二度とない日々

いよいよ外出も憚られるなと思った頃、十数枚CDを買った。ライブに行けない中でも、常に新鮮な気持ちで音楽に触れていたくて。その中の1枚が私に刺さったので紹介する。

二度とない日々 | ねじ梅タッシと思い出ナンセンス

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京都を中心に活動する4人組ロックバンド、「ねじ梅タッシと思い出ナンセンス」。板前兼バンドマンというねじ梅タッシ(Vo/Gt/包丁)は、ライブで毎回、大根の桂剥きや寿司を握るというパフォーマンスをするそうだ。なんやそれ!と一見、突飛なバンドかと構えてしまうが、どちらも現役でどちらも彼自身。むしろ自然な姿であるらしい。youtubeにバンド10周年を記念したドキュメンタリーがあったので、興味がある方はチェックしてみて欲しい。→https://youtu.be/6IkvEYvBcFk

私がこのバンドに一番感銘を受けたのは歌詞である。ありのままでまっすぐな言葉、そしてかっこつけない歌い方。それがバンドの核となっていて、懐かしいサウンドが寄り添っている。

この文はレビューには及ばないが、ライブ好き一般人がどのように聴いたかを書いたものとして読んでもらえたらありがたい。

1曲目「生きてきた数」。歌い出しを聴くと、力が抜けそうになるがなぜかホッとする。誰もが羨む美声を聴かせるわけでも、超絶技巧を見せつけるわけでもない。「君」を「チミ」「僕」を「オラ」と歌う。恥ずかしがり屋で不器用なのが伝わってくるが、等身大で飾らない態度で人生賛歌を歌い上げる様に力強さを感じる。

2曲目「海へ行って」歌詞には誰もが知ってるロックバンド、彼らの盟友バンドの名前がでてくるが、ねじ梅タッシと思い出ナンセンスは、誰よりも土臭くて、誰よりも武骨。そこがめちゃくちゃいい。青春時代に感銘を受けたバンドの曲、生きる希望を見いだしたあの曲、音楽のおかげで燃えるような日々に出会えたオラが、そんな音楽をチミと語り合える喜び。舌足らずにも感じるくらいにアツく歌っている。青春時代、て書いたけど青春は年齢で区切るものでもない。彼らは青春のど真ん中を生きている感じさえする。

3曲目「夏の三角関係」はアルバムの中でも甘酸っぱさが強い曲。青春を歌う彼らの使命は、青き日の爽やかな思い出にBGMを充てがうことではなく、何も飾らずそのままの姿で、今、ここにある生き様を鳴らすことなんだろう。多くない音数でシンプルな演奏もそう感じさせる。

4曲目「赤白黄色」。タイトルにもなっている「二度とない日々 燃やしていけ」というフレーズは、仲間と肩を組んで歌っている様子が目に浮かぶ。また会えることなんて奇跡のようだ、二度とない日々を燃やせ、と、今を生きろというメッセージが詰まっているのになんの嫌味もなくて、ただ一緒に拳をあげたい気分になる。

5曲目「二十歳の約束」立て続けにお前の今を生きろといってくる。歳なんて数字で何が変わるのか、惑わされるなと。川べりで石投げを全力でやってそう。最後の歌詞「いつかみんなで時計を追い抜いて クソみたいに流されず 光の花を摘み ガラスの靴を磨き続ければ 会えない人なんていなくなるさ」こんなロマンチックな歌詞歌う!?こんなに日常を愛したロマンチストいる!?と思った。そうあれたらかっこいいよな。

6曲目「TODAY」は、2017年3月に解散した京都のバンド、THEロック大臣ズのカバー。原曲はこちら。このライブ映像とても良い。


明日が来ること、時が進んでいくことに対して前向きに捉えられる日もあるけれど、そうでない日もたくさんあるし、ずっと先を想像したら怖くて、時計投げ飛ばしたことあるよね(私はある。笑)。受け入れられなくても生きるしかない。音楽は時に生きていく勇気を与えてくれる。そんな歌だと思う。
ねじ梅タッシVerでは曲も歌詞もアレンジされていて、なかでも「何してる?どこにいる?」という最後の部分が、「10年後バンドしてる?信じてる?ロックンロールを」になっているのは印象的だ。他の曲はオラとチミについて歌っていたけれど、この曲は「オラたち」バンドマンの歌。バンドについて言いたいことはあるが、言えるほど私は彼らのことを知らないので、インタビューのリンクを貼っておく。→ねじ梅タッシ(ねじ梅タッシと思い出ナンセンス)×たなかけんすけ対談「yesterday」「TODAY!」「tomorrow」

このアルバム、どの曲をとってもバンドの味が出ていて、どの曲がリード曲でも〆でも味わい深くてヤバいと思う。ピックアップして書くべきだったかもしれないけど、さらっと行こう。

7曲目「ギザギザハート」チミへのラプソディ。ラブソング。飾らなさすぎてとても良い。
8曲目「稲妻」日々は同じように時間が流れているはずなのに、バンドに出会ったとき、恋に落ちた瞬間、そんな稲妻に打たれたかのような体験は人生に深く刻まれる。そしてそれは、何度も思い出して、何度も熱い気持ちが生まれる。初期衝動を花束にしたような曲。
9曲目「マリーゴールド」とても好き。素直で、悲しくて、共感する。これがオラたち、お前もそれでいい、ということなんだと思う。とにかく聴いてほしい。

そして、最後の曲「死ぬなよ」。バンドマンがステージを去る時をテーマにしたような歌詞。でも、後ろ向きな言葉はどこにもなくて、どの曲よりもあっけらかんと明るく演奏するから余計に泣けてしまう。

バイバイを言う時は、寂しさもあるけど、強がりもある。それなりに生きてきた数を重ねた人たちには、バイバイまたねが簡単にはかなわないことを知ってしまっている。さよならの言葉を、未練なしに力強く言えるのは、二度とない日々を燃やしている者しかいない。だが、そんな人はどれだけいるのだろう。日々を当たり前のように過ごして、漠然といつまでも続くと思っていたい、その方が楽だから。しかし、日常はとても脆く儚い。というのは、今、想像もつかなかった日々を過ごしていて改めて感じる。そんな中でも、私がなんとか絶望せずに済むのは音楽があるからである。

どんな世の中にも音楽はある。どんなに生きにくい世の中にも。ねじ梅タッシと思い出ナンセンスの歌は、目の前の日常を愛しオラとチミの行く末を願っているからこそ歌える歌だ。当たり前がどんどん崩れ落ちそうな毎日に響くのは、そんな歌ではないかと思う。

アルバムの最後の一節を引用して今回はおしまい。読んでくれてありがとうございました。

死ぬなよ友達 笑えよ友達 
死ぬなよバンドマン 
死ぬなよライブハウス
死にたくなっても死ぬんじゃねーよ

バイバイ






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