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【インタビュー】ライブハウス”グレープフルーツムーン”が受けた新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響に最も苦しんでいる業界のひとつがライブハウスだ。今年で20周年を迎える東京・三軒茶屋のGrapeFruitMoon(以下、グレフル)は、3月以降ほとんどの公演を中止。クラウドファンディング、グッズ販売、レストラン営業、Uber Eats、無観客ライブの配信など、あらゆる手段で対策を講じて、ライブハウスと従業員を守り続けている。店長の河邉健吾氏に、これまでの取り組みと今後の見通しを語ってもらった。

※このインタビューは2020年5月下旬に行ないました

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――グレフルはいつからライブを止めたんですか?

河邉:2月の終わりに止め始めて、3月も出演者が希望した場合はやったんですけど、実際3〜4本だけでした。4月以降は完全にストップしているので、実質3月からはほとんど止まっている状態です。

最初は1カ月くらいで収まると思っていたんですよ。だから3月に中止になった公演も、4月後半とか5月とかに延期して、振替日程のアナウンスまでしていたんですけど、全然状況がよくならず、3回延期になった公演もあって。世情が変わるたびに対応していたので、その連絡が大変でしたね。延期を繰り返していても仕方ないので、いまは完全にストップしています。

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――中止した公演の日は売上ゼロになるんですか?

河邉:イベント主催者さんやアーティストさんに事情を説明して、会場費の半額だけお支払いいただいたケースもあります。その代わり振替公演は半額でやりますという感じですね。だから次にやるときの会場料を半額分、先払いしてもらっている状態です。

――実質キャンセル料は取っていない。

河邉:そうですね。そこはライブハウスによって、いろいろ事情があるでしょうし、正解はないと思うんですけど、ウチは手元のキャッシュが少なかったので、そういう相談をさせてもらいました。みなさん「全然いいよ」って協力してくれて、本当に助かりました。

――家賃の減額交渉もしたんですか?

河邉:通常のまま払っています。やっぱりライブハウスって、あまりいい目で見られていないので、そういうお願いもしにくいんです。ヘタに話すと出ていってくださいと言われかねないと思ったので、家賃は滞りなく払うようにがんばっています。

――じゃあ、固定費は変わらず?

河邉:はい。スタッフの給料も、基本的に変わらず払っています。固定給は3〜4人なんですけど、時給の人にも平均それくらいは働いていたであろう金額は出すようにしていて。ただ、時給の子は一回も出社していないし、子供がいるスタッフにはテレワークをしてもらったり、PAの子は仕事がなくなっちゃうので事務作業を手伝ってもらったり、どうしても仕事がない期間が出てきちゃうので、自分の感覚で戻せるようなら戻してほしいという話はしました。だから、いちおう契約通りの額面を払っているんですけど、スタッフが気を遣って戻してくれています。僕のほうから減額しますとは言えなくて。

――逆に言ってもらったほうが返しやすいですけどね(笑)。

河邉:そうですよね……。でも、それをなんとか回避するためにクラウドファンディングをやったので、そこはどうしても払いたいんです。だからクラウドファンディングでいただいたお金は、なるべく従業員とか、お世話になってきたフリーのPAさんとかに還元したいと思ってて。リターンを発送するときも、フリーのPAチームにPAのときと同じ日当で手伝ってもらいました。

実際、クラウドファンディングのおかげで、店の維持費とスタッフのお給料がちょうど支払うことができた感じなんです。僕はこの3カ月、完全に無給状態なので、貯蓄をくずして生活しています。

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――雇用調整助成金は出るんですか?

河邉:そこはまだ手を付けられていなくて。税理士さんにも相談したんですけど、素人が書類を作るのは難しいらしく、難色を示されています。ただ、持続化給付金は入金されました。東京都の感染拡大防止協力金は申請したんですけど、まだ入ってないですね。

――クラウドファンディングは、いつから始めたんですか?

