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「映画かよ。」の解説かよ。 Ep40 ファムファタール|あ、まさに…

2023.2.28 update
(写真は全て駒谷揚さんから提供)

 3シーズン目に入っている、駒谷揚制作・監督によるYouTube短編映画シリーズ、「映画かよ。」。Ep40「ファムファタール」が配信されている。

Ep40 ファムファタール

 映画オタクが欲しがるものを何でも探してくる調達屋、スズカ(佐々木しほ)は、付き合っていた樹里(枝ちなみ)と別れた。新しい恋人(中井健勇)といちゃつく樹里の姿をさめた目で見ながらも、内心では気になって仕方がない。しかも、その恋人が007シリーズしか観ないことが分かり、さらに気に食わない。二人の仲を何とか邪魔したいスズカは、父親で、世界で作られた映画を全て観ている南雲(神崎孝一郎)に、むかつくカップルを別れさせるのに役立つ映画がないかと尋ねるが、元恋人を破局させて復縁を企てる話は、ほとんどが失敗に終わると諭される。自身もスズカの母とうまくいかなかった南雲からは、自らは実行できなかったという秘策を授けられるが、それを古臭い昭和な計画で、今なら犯罪だと一笑に付す。しかし、思い詰めたスズカは、ある行動に出る。

シーズン1から要所要所で登場し、物語をいい塩梅にかき回してきたスズカ。シーズン3の特徴の一つ、「バイプレーヤーの背景が掘り下げられる回」で、スズカというキャラクターと演じる俳優の佐々木しほの魅力が全開となる。

 これまで数々のエピソード、ミノル(伊藤武雄)やアミ(森衣里)に頼まれて、いろいろなものを調達してきたスズカは、客が満足すれば渡すものは本物でなくてもいいという考えの持ち主で、「たかが映画でしょ」と客をあしらい、人を悪事に引き入れ、利用し、陥れるのも厭わぬ、見た目も態度もクールな人物。実は映画鑑賞の権威、南雲の娘で、映画の英才教育を受けてきたため映画知識は誰よりも豊富である。しかし極端な趣向を押し付けられたせいか、好みには偏りがある。その人物像はエピソードのみならず、モキュメンタリー「Ep 20.1『花とスズカ 』」、1分動画でもまったくブレることはなかった。それが今回、感情が揺さぶられ、もろさも露呈することになるのが何といっても今回の見どころだろう。佐々木がスズカというキャラクターの振り幅の大きさを見せつけ、観客をどっぷりと感情移入させる。

スズカ/佐々木しほの魅力が全開

 今回は、ブライアン・デ・パルマ監督作「ファムファタール」のスローモーションで撮られたラストシーンのオマージュがある。こうしたスローモーションや真上からの俯瞰ショット、スプリットスクリーンといった撮影方法は、デパルマカットと呼ばれ、彼の代名詞となっている。とはいえ、彼自身アルフレッド・ヒッチコックの作品に傾倒し、多大な影響を受けていて、撮影方法もヒッチコックの作品を参考に多く取り入れている。ただヒッチコックでさえ、映画黎明期の作品に影響を受けているわけで、映画へのオマージュ、パロディを標榜している「映画かよ。」では、オマージュへのオマージへのオマージュへの…という無限ループ構造が生まれているのが面白いところだ。

あ、まさに、ファムファタール

 デ・パルマの作品は、今回モチーフとして取りあげている「ファムファタール」も含め興行的に失敗、いや大失敗しているものも多い。それでもデ・パルマが生き残り、作品を作り続けているのは、たまに興行的に成功するので、その期待もあるだろうが、彼が作品を通して発する独特の映画への熱意が、ファンに「もっと観たい」と思わせる力になっているからだと思っている。

 例えば「ファムファタール」は非常にデ・パルマ的だと感じる作品で、ひとシーンが長過ぎたり、シーンありきで話自体は後付けでは? と感じたり、違うパターンで撮りたかったから夢オチにしている? と思わされたり。「この撮影方法を試したい」というだけで撮っているだけなんじゃないか、という勝手な印象を抱くのだが、そういうこだわりこそ映画ファンとしては気持ちをくすぐられてしまう。誰に何を言われても、期待はずれでも、裏切られても、愛おしく感じて、偏愛してしまう。謎を振り撒き、引っ掻き回し、困惑させ、結局は記憶に深々と爪痕を残していく…、「あ、まさに、ファムファタールの役どころじゃないか!」と、映画ファンは勝手に思いを膨らませるので、結果、カルト作品として語りつがれることになるのだろう。

 そういった意味で、自分がやりたいシーンや手法のオマージュをやるための短編映画である「映画かよ。」は、非常にデ・パルマ的である。駒谷監督なので、これを、「デ・コマヤ的」と呼ぼう。なるほど、そう考えると、「映画かよ。」に熱烈ファンが多いのも納得だ。ややネタバレになるが、ラストシーンにかぶせてくる「ロードハウス」がらみのエピソードがあるのだが、「ロードハウス」であることに何かしら深い意味があったのだろうと勝手に思っていたが、「ミノルがパトリック・スウェイジのファンだから」という意味しかないらしい。ファンに妄想させる力、デ・コマヤ恐るべし。

「映画かよ。」のリファレンス

【「映画かよ。」公式YouTubeサイト

「映画かよ。」ウィキペディア

駒谷監督はこんな人↓

駒谷揚監督インタビュー(Danro)

「映画かよ。」に関するレビュー↓

トリッチさんによる
カナリアクロニクル」でのレビュー

Hasecchoさんによる
「映画かよ。批評家Hasecchoが斬る。」
YouTube「映画かよ。」のコミュニティーページで展開

おりょうSNKさんによる
ポッドキャスト「旦那さんとお前さん」

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