。ミニスカートの生地と生脚のバウンダリでまた少し頬擦りをする。膝枕は、気持ち良い。また1つ賢くなった。私が澤野弘之が好きだという話から先日彼女が行ったロックフェスの話になった。私は案外邦ロックもよく聴くので、なんとか話ができた。写真も見せてくれた。哀れな受験生に大学生の楽しみを教えてくれていたのだろうか。勉学に励むことが大学生になってからの目標なのだが、楽しそうに語る彼女の顔を見ると、案外こういうものも悪くはないのかと思った。時間が来たようだ。すっきりと身体を起こす。実に満ち足りていた。
「夏っぽいことしました?」
「してないですね……。淀川花火大会ってこっちで云う隅田川花火大会みたいなのがあるんですけど、家出たら勝手に上がってて、知らんかったんですわ笑」
「えぇ〜ちょっとくらい楽しもうよ!隅田川のは浅草寺まで観に行ったんだけど人多すぎてそれどころじゃなかったよほんと笑」
私の夏の思い出は、この90分だった。
荷物を片付けて、一緒にエレベーターに乗った。
「この後10時まで仕事だなぁ、しんどいけどお金欲しいからね〜。君は話しやすかったけど、次すっごい無口なお客さんでさ笑
ほんと楽しかったよ!受験生と話することなんて無かったからなぁ、頑張ってね。また来てね。」
「お疲れ様です……!ああ、そうですか?それなら良かったんですけど……。まぁそもそも受験生なんか来ないでしょうからね笑
私も想像していたより遥かに良い体験ができました!今日はありがとうございました。」
私が深々と頭を下げた後、ホテルの前でお互い背中を向けた。雨は、もう止んでいた。

リフレはやはりrefreshのリフレなのだな、と思いながら駅の近くに戻って、秋葉原の如何にもアキバらしいところに辿り着いた。前回はきちんと中を見て回れなかったのでK−BOOKSでダラダラと商品を見ていた。日本語が殆ど聞こえないな、などと思っていると、どうやらもう閉店するらしい。20:00閉店なのか。しかし入ってすぐ閉店と云われると何か買いたくなってしまう。そうすると、目の前に“高坂海美”のコーナーが飛び込んできた。閉店を知らせる声が響く。そうだ、考えることは止めたのだったな。目の前にいた高坂海美全てと、隣にいたあまりにヴィジュアルが良かったデストルドーverの田中琴葉を購入した。あれだけ買って3500円なら安いだろう、と外階段で直接店を出た。ゲーマーズに登ってみたが、“声優”の2文字を見ると個人的な事情でムズムズしてしまって、サインボールだけ撮ってしまったが、すぐに降りた。アニメイトに行こうと思ったが、どうやらアニメイトも20:00に閉まっていたらしい。どうしたものか。しかし前回来たときにメイト前には多くのメイドがいることを知っていた。冷やかしてやるか。そんな悪いことを考えながらメイト前に向かったのだが、変なところでお人好しなので、声掛けに反応してしまう。先方は700円と800円の足算に難儀していたが、一応は料金を説明してくれた。とりあえずパンフレットだけ貰って、少し離れてこっそり店名を調べてみた。悪い店ではなさそうだ。予定には無かったが、“アキバらしいこと”には違いないから、コンカフェに行くことにしてみた。もう一度先のメイドさんに声を掛ける。メイドさんはショートカットだったが、髪色と顔の雰囲気のために紅蓮華を頻りに歌っていた頃のLiSAに見えてきた。「私が付くことになりますけど大丈夫ですか?」と云われ、断る理由が無いので了承して、店まで案内してもらうことにした。
「メイトに行きたかったんですけど20:00に閉まっててね……。この辺あんまり来ないんでアキバっぽいことしたいんですよね。」
「あっ、アニメイトってそんな時間に閉まってましたっけ!?確かにね、コンカフェってぽいですもんね!どんなアニメが好きなんですか?」
「最近のそんなに観られていないので人と話合わないことが多いですね……。逆に何か観られます?」
「あっ!私!?えーと、結構なんでも!あの、転生系?以外なら……。なんか転生系って観るのに頭使うじゃないですか?」
「あー、時系列がややこしいのありますもんね?」
「あ、それですそれです!あとなんか登場人物が多いと誰ぇ?みたいな笑」
「んーまぁありますよね笑
いやー、こういうとこ来ようっての初めてなんですよね、女の子が居る店ってなんか怖いじゃないですか。私1回どっか行ったときにね、告白してしまうとこのお店のこと調べてて笑」
「あー、確かに!あれですよね、サングラスの怖いお兄さんが出てきて何十万も請求されて……みたいな?」
「ほんまにあったら怖いですからね笑」
そんなことを話していると、お店に到着した。

