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オフィスにカフェや食堂をつくる方法と注意点

はじめに

このnoteはインハウス総務FMの担当者向けになります。サプライヤー向けではありませんが、インハウスの担当者はこんなふうに考えているという点では、サプライヤーの方にも役立つ部分はあるかもしれません。

2021年は多くの企業が働き方を見直し、今まで以上にオフィスの縮小や閉鎖、移転といった動きが見られました。フットワークの軽いベンチャー企業だけでなく、大手企業も働き方の再定義を行い、新しいワークスタイルのプレスリリースを打ち出す事例も増えてきました。

ワークスタイルを議論に欠かせないのが、リアルなコミュニケーションの扱い方。国内各社の方針や海外事例を見ていると、人が対面でコミュニケーションを行うことの重要性や、リアルな交流の場や仕掛けの設け方について議論された様子が感じ取れます。

僕が所属している企業でも、ここ1~2年のオフィスを見ていて感じるのは、やはり対面でのコミュニケーションをゼロにすることはできないということ。一口に対面といっても色々な場面がありますが、個人的にはカフェや食堂といった飲食スペースは、特に重要なのではと感じています。

ドリンクを飲みながら気分を変えて仕事ができたり、チームメンバーとランチを交えて対話ができる。会社のカルチャーを感じられるカフェで過ごす時間や、そこで生まれるコミュニケーションを通して、気持ちが明るくなる。オンラインでは読み取りづらい心の機微が分かり合えて、仕事の悩みが軽くなる。といったことが、飲食スペースでは起きやすいように感じます。

しかし、実際に「自社オフィスにカフェや食堂をつくろう!」となっても、実現への道のりは平坦ではありません。なぜなら、要件定義や実現に必要や役者を揃えるだけでも大変なうえに、工事や設計においては水回りや換気などの設備の工事が欠かせないからです。

このnoteでは、インハウスのファシリティマネジャーとして、飲食スペースの要件を定義し、実際に構築する方法と注意点についてまとめています。自社でカフェや食堂の構築を検討することになった総務人事やファシリティマネジメント担当者の役に立てば嬉しいです。

カフェや食堂の分類

一口にカフェや食堂といっても、スペースの規模や運営方法により、必要なアクションや担当者の負荷が変わってきます。オフィスの飲食施設については明確な分類がないので、サービス内容・必要な設備・コストを軸に、自分なりに整理してみると以下のとおりになりました。

ざっくりいうと、1から4に近づくほど、求められる設備やコスト、スケジュールがかかり、プロジェクトマネジメントを行う担当者の労力も増える傾向になります。

1. ドリンクバー
例えるなら、ファミレスのドリンクバーやコンビニのコーヒーマシン。ドリンクをつくって提供する店員はおらず、ユーザー自身が、マシンを操作して、ドリンクを受け取るという一連の流れを行う。

・必要な設備
コーヒーマシン用の電源コンセント。マシンによっては水回りの配管が必要となるため場合により、給水・排水等の設備。

・イニシャルコスト
マシンの購入・設置費。上記の設備に対する工事費。

・ランニングコスト
カップやドリンクポーション等の備品購入費。備品の補充、ポリタンクに貯まった排水の廃棄といった、マシンに応じたメンテナンス費。マシンを購入ではなくレンタルする場合は、レンタル費。
2. カフェカウンター
例えるなら、街中のコーヒースタンド。カウンター内にドリンクを提供するカフェスタッフがいて、スタッフがつくってくれたドリンクを受け取る。コーヒーはもちろん、運営方針によってはスムージーなど野菜や果物を扱ったドリンクを提供することも想定される。

