部品が完成品に優越する知財実務

権利侵害における損害賠償額の算定基準の一つに侵害品の価格を考慮する方法がある.

侵害品の算定額を高くするために、部品よりも完成品で権利を特定するというテクニカルなことも行っている.

しかし特殊な市場では完成品よりも部品の価格の方が高くなる.

そのような市場があるなら、必ずしも完成品で権利範囲を特定することが良いとは限らない.

知財実務において部品と完成品という議論がある.

部品より完成品の方が高いという「常識」が判断を誤らせる.

意匠実務において将来の権利行使を想定した場合、どのような意匠の特定が良いのか考えてみよう.

意匠を特定する要素の一つが物品である.

物品が非類似なら意匠は非類似となり権利は及ばない.

例外として、利用関係が認められれば、非類似物品であっても意匠の権利を及ぼすことができる.

しかし利用の立証は容易ではない.
部品の意匠権で完成品に対して権利を及ぼす場合、部品を装着する場合、必ずといっていいほど、部品の一部が隠れる.

意匠は視覚性が求められるから、部品の一部が隠れ、外部から視認できない状態では、利用が認められることは難しい.

特に、意匠の要部の一部が隠れた完成品に対しては、もはや利用の主張は認められないと考えた方が良い.

ではどうすれば良いのか.
考えられる意匠の特定は以下の3つ.

1.部品の意匠権を取得する場合は完成品に取り付けられた状態を想定し、露出する部分を部分意匠とする意匠を検討する.

2. 部品自体の意匠ではなく、部品が取り付けられる完成品を物品とし、その部品部分を部分意匠とした意匠を検討する.

3. 部品を取り付けた完成品を物品とした通常の意匠を検討する.

1から3の意匠は、外部に露出する部分を以て意匠の形態を構成することができる.

したがって形態の類似は立証しやすくなる.

さらに、2と3の意匠のように、完成品を物品とする意匠では、物品類似の立証も容易なので、立証負担を軽減することができる.

意匠では、特許のように将来の侵害態様を想定しながらどのような権利を構築するべきかということについて余り検討されていない気がする.

どのように意匠を特定すれば権利行使がしやすくなるのか.
そういう視点で意匠を観察してみると、特許とは違った「技術」が必要なことがわかる.

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