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ふじぴーのワッフル
友人と奈良へ観光へ。大阪の柏原市でぶどう狩りをしたあと、うなぎを食べたり、相撲の土俵で塩を撒いたり。なかなか個性的な旅になったが、やはり旅はこうでないと。友人は柏原ときいて「山の神」と言っているし。
旅の途中、当然のように道の駅をハシゴし、土産を物色。友人はホイホイ買うが、私はどうせこれ使わないだろうなとか、よくあるやつだしとか思って結局あまり買わない。お財布事情的にセーブしているところもあるが、本当はもっと気持ちよくホイホイ買いたいところなのだが。
ここで私がもらった史上最高に貫かれたお土産を紹介しよう。それはふじぴーからもらった。ふじぴーは私が県庁で働いていたときの後輩で、激しく垂れ目である。私が精神に不調を来たし、数ヶ月休職して仕事に復帰するとともに垂れながら異動してきた。
それまで職場に友達といえる友達がいなかったが、ふじぴーとはすぐに仲良くなった。浜辺で焼き鳥を焼いたり、温泉街の渋い食堂に行ったり、ふじぴーがホームセンターで買ったアルミの大きな鍋で豚汁を作ったり、ふじぴーが実家から持って帰ってきたすき焼きの残りを食べたり、ふじぴーが元カノにもらったG-SHOCKをメルカリで売ってやったり、ふじぴーのじいさんが作っている可食部の少ない柑橘「晩白柚」を食べたりした。
休日にキャンプに出かけることもあり、それまで孤立していた私は素直に楽しく、救われたのだ。
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ある日、ふじぴーは神戸に出張に出かけた。雨の強い日だった。
私は早くに帰り、ごはんを食べ終え、ギターを弾いていた。風呂も済ませ、部屋の明かりを消してキャンドルを灯し、体の動き1つひとつに意識を向けるヴィパッサナー瞑想に取り組んでいた。
心を整えたのも束の間、まだ今日を終わらせたくない、明日が来てほしくないと駄々をこねる心を落ち着かせるために見たくもない動画を見始めたときだった。
海風と経年で錆びた玄関ドアがバンバンと鳴る。開けるとずぶ濡れのふじぴーが立っていた。
「これおみやげです」と手渡されたのは箱にも入っていない、食べ歩き用の包み紙にだけ入れられた半裸のマネケンワッフル1個だった。
特急で2、3時間かかる神戸からこれだけを私のために持って帰ってきてくれたのかと思うと心がポカポカしてくる。箱入りではなく、マネケンワッフル1つだけを渡せる関係なこともうれしいじゃないか。裸マネケンワッフルこそが上下も忖度も何もない友情の証なのではないか。
「トースターで温めるとさらにおいしいです」という注意書きには従わず、ふじぴーが持ち帰ってくれた温度とともに食べた。
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太い人の無益なエッセイ・日記
日常を過ごす太い人のゆるい日記、エッセイ集。がんばりすぎな人の緊張の糸を弛ませる無益な短文。
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