ビルの5階にあったのに、エレベータが狭いからあのメイドさんは階段で登るらしい。そんなことをさせるのは気が悪かったのだが、客という立場上断るわけにもいかなかったので素直に独りでエレベータに乗った。5階に着くともうメイドさんはそこにいた。元気な人だ。正直好みと思えるところは無いままに着いてきてしまったが、少し好きになった。お店は一面桃色の内装で、いかにも、という感じだ。彼女がメニュー表を持ってきてくれて、また一所懸命に説明してくれた。なるほど、改めてよく聞いてみるとカフェというよりキャバクラに近い料金体系なのか。まぁ財布を見る限りは多少高くても問題無いだろう。とは云えそこまでお金を使う予定は無かったので、彼女には申し訳ないがコーラを注文した。持込も自由らしく、彼女とポッキーを食べることにした。1袋に25本入っているのだが、暑さで全てくっついて1本の太いチョコ棒と化してしまっていた。笑いながら彼女と砕いて食べ始めた。注文したコーラは多分世界で1番薄味だったが、ここは飲み食いするところではないだろうから、あまり気にしていなかった。女の子は結構オタク気質らしく、私が適当な返をするだけでも色々と話してくれて楽しかった。正直、こういったお店の存在意義がわかっていなかったし、メイド服は魔改造して非実在巨乳青少女に着せる物だと思っていたが、目の前でぎこちなくも私と会話を続けてくれる彼女は何とも可愛らしくて、また好きになってしまった。キリが悪いところで時間が来たので、元はそんな気が無かったのに延長してしまった。その時間もまたあっという間に終わった。多分、彼女とは領域は違えどオタクとしての価値観が似ている。かなり話しやすかった。最初は“来てしまった感”が大きかったが、やはり人生たまには寄道も悪くない。この40分もひどく私を喜ばせた。記念にツー・ショットでチェキを頼んだら「初めてなんです!!!」とかなり喜ばれた。嘘をつくような汚い商売をしているとは思えない手慣れなさだったので、本当にそうなのだろう。大阪から来た人間が初チェキを貰ってしまうのは少々気が引けたが、ニコニコと一緒に写ってくれて、チェキに色々と描いて渡してくれたときには、これもまた、考えるのを止してしまった。
大好きなキャラクタたちがたくさん入った袋に貰ったチェキをそっと加えて、店を出た。「是非また来てくださいね!」と見送ってくれた。きっと東京に越してきて、また来よう。それまでに彼女が名を上げていることを強く願う。目に見えてわかるほど(それは好ましくないのだろうが)私のために頑張ってくれていた。私も、やれることはやらなければならない。

この後もう少し秋葉原を歩いて、「東京に来て寿司を食うなんて馬鹿だよなぁ。」とずっと自分で云っていたのに、あまりに気が良くて『きづなすし』で夕餉にしてしまった。どうも私は真性の馬鹿らしい。まぁ、馬鹿をやるのも、人生か。


実を云うと、4度とやって来ても、私は東京が好きになれない。何せ騒がしすぎるし、ヒトが多すぎるし、それらの汚い欲望が渦巻いているのも薄らと分かって、気分が悪くなる。東京に住むのが楽しみかと云われると、答に窮してしまう。
勿論、秋葉原にもそれらが全て存在する。寧ろ他の街より濃いかもしれない。とは云え、それらからいつの間にか自立して、秋葉原そのものが放つ魅力がそれらを消し去ってしまう。
私から見て、秋葉原は、一等の非本質の街だ。しかしだからこそ、ここには私の思う“人間的要素”が徹底的に詰め込まれている。人間など、非本質の塊なのだから。
どうせもう少しで日本もはっきりと滅びの道を往く。それまでにさっさと東京にやって来て、この街で夢を見ていたい。たとえそれがタイタニックの上でダンスを踊るようなものだとしても。
今日のこの日は、私がこの先見るであろう少々長い夢の、プロローグ。

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