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【無料公開】ホンダで学んだ「自主性」について

前回は僕の就活のときの話を書いたが,今回は業務から学んだことをつらつらと書いていこうと思っている.特に新入社員の方に読んでいただき,これから働いていく上で少しでも役に立つと良いなと思う.

【ホンダという会社】

僕はホンダの4輪R&Dでエンジニアとして働いていた.
量産機種では主にエントリー周りの開発を担当し,ありがたいことに入社後早い段階から次世代エントリーシステムの研究テーマにも参画できた.

会社には非常に個性的な人たちが多く働いており,学閥もないし,金髪もいるし,お菓子食べながら仕事するし,気づいたら会議スペースの近くの人が勝手に会議に参加してたりするし,Tシャツ短パンサンダルで出社してくる人もいるし,役員との距離もかなり近いし…そこそこ(?)自由な雰囲気だった.

働き方に関しても,フレックス制度を導入しているし,リモートワークも推し進めていた.(コロナの影響でさらに進んだかも知れない)
有給は申請すればほぼ100%取得できるし,逆に取らないで溜め込んでおくと怒られる.

部署によって多少の差異はあるだろうが,会社としては社員が気持ちよく働けるよう福利厚生もしっかり整えているため,かなり働きやすい環境であると言えるだろう.

【ホンダにおける主体性とは】

ご存じの方も多いと思うが,ホンダは「主体的であること」をよしとする企業文化であり,社員に主体性を求めることが多くある.
「失敗を恐れるな」とか「チャレンジングであれ」とか…上げればきりがないが,創業者の本田宗一郎の考え方に共感する人たちがかなり多いのである.(それは一歩外から見るとまるで宗教のようにも思えるが…)

入社したての頃は主体性というのは自分が主導して何か物事を動かすことだろうとふんわり思っており,いずれそういうことがこの会社でできたら楽しいだろうなと考えていた.

だが,入りたてで先輩から教えてもらった仕事をこなすことしかできないぺーぺーに対しても「主体的であれ」と言うのだ.ペーペーが主導して物事を動かすことなんてなかなかできることじゃないし,そんな機会もあんまりない.(あんまりないだけで,全くない訳ではない)
じゃあどうすれば「主体的」なんだろう,と疑問に思っていた.

しかし業務に慣れ始めると,あることに気づく.業務の中で「お前はどう思うんだ?」「お前はどうしたいんだ?」と言われることがとても多かったのだ.さすがにこのご時世「お前」と強く言われることはなかなかないが,そんなニュアンスで問い返されるのである.

ここで詰まってしまうと「意思がないからだめだ」と言われる.「何かをするときは自分の意思を入れろ.それがないならお前がやる意味がない」と.
サプライヤーが用意してくれたデータも,そのまま使って説明すると「その説明はサプライヤーを呼んでくれば聞ける.お前がここにいる意味はなんだ」とやんわり言われた.
また何か質問するときも「どうしたら良いですか?」と聞くと「どうしたら良いと思う?」と返された.

日常会話でこんなことされたら普通に嫌なヤツでしかない.

実際はじめは困惑したし,「何言ってんだ?」と思っていたが,次第に「自分はこう思ったのでこうしました」「これが必要だと思いました」と,自分がどうしたくて何をしたのかという話し方をする様になる.
質問をするときも「自分はこう思ったんですけど合ってますか?」「こう考えてみたんですけどこれがわかりません」という話し方がデフォになる.

すると話を聞く側は「こうしたいならこうすればいい」「ここまでは良いが,これが間違っている」という返し方をしてくれるようになる.

そしてある時「なるほど」と思った.これがこの会社の業務に対する主体性なのか,と.そして失敗が許される環境という意味も同時にわかった気がした.

自分はこう思ったからこうしてみた.結果それが間違っていたとしても,自分の意思と明確な理由をもって取った行動ならOK.
間違ったところは指摘されるが,それを元にまた「自分はこう思ったからこうした」を繰り返せばいい.

つまり「失敗を恐れず」繰り返して学んでいくサイクルが生まれるわけである.そして,そのサイクルから生まれるものは自分の意思がはいったものであるから,誰かのコピーにはなり得ない.その人だから作り上げられるものであるし,それがホンダ全体で行われれば,自然とオリジナリティのあるものを会社として生み出していけるようになる.

会社が求めている「主体性」とはこういうものなのかも知れないなと僕は感じた.もちろん一般的な「主体性」という言葉に対してこの考え方が100%正しいわけではないし,本当に会社が求めている「主体性」が,僕の感じ取ったものと異なる可能性もあるが,少なくとも僕は「なるほどこれは使えるな」と思った.仮に会社を辞めることになったとしても(実際辞めたわけだが…),この考え方はこれから先も役に立つだろう,と.

ちなみにホンダには「A00」という言葉がある.一般的な言葉に置き換えると,「コンセプト」とか「目的・目標」に当たるもので,「つまり俺たちは何をしたいんだっけ?」という最終地点を明確化し,何か判断に困ったことがあると,この「A00」に立ち返り,進むべき道を決めよう.というものだ.

この存在を知っていると「ホンダにおける主体性」の根底にはこのA00があるだろうことがわかる.しっかりと目的意識をもって動くことがホンダマンにとっては重要なことなのだ.

【主体性のデメリット】

だが,この「ホンダにおける主体性」にもデメリットらしきものがあることも同時に気づいた.

それは「マニュアルが存在しなくなる」ということだ.

誰もが自分オリジナルのルートで作り上げていくので,明らかにマニュアル化したほうが効率が良いとしてもその方法を選択しない.なので,始めるときはいつも0から作り始めないといけない.周りに聞きながら自分のルートで完成させないといけない.

実際の業務でも「こういうときって何か決まったやり方あるんですか?」と聞くと大抵「ない」と言われる.めちゃめちゃ不便である.これだけの大企業なのに,新入社員や中途採用が最初に乗り越える壁がこの「マニュアルがない」「社内のナレッジが蓄積されていない」ことなのだ.

ホンダで何かを知りたいときは基本的には「誰かに聞く」しか無い.「誰か詳しい人知りませんか?」が解決の最短ルートになることがよくある.これが「町工場がそのまま大きくなったような会社」といわれる所以かも知れない.

【まとめ】

とはいえ,上記のデメリットは会社全体で「ホンダにおける主体性」を実行した場合に起きるものだと考えられるので,個人が行動を起こす場合はそれほどのデメリットはないのだろう.

むしろ「自分はこう思った(思っている)んですけど」「自分はこうしたいんですけど」という言葉を付け足す意識をするだけで「主体性」を周りに伝えることができるようになる.これはなかなか便利な手法だと僕は思う.

「目的意識を持って行動する」

結論としてはそこに行き着くのだろうが,具体的にどうしたら良いのかわからないことが多い.一つの方法として「自分はこう思ったんですけど」「自分はこうしたいんですけど」というホンダ式の行動を取るように心掛けてみると,何か見えてくるものがあるかも知れない.

参考になるといいのだが…

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