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能登から認知症の父がやってきた(12)
父が認知症と診断されたのが、2019年。その数年前からおかしな症状は出ていたのだが、「どこもおかしくないわい」と病院を拒否していたため治療も遅れた。
酒好きで晩酌はしていたが、ほぼ家と職場を往復するだけで、めったに外で遊んでこない真面目な人だった。喫茶店でアイスコーヒーに角砂糖を入れるような世間知らずというか、なんというか。鬼嫁がおこずかいを渡していなかった?のかもしれないが。
リタイア後は、家の近くの畑で野菜を育てるのが日課になっていたようだ。
唯一の趣味が読書と磯釣りだったので、友人と外で会ったり集まりに参加することもなかったようだ。会話する相手も母しかおらず、時々電話してきて、「お母さんは耳がどんどん悪くなって話が通じん」「ちんこい魚ばっかり釣って、釣りなんか行くなとエサ代もくれん」と愚痴っていた。
認知症になって、徘徊を繰り返し、迷子になって警察にお世話になったこともしばしば。2階の窓からの庇に降りてしまい、姉と母が必死でひっぱりあげたこともあった。夜中にトイレに起きて庭に出ようとすることもあったし、「スパイが、アメリカからスパイがやってきてうちを覗いとる。家に入ってきておれの日記に落書きしていった」とよく言っていた。勘違いだと指摘しようものなら、「お前に何が分かる、ダラ(アホ)なことゆうなまん!」と激怒していた。
疎ましくはあったが、父は誰かともっと話したかったし、話を聞いてほしかったのかもしれない。うちに来てからは、もっぱら、ちび(通称)に話しかけている。「◯◯こ、◯◯ちゃん、こっちおいで、エサやっぞ」昔飼っていた犬の名前で呼ぶ。そうとうしつこくかまわれるのだが、逃げずにテーブルの端でじっとしていたり、ホカペの上で、面倒くさそうに尻尾を振っている。自分の名前を呼ばれていないし、おなかも空いていない。「うるさいわね。あんたがこっちに来なさいよ」てな感じで、軽くあしらっている。自分が食べている物を与えようとするので、目が離せないが、ちびは食べたりしない。
眠っているちびの頭をそっと撫で、小さくつぶやいてみる。
今日もおつかれさま、ありがとね。
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