河邉:3月の終わりには立ち上げてました。もともとクラウドファンディングには、あんまり前向きじゃなかったんですよ。無医村に医療機関を作りますとか、途上国に学校を建てますとか、そういう大義がある人が使うものだと思っていたので。でも、そんなこと言ってる場合じゃないなと。だから単純に支援してくださいというクラウドファンディングじゃなくて、グッズを作成して買ってもらう形にしたんです。

――実質通販みたいな。

河邉:そうですね。寄付してもらうというよりは、商行為のなかで物を買ってもらいたかったんです。ちゃんとTシャツもデザインして、使えるものを買ってもらって、営業できないなかでも、なんとか赤字にならないように、スタッフの給料を捻出できないかなって。その結果、たくさん買ってもらえて、それで3〜4月は目処が立ったので、本当にやってよかったなと思います。

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ただ、クラウドファンディングはいつまでも続けられるものではないし、終了しないと入金もされないので、5月24日で終わりにしました。6月末に入金される予定なので、資金繰りとしては7月の支払いに使う感じですね。

――そういうタイムラグも計算しないとですね。

河邉:どこのライブハウスも一緒だと思うんですけど、基本的に現金商売じゃないですか。お客さんを入れて、その都度キャッシュが入ってくる。でも、クラウドファンディングやECサイトの売上は、入金までにラグが出る。だから、いまは8月のために6月に何をするか考えています。7月にお客さんを入れられるようになればいいんですけど、それを期待するわけにはいかないですから。

――6月はどうするつもりなんですか?

河邉:配信ライブの環境を整えたので、いまはそのブッキングをしています。機材を揃えるのも大変でしたけどね。そんなに実験できる余裕もなかったし、カメラもけっこう大きな金額だし、でも買わないと何もできないし。買うと決めてからも、今度は何を買うかで悩んで。

時間はかかったんですけど、ようやく準備が整ったので、アーティストに声かけを始めています。あと、グレフルは料理を出せるので、ブッキングできなかった日程はレストラン営業をしています。

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――配信のプラットフォームは、どこを使うんですか?

河邉:基本はYouTubeで無料公開か、(2020年6月30日まで手数料無料の)ツイキャスのプレミア配信でチケットを買った人に見てもらうかで、使い分けていますね。

――最近はZAIKOを使う人も多いですよね。

河邉:ZAIKOも調べたんですけど、けっこう手数料が高かったんですよ。確実にチケットが売れるアーティストならZAIKOでもいいと思うんですけど、比較的若めのアーティストは無料公開して、プロモーション重視のほうがいいのかなと思っています。

――ハコの売上はどうするんですか?

河邉:いまのところは、チケットや投げ銭からの収益を折半やパーセントで分けるのが、いちばんわかりやすいやり方かなと思います。それに、最初に配信ライブをやったときに、20時からツイキャスでやりますと告知して、チケットも販売していたんですけど、冒頭から機材トラブルでできなかったんですよ。本当にその時のアーティストさんやお客さんにはご迷惑をおかけしてしまいました。そこは経験が足りませんでした。

だからチケットがたくさん売れたからといって、大手で喜べないんですよね。会場のキャパが関係なくなるのは夢があるなと思うんですけど、できなかった場合のリスクも考えなきゃいけない。トラブルが起きたときもそうですけど、もし対価に見合わない配信になってしまった場合、どういうリスクがあるのかわからないので。

――無料なら「無料だからしょうがない」と思えますけど、お金を払っていたら違いますもんね。

河邉:だから価格設定も、通常のライブと同じでいいのか、配信なら下げたほうがいいのか。ライブを見せるという意味では同じだしとか、いろいろ捉え方があるじゃないですか。ちょっと難しいなって。

――いまは手探りでそのへんを。

河邉:そうですね。影響力のあるアーティストにやってほしい気持ちはあるのですが、それをうまく配信して、お客さんもアーティストも納得できる音や映像にできるのか。

いまはお客さんもライブに行けないから、配信でも見たい欲はあると思うんですよ。多少クオリティが低くても。でも、ライブハウスでやっている配信なのに、音や映像のクオリティが低かったら嫌じゃないですか。そこに多少お金を投下してでも、なるべくクオリティのいい状態に持っていきたいと思っています。

――カメラは何台入れてるんですか?

