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【音楽考察】米津玄師「地球儀」を聴いた7つの気付きと考察【「君どう」主題歌】

7月公開されたアニメ映画「君たちはどう生きるか」と同時に話題になった米津玄師が歌う主題歌「地球儀」。
先週発売されたCDを購入して聴き1週間が経ち、楽曲について気付いたことや考察を語ります。
みなさんが楽曲を聴いた際の参考になればと。

※楽曲についての考察です。本編のネタバレはありません。
※ただし、鑑賞した人には作品像をつかむ手がかりになると考えます。


1.イントロから見えてくるイメージ

イントロは3種類の楽器の音(ピアノ、シンセベース、バグパイプ)
が各々の特性を出しながらハーモニーを奏でます。
①ピアノ    (音・メロ)和   (イメージ)素朴さ・郷愁
②シンセベース (音・メロ)アジア (イメージ)風
③バグパイプ  (音・メロ)北欧  (イメージ)緑・草原

各々の音・メロディーが和洋中となり混じり合い、無国籍でもあり多国籍でもある印象を受けました。
曲全体は、「郷愁(ノスタルジー)」と「異国情緒(エキゾチック)への憧れ」がテーマかと。

2.ピアノが起こす不思議な仕掛けと工夫

(1)きしむ音の正体とピアノのレコーディング状況

耳を澄ませて聴くと、きしみの音が聞こえます。
CD発売前のオンライン配信当初は「椅子のきしむ音では?」とファンの間で
ささやかれていました。CD発売後にTwitter公式アカウントから、実際は、「古いピアノの音」だと明かされました。

そして同日、Twitterではピアノ演奏者のつぶやきから、使用したピアノとそのレコーディング状況が明らかになります。
ちなみに、演奏者のアカウントを探ると2023年の1月頃に
レコーディングしたようです。

(2)不思議な仕掛けと工夫

ピアノは豪華なグランドピアノではなく、住宅で利用されるアップライト。
そして演奏者の実家でレコーディングされたものです。

このレコーディングによりグランドピアノでは出せない特有の音の魅力を
引き出しています。演出の狙いは「素朴さ」です。詳細には下記の効果があると考えます。

〇古くから使われているピアノから使い古された素朴な音が生まれます。

〇ピアノは不思議なもので借りてきた慣れない場所では新しい音しか
 しませんが、長い間、その場所で弾いていると空間に馴染みます。
 その長年の場所でしか出せない味のある音というものは存在します。
 (実家にピアノを所有している筆者経験から)

〇意図的かは不明ですが、鍵盤から離れたハンマー部分近くでの
 レコーディングにより鍵盤特有の音質の高さが軽減され、
 本体の響きと重みがより素朴さを際立たせていると考えます。

この不思議な仕掛けは、曲のイメージを際立たせるもう1つの効果を生み出しました。

〇住宅の部屋でレコーディングすることで、似たサイズの空間の響きを演出し、部屋を連想させます。
〇ピアノのきしむ音が、椅子のきしむ音を連想させます。

宮崎監督が描いた写真集表紙の絵とピアノのイメージがマッチしています。
絵が先か曲が先かは不明ですが、相乗効果の高い演出効果です。

3.表紙とMVで受けるイメージの違い

【画像参照】先述で説明した CD付き写真集の表紙絵です。

「地球儀」通常版CD付き写真集 表紙から

ある一室から窓を眺め空想しているような男の背中とその風景です。
一方で、米津玄師MVは大自然の中で自身が歌う風景と真逆のものです。
これは、実際の場所はある一室、空想している頭の中にはMVのような世界が広がっているのでしょう。
MVの風景が、日本のように見えて、そうではないかもしれない雰囲気が
無国籍で多国籍でもあるように感じられます。


4.楽器編成が少ない特殊さとその効果

この楽曲は、映画主題歌としても最近の大型アニソンタイアップ系としても
「楽器編成の少なさ」が珍しい点です。
ボーカル以外で使用される楽器は4種類(ピアノ、シンセベース、バグパイプ、ドラム)この編成により前述する「素朴さ」をより際立たせています。

特にリズム担当はドラムだけにより、サビでのリズムがハイハットは「時を刻むかのよう」バスドラムが「心臓の鼓動のよう」に音数が少ない故に聴こえる効果があると考えます。

5.パート構成がJ‐POPらしくない

この楽曲は楽器編成だけでなくパート構成も珍しいものです。

【パート構成】
イントロ→Aメロ→A’メロ→Bメロ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→Bメロ→アウトロ

通常邦楽では、Aメロ、Bメロ、Cメロ、Dメロ(大サビ)の4構成が主流な中で、3構成は洋楽に近い編成です。
最近ではイントロを省略し、最初からサビからはじまる曲が若者に支持され増えている中で珍しいことです。楽曲の特異性パート構成からも伺えます。

6.パート毎のリズムの違いを考える

パート構成の珍しさとは別にパート毎にリズムの違いがあることもこの楽曲の興味深い点です。
米津玄師楽曲は効果音の遊びやリズム遊びが多く、彼らしさでもあります。
近年の人気作「KICK BACK」でもリズムの変化が味となって現れています。

【リズムの違い(体感リズムも含め)】
Aメロ フレーズ毎に2拍休み、またフレーズがはじまる。
Bメロ BPMは同じだが、ドラムの音が入り体感のテンポが早くなる。
Cメロ シンコペーション(※)が入り、リズムが少し早足になる。

※「シンコペーション」とはメロディーが前の小節に食い込むことで生まれる躍動感

これは表紙絵イメージの空想する男の思考(脳の回転)の早さともリンクしていると考えます。

(イントロ)思考をはじめる→(Aメロ→A’メロ)想いふける→(Bメロ)想いを巡らす→(間奏)思考を一休み
→(Aメロ)想いふける→(Bメロ)想いを巡らす→(Cメロ)想いが駆け巡る→(Bメロ)想いを巡らす→(アウトロ)思考を終える 

アウトロのきしむ音とピアノの余韻が思考を終えることをイメージさせ、
劇中主題歌としてもこの音とともに余韻が終わり、幕引きとなっています。

7.何度も聴ける仕組みとその意味を考える

パート構成から、アウトロは幕引き効果があって聴き終わりを感じられますが、再び繰り返し聴いてもイントロの優しい音からはじまるため心地良い作りになっています。

何度聴いても心地よい曲であると同時に、これは別の意味を持っていると考えました。ループしてまた巡るように聴ける仕組みは、繰り返し聴くこと自体が地球儀を何周も回すようなイメージではないかと。

まさに何度も聴いている我々が「地球儀」を手にして回しているのではないでしょうか。

以上で、話題作「君たちはどう生きるか」主題歌「地球儀」の7つの気付きと考察について語りました。

まだまだ気付かない効果や演出、はたまた考察もあると考えられますので、みなさんの話のきっかけやタネになればと。
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