・必要な設備
コーヒーマシンやスムージー用ブレンダー、レジなどの電源コンセント。食器・手洗い用の給排水設備。

・イニシャルコスト
コーヒーマシンやレジなどの機器購入費。上記の設備に対する工事費。設計会社や運営会社に設計・コンサルをお願いする場合の業務委託費。

・ランニングコスト
カフェ運営会社の月額費。設置したマシンや給排水設備などの保守メンテナンス費。
3. カフェ
例えるなら、フランチャイズのコーヒーチェーン店。カウンター内にカフェスタッフがいて、ドリンクだけでなくサンドイッチやスイーツなどの軽食も提供できる。直火を使う本格的な調理はできないが、併設したキッチンで温め直す程度の、出来合いの食事も提供することができる。このレベルから、いわゆる「社食」が提供できるイメージ。

・必要な設備
設置する機器の電源コンセント。給排水設備。換気設備。グリーストラップ(コーヒーなどの植物性の油だけであれば不要であることが多く、スープなど動物性の油を流す場合は必要になることが多い)など。

・イニシャルコスト
コーヒーマシンやレジ、厨房機器などの購入費。上記の設備に対する工事費。設計会社や運営会社に設計・コンサルをお願いする場合の業務委託費。

・ランニングコスト
カフェ運営会社の月額費。設置したマシンや給排水設備などの保守メンテナンス費。
4. 食堂
例えるなら、大学や病院などの公共施設にある食堂。スタッフがいて、ドリンクや軽食だけでなく、併設された大がかりな厨房で、火や油を使って調理した食事を提供することができる。

・必要な設備
設置する機器の電源コンセント。給排水設備。換気設備。グリーストラップ。防火区画に必要な設備(このレベルになると、厨房を火事に強い壁で区画するため、特殊な壁や扉が必要になる可能性がある)。

・ランニングコスト
コーヒーマシンやレジ、厨房機器などの購入費。上記の設備に対する工事費。設計会社や運営会社に設計・コンサルをお願いする場合の業務委託費。

・ランニングコスト
カフェ運営会社の月額費。設置したマシンや給排水設備などの保守メンテナンス費。

上記のように、自社のカフェや食堂で提供したいサービスと、それに必要な設備によって内容が大きく異なります。

ここからは「3. カフェ」に焦点を当てて解説を続けます。カフェのレベルをおさえておけば、下層レベルの施設づくりはだいたい対応でき、レベルの高い食堂については知識を多少応用することでカバーできると考えるためです。

カフェをつくるためのステップ

実際にカフェをつくるための要件定義や、役所との協議、設計・工事について具体的な流れを解説します。カフェの細かな仕様や設計手法といった技術的な話というよりは、自社にカフェをつくることになったインハウスの担当者が取るべきアクションをまとめています。

1. どんな場所にしたいか社内で協議する

まずは自社につくるカフェの規模や提供するサービス、どのようなに社員に使われてほしいかを考え、言語化する必要があります。すでに自社でカフェをつくっている実績があれば、それを基準として、改善したい点や現状で不要な点が分かります。

初めてカフェをつくる場合は、経営層へのヒアリングや、ときには社内を巻き込んだワークショップを行い「なぜカフェをつくるのか」「どのようなカフェにしたいのか」「カフェを通して伝えたい会社のメッセージはなにか」といった大枠の考え方を言語化することが大切です。

今後のステップで、カフェの運営会社を決めたり、場所の設計をしたりといったタイミングで、より詳細な要件を決める必要があります。そのため、まずは計画当初で、自社のカフェのありたい姿を話し合い、経営層や担当役員といった最終意思決定者と目指すべきゴールの認識を合わせておくことがステップ1でのゴールとなります。

2. 入居しているビルでカフェや食堂をつくれるのか確認する

1とほぼ同時並行で行うことになると思いますが、入居しているビル管理会社へ、入居するビルにカフェをつくることができるかを確認する必要があります。ビル管理会社に相談するのがいちばん早いですが、事前に貸方基準書を確認しておくこともお勧めです。

貸方基準書とは、ビルへの入居検討や賃貸借契約を結ぶ際にもらう資料の一部で、給水や排水などの配管を設けられる場所や、工事の進め方について書かれています。読むのに多少の知識が必要になりますが、ビル管理会社への相談前に確認しておくことで、ビルとの話し合いがスムーズになります。

