「映画かよ。」の解説かよ。 |S2映画祭エピソード 見知らぬ乗客|トップクラスの危険人物
2022.12.29 update
(写真は全て駒谷揚さんから提供)
3シーズン目に入っているYouTubeドラマシリーズ、「映画かよ。」。今回は映画祭用に作られた「見知らぬ乗客」の配信が2022年12月31日(土)午後6時に開始される。同作はSeoul Webfestに出品され脚本賞を受賞している。
Ep37 見知らぬ乗客
友人のハスミン(新太シュン)から「拳銃がほしい」と相談を受けるミノル(伊藤武雄)。話を聞くと、電車で乗り合わせたサイコフェイスの男、飯塚(勝又啓太)から交換殺人を持ち掛けられたという。自分は冗談だと思っていたが、相手はどうやら本気らしく、身を守るために拳銃がほしいということだった。ミノルとアミ(森衣里)は、真相を確かめるために飯塚に会うことに。
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おなじみトラブル持ち込み系
「映画かよ。」では、おなじみの「ミノルの友達がトラブルを持ち込む系」のコメディー。証言者によって話が食い違い、想定外のことが次々と起こる、ちょっとダークなテイストの展開は、フィルムノアール映画や「羅生門」「ユージュアルサスペクツ」を思い起こさせる。シーズン3に先行して撮影された一本ということもあって、シーズン1、2の主演の一人、乙村(谷口亮太)の登場がファンにとってはボーナス。
あれは映画だからね!(ややネタバレ)
ハスミン役、新太シュンの顔演技と、とめどない被害妄想に取り込まれていく演技の絶妙さに笑いが止まらない。だが、ちょっと待てよ? こいつ、これまでの依頼人の中でもトップクラスで危険人物じゃないか? とよくよく考えれば気付くはずだ。被害妄想が半端ないからヒッチコッキアン(ヒッチコックのファン)なのか…。いや、ハスミンはヒッチコッキアンとして映画に影響され過ぎて、被害妄想で日常が侵食されているのだ。映画を愛するミノルでさえも、「あれは映画だからね!」「こんなこと言いたくないけどさ、お前、映画見過ぎだよ」と釘を刺すレベル。ある意味、ダークサイドに落ちたミノルにも見えてくる。
映画がなかったら、どうなっていたか…
この話を見て、是枝裕和監督のことを思い出した。以前、インタビューした際に、大学時代は授業に出ずに映画館に入り浸る日々を送っていたことを語ってくれた。映画館でよく顔を合わせる学生と知り合いになったが、学校には友達はおらず、もし映画がなかったら、どうなっていたか…。そんな話をしたと記憶している。
スティーブン・スピルバーグ監督の自伝的な映画「フェイブルマンズ」では、映画に夢中になった少年が、映画で人生を切り開いていく姿が痛快に描かれている。大ファンなので、これまでいくつも彼に関する本を読んできたが、その印象では子供時代は運動が苦手な冴えないオタクで、映画ではちょっとカッコよく描きすぎじゃないの? と思ったが、いずれにせよ映画に没頭し過ぎて創作と現実の区別がつきにくくなるタイプというイメージで、映画作りを仕事にできてよかったね、と言ってあげたいレベルだ。
ヒッチコッキアンでいえば、ブライアン・デ・パルマ監督。影響を受け過ぎて自身の映画の中で、巨匠の手法をいくつも再現している。影響を受けたものを映画で表現できたからよかったが、そうでなかったら、どうなっていたのか。
映画が好き過ぎて、そこに出てくるプロム(高校の卒業パーティー)に参加することが自分の人生にとっていかに大切かを大いに語り、周囲を説得して、高校時代にアメリカに留学を果たしたのが何を隠そう、「映画かよ。」のクリエーター、われらが駒谷揚さんだ。現実には、当時のアメリカの高校では、オタク(Nerd)は完全アウェーの状況を強いられ、目的だったプロムには参加できなかったそうだが。
そう、こうしたクリエーターたちと、ハスミンは表裏一体なのではないかと思えてくる。映画を見まくるのはいい、影響を受けまくるのもいい。ただ、それが一線を越えて日常に影響している人は、映画でしか救われないのではないだろうか。そんな人たちのために「映画かよ。」があるのは間違いない。ミノルとアミが映画から得た知恵を使って全力で彼らを助ける姿を見れば、「君はひとりじゃない」というメッセージを感じ取ってもらえるはずだ。多分。
もし映画に携わってなかったら? 駒谷さんに質問してみた。「保育士かな。子供が好きだからね」。ん…? 保育士といっても、電車に乗り合わせた乗客に交換殺人を持ち掛けられる保育士だよね?
駒谷監督はこんな人↓
「映画かよ。」に関するレビュー↓
トリッチさんによる
「カナリアクロニクル」でのレビュー
Hasecchoさんによる
「映画かよ。批評家Hasecchoが斬る。」
YouTube「映画かよ。」のコミュニティーページで展開
おりょうSNKさんによる
ポッドキャスト「旦那さんとお前さん」