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都会人の田舎暮らし2静岡#223 「ありがと~!」

本日9時出勤。
軽トラで職場へ向かう。

職場到着。
今日はメイさんと一緒に中庭にある池の掃除。
水を抜いて掃除をする。

作業スタート。
まずは池の水を機械で抜いていく。
水かさが減ってきたら、池に放している金魚を網ですくい、一旦ポリバケツに入れる。
メイさんが追い込み漁でどんどん金魚をすくい、ポリバケツへ入れていく。
運動神経の良さを発揮。
一方僕は、金魚に逃げられっぱなし。
おまけにさっきメイさんに注意された池の深い部分に足を入れてしまい、泥だらけに。
「アハハ~さっき言ったでしょ~!」
豪快に笑われた。

作業中、ヘビを見つける。


小柄なヘビで可愛い。
さっき笑われた仕返しに、ゴム手袋で捕まえ、メイさんに近づける。
「危ない危ない怖い怖い!ダメでしょ~!」
仕返し成功。
あとでわかったことだが、このヘビは「ヤマカガシ」というヘビで、ハブの10倍も毒が強いらしい。
日本で一番の毒を持っているヘビらしく、もし噛まれていたらただ事では済まなかったな。

12時頃、金魚を全てポリバケツに入れ、1時間休憩へ。
今日の賄いはあんかけ焼きそば。
1人でゆっくりと過ごす。

賄いを早々に食べ終え、13時過ぎに退勤するムーランさんに挨拶。
「あ、ムーランさん、お世話になりましたありがとうございました」
「いやいやもう…寂しくなってきたじゃん…」
涙を目に浮べるムーランさん。
「3人の中で1番期待してたからさ」
同じ寮に住んでいる塩田さんとガンダムさんと僕は同じ頃にこのホテルに赴任し、特にガンダムさんはほぼ同時期だった。

「いや、最初の方、僕ムーランさんに本当に救われました」
僕がここに来た当初、ガンダムさんは仕事をよくサボっていて、その上僕に大変な仕事をさせていたみたいだ。
僕はその時気づいていなかったけど。
それを見たムーランさんが僕に、
「田中くん、ガンダムさんの言うことなんか聞かなくていいからね!田中くんはちゃんと頑張ってるのに、なんだろうねあの人!」
と味方をしてくれた。
本当に救われたなぁ。

「また遊びに来ますんでその時は連絡します。この町好きなんで」
そう言いながら僕も少し涙が滲んでくる。
「キャラじゃないなぁどうしよう」
と言いながら、もう既に涙を流しているムーランさん。
何度も握手をした。
「お世話になりましたありがとうございました」
なんとか涙を流さずに、精一杯の笑顔で挨拶を終えることができた。

お別れはいつも寂しくて、涙が出てくる。
でもその分、温かい気持ちになる。
いや、寂しくて涙が出てくるんじゃないな。
人の温かさを感じて涙が出てくるのだと思う。
僕はこれを感じるために田舎に来ているのかもしれない。

休憩後は再び、メイさんと一緒に池の掃除。
高圧洗浄機で綺麗にしていく。
僕は合間に抜けて、新人さんの送迎などをこなす。

16時頃、池掃除フィニッシュ。
片付けの途中、メイさんに書いてきた手紙を渡す。
「これ、帰ったら読んでください」
と言いながら泣きそうになったが、こらえる。
「ありがとうね~!」
嬉しそうに言うメイさん。
「みんなには書いてないので、内緒です」
「は?」
僕の言っている日本語がちゃんと理解できないらしい。
「あ、みんなには手紙書いてないので、言わないでくださいね」
「は?何?」
「あの、手紙、メイさんにしか書いてないので、誰にも言わないでください」
「は?」
頭に”?”が沢山浮かんでいるようなメイさんの表情を見て思わず笑ってしまう。
この人は本当に周りを明るくさせるなぁ。

片付けも終え、僕は敷地内をウロウロする。
7か月半。
楽しかったなぁ。
この池も、この薄汚れた階段も、屋上から見える景色も、全てが名残惜しくなる。
ここに来て、本当に良かった。
良い出会いにたくさん恵まれた。
縁に感謝。

勤務終了まで、あと1時間。
メイさんを探す。
どうやら客室で掃除をしているようだ。
行ってみる。

「何してるの?」
「掃除よ!あ、手紙読んだよ!」
帰ってから読んでって言ったのに、もう読んでる。
「あなた、字が汚いね~!」
なんでそんなこと言うねん。
そのメイさんの言葉に笑ってしまい、涙がどこかへ吹っ飛んだ。
客室でたっぷりメイさんと話す。
これで思い残すことはない。

18時に今日の仕事フィニッシュで、静岡の仕事オールフィニッシュ。
支配人に挨拶をする。
知らないところで僕はかなり期待されていたことを聞かされたり、リッチ部屋Cでの一件を謝られる。
もうそんなことはとっくにどうでもよくなっており、今は感謝の気持ちしかない。
「メイがね、ずっと田中くんのことを引き留めようとしてたんだよ」
「あ、はい、それはもうずっと直接言われてました」
「田中くんが一番仲良かったから。なんとかして、田中くんに残って欲しかったんだよ。私ももう少しいて欲しかった」
夏までに辞めるということはもう元々決めていたことだ。
次の旅もある。
こればっかりはしょうがない。
「このホテルに来られて良かったです」
「それは本当に良かった~ありがとね~」
「お世話になりました。ありがとうございました」
挨拶を終え、チャキ子さんの送迎でメイさんと一緒に帰る。

「ありがとう!」
「ありがと~!」
まるで、明日も一緒に働くかのような、いつも通りの笑顔で見送ってくれた。
メイさんはそういう人だ。

いつも元気で明るくて、その場を賑やかにしてくれる。
新人には誰よりも早く親切に教え、誰よりも仕事をし、誰よりも人に気を遣う。

でも、自分のこととなると途端にナイーブになり、自分が日本人ではないことで過敏に何かに反応したり、同僚の心無い一言に涙を見せることもあった。

メイさん、大丈夫かな。
いや、大丈夫。
メイさんのその明るさと優しさがあれば、きっと色んな人が味方になってくれる。
離れていても、僕もずっとメイさんの味方。
頑張ってね、メイさん。


明日、東京に発ちます。

#24 田舎でのラスト出勤、お別れ
https://youtu.be/6pphrOVPgjM

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