また、カフェをつくるためのイニシャルコストの大部分は、ビル側にお願いする工事(B工事)の費用となります。今後の予算取りのために、この段階で概算見積をお願いする、もしくは概算金額を出してもらうための必要な要件をヒアリングすることをお勧めします。

概算見積をお願いできるかどうか、概算金額を出すための必要な情報のレベル感については、ビル管理会社や担当者により見解が異なることがあるため、まずはビルの管理会社と話して大枠を掴むことが大切です。

3. カフェ運営会社を決める

カフェをつくるためには、カフェの運営会社を決める必要があります。カフェに立つスタッフの採用、ドリンクや料理の調理や提供、売上管理など、カフェの運営業務は多岐にわたり、それらの業務は外部の運営会社に委託することになります。

会社によっては、シェフやパティシエを直接雇用し、自社でカフェの運営を行う例もあります。しかし、それには多くのリソースやノウハウ、有資格者が必要になるため、カフェの運営は外部に委託するパターンが多くなります。

運営を委託するメリットとしては、設計段階において社内要望をどのように実現できるかを運営の専門家として一緒に考えてもらえたり、この先で必要になる営業許可証の申請といった役所との協議もお願いすることがあげられます。

ここからは、運営会社を決める流れを説明します。

すでにお付き合いのある会社にお願いするということもあると思いますが、付き合いがない場合、一般的にはコストと品質、サービス内容が自社とマッチする会社を選定するために入札を行うことになります。入札では、「こんなカフェを作りたいと考えていて、こんな提案をしていただけませんか」ということを伝えるための入札要項書を作成し、指定した期日までに提案書や見積を受領し、社内で選定するというのが一般的な流れになります。

入札要項書に書くべき内容をまとめてみましたので、必要に応じてご参考ください。

1. プロジェクト概要
オフィスの住所/面積/階数、設計・工事スケジュール、オープン希望日など。

2. 自社情報
社員数、男女比、国籍、ハラルフードメニューが必要かなど特殊な事情など。

3. ファシリティ要件
カフェをつくろうとしているエリアの面積、想定している客席数、カフェを通して伝えたい自社のメッセージ、特定のエスプレッソマシンなど設置したい機器があれば。

4. サービス要件
提供したいドリンクや料理の種類と数量、営業時間、社員への提供価格、決済方法など。

5. 提示いただきたい資料
→飲食運営に関わる運営コスト、運営やメニューのご提案、過去実績、設計コンサルティングに伴うコンサルフィーと業務スコープなど。

6. その他
図面やオープン前のオフィス要件といった機密情報を伝えるにあたり守秘義務に関する事項や、支払い条件などを必要に応じて記載。

声をかける運営会社の候補は「社食 運営会社」などで検索すると、いくつか候補が出てくるので、是非探してみてください。個人的に実際にお願いしていて良いなと思う運営会社の担当者さんとお繋ぎすることもできますので、Twitterからお気軽にDMください。

4. 厨房機器メーカーを決める

カフェに設置する厨房機器を決めるために、厨房機器メーカーにもプロジェクトに参加してもらう必要があります。カフェの運営会社は、スタッフの手配と食材の調達・販売といった運営をしてくれる存在ですが、一方、厨房機器の手配や設置は、厨房機器メーカーに依頼することになります。

厨房機器メーカーにお願いすることとしては、厨房機器の選定や、厨房機器の設置図面作成、消防署との協議、運営後の機器メンテナンスなどがあげられます。厨房機器の電気容量により消防署の承認をもらう必要があり、そういった役所との協議をサポートしてくれる存在でもあります。

厨房機器メーカーを選ぶ際は、運営会社から紹介してもらうのが最もスムーズです。運営会社とすでに付き合いがあるので、運営会社と厨房機器メーカーの連携が取りやすいといったメリットもあります。

