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「Oppenheimer(オッペンハイマー)」感想

(注意:映画の具体的なシーンに言及している箇所があります)

 ニューヨークでは、宣伝されていた公開日の前日、7月20日に劇場公開が始まったので観てきました。

 最近、映画館はどこもガラガラという印象でしたが、公開日前日ということもあってか、チケット販売サイトで調べたところ本作は「バービー(Barbie)」(同日から公開)と並んで、ほとんどの映画館でチケットが売り切れでした。今回撮影に使われたIMAXフィルムの迫力を最も味わえると言われる「IMAX70mm」のスクリーンは、ニューヨーク市内では AMC Lincoln Squareのみ(全米でも25カ所)しかないようで、7月いっぱいの日程で調べてみても、空席がほぼない状況です(いくつかの映画館では70mmフィルムで上映もしています)。ちなみに、私は、うちの近所、ブルックリンにある小さな映画館(Nitehawk Cinema Prospect Park)の小さなスクリーンで空席を見つけて鑑賞したましたが、平日の昼3時からの上映ながら、客席はほぼ埋まっていました。

 映画は、第二次世界大戦中にアメリカの原子力爆弾開発計画「マンハッタン計画」(人類初の原爆実験、トリニティ実験)の指揮をとった理論物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーの姿を描いています。

 クリストファー・ノーラン監督は、人物の脳内に入り込み、物理の再発明を映像化したかったとインタビューで言っています(*1)。その狙いから、ノーラン監督が初めて第一人称で脚本を書いたと話題になっていましたが、実際には第一人称だけではなく、本人の主観はカラーで、他人の視点による描写は白黒でという演出を取り入れています(*2)。この主観、客観の切り替えは、物語の柱となる原爆の開発に至るまでの話と、1954年の「オッペンハイマー事件」をめぐる話という二つの時間軸を行き来する構成とも関係していて、この演出の狙いが分からない序盤は、若干混乱させられます(それらの演出の狙いは鑑賞後知りました)。

(以降、映画の具体的なシーンに言及しています)

 印象的なシーンがいくつかあります。彼を英雄と称える群衆の中に立つオッペンハイマーは、表向きは賞賛を受け入れつつも、その声はほとんど耳に入っておらず、原爆の光にさらされ、焼かれる人、そして焼き尽くされて炭のようになった死体が足元に転がる幻視を見ています。科学者として、自分が開発したものの成果を知りたいというエゴ、その成果がもたらす残酷な結果に打ちのめされるという、オッペンハイマー自身にしか分かり得ない内包する矛盾と葛藤、周囲に対して感じる疑念と矛盾。そして社会、他人から見た、あるいは彼らが勝手に思い描いているオッペンハイマー像への現実と矛盾。ノーラン監督のとった二極を際立たせる演出は、それらを表現する上でうまく機能し、一人の人間を深く掘り下げることに成功していると感じました。

 この狙いをあらかじめ知っておけば、また時代背景や人物について、もう少し知っておけば、より深く理解できたと思うので、あらためて、IMAX70mmのスクリーンで、あるいは少なくとも70mmフィルムかIMAXでもう一度鑑賞したいと思います。

(*1)
https://www.empireonline.com/movies/news/christopher-nolan-represents-physics-visually-oppenheimer-exclusive/
(*2)
https://apnews.com/article/oppenheimer-christopher-nolan-0f8c1fdc4a358decee6105cac91a90ae


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