「心の底の魂」

20歳くらいのことだったと思う。
梅田のLOFTで買い物をしていると、突然声をかけられた。
黒っぽい服装の細身で背の高い男性だった。
「あの、変な人だと思わないで下さいね。」
今思うとこの一言、本当に変な人は意外と言わないかもしれない。その時はそこまでは考えなかったけど、ただ本当に変な感じがしなかったのでうなずいて話を聞いた。
「あの、あなたは、心の底の魂の、すごくきれいな人だなと思って、それだけ伝えたかったんです」
男性は言葉をひとつひとつ丁寧に、ゆっくりとそう言った。私は咄嗟に「あ、ありがとうございます」としか言えず、男性は本当にそれだけ伝えるとくるりと踵を返して去って行った。

時々思い返しては「心の底の魂」について考えるのだけど、よくわからない。魂が心の底にあるものなのか、そもそも心には底があるものなのか。
底があるということは、心っていうのはなんかこう、入れ物みたいになってるのか?
あのお兄さんにはそれが本当に見えるのだろうか。
でももし嘘だとしたら、一体なんのために私にあんなことを言うのか?本当にそれだけ言って去ったのだからそれだけ伝えるのが目的だったんだろうし。何かの勧誘にしても効率が悪すぎる。

そしていつも、とりあえずあの男性には本当に見えたのだということにしておく。
私の心の底の魂は今でもきれいなままだろうか。あれから20年くらい経ってもうけっこう汚れちゃったんじゃないだろうか。
それだけが心配である。

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