とはいえ、発注担当者としては実務上はもちろん、比較検討を通して知識の引き出しを増やすためにも入札はしておきたいもの。入札をしたい旨を運営会社に相談して複数メーカーを紹介してもらうか、「厨房機器メーカー」と検索して出てくる主要メーカーに問い合わせることも有効です。

5. 設計会社を決め、カフェの設計を進める

新しいオフィスをつくっている場合は、すでに設計会社がプロジェクトに参加していることが多いため、その設計会社にカフェの設計をお願いをすることになります。

既存のオフィスを改修する場合は、付き合いのある設計会社に声をかけて、カフェの設計をお願いをすることが一般的かと思います。設計会社に依頼をするメリットとしては、業務委託契約内容にもよりますが、専門知識が必要な建築・電気・空調・給排水設備の要件を取りまとめてくれたり、自社のデザイン要望をカフェの空間設計に落とし込んでもらたりといったメリットがあげられます。

この段階で、カフェの運営会社と厨房機器メーカー、設計会社がプロジェクトに参加することになります。ここからが、インハウスの担当者としては最も精神と体力を試されるところ(そして最高に楽しい部分!)。各社の専門性を発揮してもらい、それらをバランスよく取り込み、カフェのありたい姿が具現化されるためのコミュニケーションの場をつくることが求められます。

例えば、設計会社は言葉のコンセプトを空間デザインに落とし込むことは得意です。一方で、カフェ営業時の効率的な動線や厨房機器の使われ方といった運営面を設計に反映するのは、得意ではありません。設計会社は、運営の専門家ではないからです。

具体的には、「コーヒーよりも提供時間のかかるエスプレッソをどうしても出したいなら、この部分の客席を削って、行列を捌けるスペースを確保する必要がある」「スチームコンベクションを置くと、電気容量が増えるため防火区画が必要になり、今の予算では難しい」という会話をしながら、3者を交えて設計を進めることで、デザインと予算、運用面のバランスが取れたカフェをつくることができます。

6. 役所の窓口に行く

カフェをつくるには、所轄の保健所と消防署へ行き、図面の確認や相談をする必要があります。ある程度の図面ができているこのタイミングで行くことになりますが、特に保健所については見解により設計の手戻りが発生することがあるため、早めの相談をお勧めします。

以下に、保健所と消防署での相談にあたり、行く理由と準備しておくべき情報や資料をまとめます。

■保健所
何のために行くの?
→カフェの営業許可をもらうため。営業許可の申請のために、事前相談や営業許可申請をしたり、オープン後の保健所検査の日程を調整したりする。

相談にあたり準備しておくもの
→図面(カウンターの仕様やスタッフ控え室の位置など営業形態が分かるもの)、カフェの営業時間、運営が委託かどうか、スタッフのトイレ位置など。

■消防署
何のために行くの?
→避難計画や、設置する厨房機器の台数や仕様にあわせた計画になっているかどうかを確認してもらうため。

相談にあたり準備しておくもの
→図面、厨房機器のリスト、厨房機器の電気容量など。

役所との協議については、運営会社や厨房機器メーカーのみで進めたり、必要に応じて発注者が同席して行うことになります。協議の回数やタイミングについては、カフェの要件により変わってくるので、運営会社や厨房機器メーカーと事前に計画を立てておく必要があります。

7. 施工会社を決める

カフェの設計が70%ほど終わり(この時点で100%だと素晴らしいけど、スケジュール的に多くのプロジェクトでそれは夢に終わる)、実際に工事をお願いする会社の選定になりますが、たいていは以下の2種類の会社にお願いすることになります。

B工事会社
カフェや食堂をつくるためには、ビルの既存設備をいじる必要がある。たとえば、換気設備や給排水配管工事などで、これらはビルの指定工事会社でなければ工事できないことが一般的。B工事施工会社はビル管理会社、もしくはそこから指定される会社がこれにあたる。

C工事会社
施主が自由に選んで依頼をする工事会社。上記のビル設備ではなく、施主が自由に工事をして良い部分の工事をお願いする。入札や相見積もりを取り、質や実績、提示金額などのバランスをみながら最適な会社を決めるのが一般的な流れ。

カフェをつくる工事では、ビルの指定工事会社でしか触れない設備を工事することが多く、B工事会社にお願いすべき工事が半分以上を占めます。C工事としては、ビルと協議のうえC工事で行うことになった内装工事(床材の施工や、天井・壁の塗装など)や、厨房機器や家具の納品、電話・インターネット回線工事などがあげられます。

この段階では、誰がどの工事を行うといった工事区分が決まっており、各工事会社への精緻な見積依頼ができるので、見込んでいる予算と見積金額を突き合わせたうえで、工事会社と金額交渉を行えるタイミングになります。

8.オープンのスケジュールを決めて、工事を見守ったり備品を納品したりする

この段階までくると設計が終わり、実際の工事がすでにスタートしていることかと思います。現場で大きな問題がなければ、工事会社の提示スケジュールで工事が終わるはずです。

具体的なスケジュールも見えてくるので、オープン日を確定させて、社内に正式アナウンスを流すといったことができます。工事や検査後は、運営会社が必要な備品を納品したり、カフェのスタッフさんたちのトレーニングなどを現地で行い、いよいよオープンです。

カフェをつくるうえでの注意点

ここまででオフィスにカフェをつくるための大まかな流れを説明しましたが、いくつか注意点もあります。実際に発注者の立場で、カフェや食堂を含む新規オフィス構築のプロジェクトマネジメントをしてみて「これは注意したほうが良いぞ」と感じた5点をまとめておきます。

1. 厨房機器の電気容量が23kwを超えると結構大変

マンションなどの共同住宅を除く高層建築物では、「最大消費熱量の合計が23kwを超える、電気を熱源とする設備器具は防火区画された場所に設置しなければならない」というルールがあります。

防火区画とは、耐火構造、準耐火構造の壁や床、防火設備、もしくは特定防火設備などで炎を遮るように作られ、一定時間の耐火性が要求される区画のことをいいます。発注者への影響としては、スペースをつくるための工事費が上がり、工事スケジュールも長くかかります。

電気容量23kwは、エスプレッソやコーヒーマシン、業務用冷蔵庫、オーブンなどの機器を積み上げていくと、思いのほか簡単に超えてしまう数値なので注意が必要です。

最近では、運営会社の外部工場でつくられた出来合いの料理を使い、現地では調理をせずに温める方式でも、クオリティの高い食事を提供することができます。そういった運営会社の特性を活かして、設置する厨房機器を減らし、電気容量の合計が23kw以下にできれば、費用とスケジュール面で有利になります。

なお、この23kwルールは、建築基準法などの法律ではなく、東京消防庁の過去の通知、通達から設定された審査・検査基準だそうです。3年ほど前ですが、法的根拠が分からず消防官に質問を重ねたことがありましたが、根拠を探れば探るほど闇に入っていき、「これはもう心を無にして受け入れるしかない」と悟ったのは良い思い出です。

2. 給排水の配管位置は、設計当初でよく検討する必要がある

スタッフがドリンクを提供するカフェカウンターや、料理をするための厨房をつくるために必要不可欠なのが、給水や排水といった配管です。ビル管理会社と相談のうえ、カフェをつくろうとしているフロア内の最適な場所から給排水の配管を引っ張ってくることになりますが、このときの位置決めには注意が必要です。

一般的に給排水の配管を設けるとき、床の高さを上げて、床下に配管を通すします。さらに、排水管は水が流れやすいように水平ではなく斜めにする必要があり、それに伴い床の高さも高くなります。床を上げるためには費用もスケジュールもかかるため、床上げを最小限に抑えられるように給排水の配管の検討が重要になります。

なお、床下ではなく天井に給排水の配管を通すこともできますが、その場合は水を天井に揚げるためにポンプ式の機械を導入することになります。床の高さを上げなくて済むというメリットがありますが、機械音が多少したり、ポンプ式の機械が油に弱いというデメリットがあります。

後者については特に、コーヒーなどの植物性の油を流す分には良いものの、スープなどに含まれる動物性の油を流し続けると、機械の故障につながることがあります。そのため、運用面を考えると、重力に逆らわず床下に配管を通すほうがベターだと個人的には思います。

3. 客席に手洗い場が必要になることがある

一般的に、飲食店営業許可を取得するための設備要件として、客席側に手洗い器を設置する必要があります。街中のカフェでも「なんでこんなところに?」というレベルで、客席側の小さな手洗い器を見かけることがありますが、まさにそれです。

手洗い器自体は小型のもので問題ないので、スペースはそれほど取りませんが、客席側に給排水の配管をもってくる必要があるので工事の手間がかかります。2つ目の注意点で解説したとおり、手洗い器の位置によっては、床下配管用の床上げも必要になります。

多くの方が利用することになる客席側は、バリアフリーの観点からも床の段差はなくしたいものなので、実際に設ける位置には注意が必要になります。

さて、この実際にはあまり使われることのない手洗い器ですが、保健所との協議次第では無くすこともできます。共用トイレに手洗い器がある場合は、それを客席側の手洗い器とみなすことができるという解釈ができるためです。

ただし、これは所轄の保健所や、さらにいうと担当者レベルでも見解が変わることがあるので、運とタイミング次第という切ない側面もあります。消防署もそうですが、担当者が「やれ」と言うのならば、やるしかないです。そのときはもう「さすがお役所!そこにシビれる!あこがれるゥ!」と割り切るしかありません。

4. 営業時間外の侵入者防止対策を考える必要がある

保健所との相談時に必ずといっていいほど念押しされることですが、カフェの営業終了後は、カフェカウンターや厨房内に人が入れないように対策する必要があります。不特定多数が入れてしまうことで、料理への異物混入や雑菌繁殖のリスクが高まるからです。

具体的な対応方法としては、カフェカウンターにシャッターを設けたり、厨房に鍵を付けたりといったことが考えられますが、特に前者はデザインが損なわれることもあるので、設置方法を設計会社とよく検討する必要があります。

コロナ以降は衛生面での観点が特に厳しくなっており、保健所との事前相談時には、受けた指摘を理解し、具体的な対策をする必要があります。保健所によるオープン後の現地検査の際に「あのときの打合せ内容と違うじゃないか」となっては目も当てられないので、慎重に進めるべきポイントです。

5. 厨房外で、スタッフが料理を提供するのはハードルが高い

料理を提供する場合、たいていは厨房に設けた窓から、スタッフが提供することになります。スタッフがごはんをよそって社員に提供できるのは、あくまで厨房やカフェカウンター内のみであるという考え方です。

カフェの規模や社内要望によっては、厨房ではなく、客席でスタッフが料理を提供することが求められることもあるかと思います。しかし、運用面での課題もあるため注意が必要です。

前提として、食品衛生法における飲食店営業許可を取得していれば、提供場所を客席側に設けることができます。ドリンクを提供するレベルのカフェであれば、飲食店営業許可を取得することになるので、たいていのカフェが法的にはクリアできることになります。

ただし、実際に客席側で料理を提供する場合は、一部の厨房機器を客席側に出すために専用の電源が必要になります。営業終了後は、衛生面から厨房機器を客席にむき出しにしたくないので、可動式の専用什器をつくるといった費用も発生します。

また利用者の動線や行列スペースの設け方、スタッフの提供オペレーションが効率よくできるかといった運用面からも、よく検討する必要があります。このあたりの設計は、運営会社の強みになりますので、まずは運営会社と協議しながら計画していくのがお勧めです。

おわりに

以上、オフィスにカフェや食堂をつくるための流れと注意点について、自身の勉強も兼ねてまとめてみました。万が一、間違いなどあればご指摘ください。

総務FM業界をこの先、一緒に盛り立ててくれる皆さんの役に立てば嬉しいです。それではご安全に!

いただいたサポートでボールペンの替え芯などを買いたいと思います。ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。