河邉:いまは3台ですね。生でスイッチングできるようにして。あと、お客さんとある程度のコミュニケーションがないと、収録と変わらなくなっちゃうので、出演者の手元にもパソコンを置いて、チャットを見られるようにしたりしています。

――じゃあ、それなりに設備投資をして。

河邉:そうですね。かなりいいクオリティまで持っていけたと思います。あと、去年PA卓を買い替えたんですけど、以前よりいいミキサーにしたので、それも功を奏したなと。音もいい状態で録れていると思います。

――グレフルはステージの雰囲気も個性的だし、黒いカーテンがかかっているようなライブハウスとは差別化できるところもいいですよね。

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河邉:そうですね。ここで配信ライブができるという認知が広がって、やりたいと言ってくれる人が増えればうれしいです。そこからなんとか維持できる売上を作って、お客さんを入れられるようになるまで、いまは耐え忍ぶしかないと思っています。

配信ライブだけで黒字化させるのは、かなり難しいと思うんです。視聴者が100人でも1000人でも、同じルールで売上を分配するというわけにはいかないので。配信でやったときの適正な精算方法も、正直まだわからないんですよね。いまはまだ手探りでやっている感じです。

でも、これで平時に戻ったら、お客さんを入れると同時に配信もするとか、オプションとして選べれば、ハコの付加価値になりますよね。そういう部分は前向きに捉えられるかなと思います。

――飲食営業のほうはどうですか?

河邉:密を避けるために10人以上は同時に店内に入れないようにして、入店するときも消毒と体温チェックをさせてもらって、東京都のガイドラインに従いながら営業しています。でも、ずっとライブ営業しかしていなかったので、近所の人もレストランという認識がないんです。だから売上を見込めるような状態ではなかったんですけど、そんなこと言ってられなくて。

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――売上的に多少は足しになっているんですか?

河邉:よく出演してくれているアーティストさんとか、いつもライブを見に来てくれている常連のお客さんとかが、気にかけて食べに来てくれるんですけど、利益が出るかと言えば難しかったです。従業員の給料を支払いできるところまでは、なかなか難しい状況です。

――店を開けても赤字に?

河邉:そうですね。でも、赤字だからと言って店を閉めてしまうと、従業員はやることがなくなって、雇い止めみたいにせざるをえなくなっちゃうじゃないですか。僕はやるけどみんなはやめてくれという状態になるのは避けたいので、そうじゃない方向で考えたいなと思ってて。

――Uber Eatsもやっていますよね?

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河邉:去年から始めていたんですけど、やっててよかったなって。やり方もわかっていたし、慌てて契約するとか、ドタバタせずに済んだので。でも、そんなに注文があるわけじゃないのですが。すごい店舗数があるし、お客さんは自分の知っている店を選ぶことが多い気がします。なので、なかなかグレフルにはたどり着かないのかなと。

チラシを作って、近所の家にポスティングして、それで少しずつ伸びてきました。テイクアウトも以前はやっていなかったんですけど、始めたら近所の人が来てくれるようになって、リピートしてくれる人もいて。それは今後にもつながっていいなと思いました。

だから怪我の功名みたいな部分も少なからずあるんですよね。この先も続ければ、平時の売上にプラスアルファされる。ただ、潰れちゃったら元も子もないので、なんとしてでもいまは生き延びなきゃなって。少なくとも年内は平時には戻らないと思うので、どのタイミングでお客さんを入れられるか。そこはどこのライブハウスも同じ悩みを抱えていると思いますけど。

――そこはまわりの様子も見ながら?

河邉:そうですね。いつからお客さんを入れ始めるか、どうやって入れるか。入れられるようになったとしても、2メートル間隔とかだと10人くらいしか入れられないと思うんです。そのために受付やドリンクカウンターに人を置くとしたら、人件費がまかなえない。せめて30人は入れないと。生で見ていただきたいのは山々なんですけど、10人とか15人とかしか入れられないなら、結局赤字になってしまう。入れられるようになったから入れようぜっていう単純な話では済まないなと思っています。

――キャパの50%までみたいな話は出ていますよね。

河邉:グレフルのキャパは着席で60〜70人なので、50%だと30人強になると思うんですけど、実際この空間に30人も入ったら、それなりに密を感じるというか、怖いと感じるお客さんもいると思うんです。国や都がOKを出したとしても、本当に足を運んでくれるのか、足を運んだとしても心から楽しめるのか。来てみたけど思っていたより近いなぁとか、隣の人が咳き込んだら気になってライブに集中できないとか。考えすぎかもしれないけど、いままでのようにライブを楽しめるのか、不安は残りますよね。

グレフルは基本的に着席で、食事や飲み物を楽しみながらライブを見るスタイルなので、まだいいと思うんです。これがスタンディングが基本のライブハウスだと、もっと厳しいですよね。コロナにかかっても治るという前提がないと、インフルエンザと同じくらいの認識にならないと、お客さんは戻ってこないんじゃないかなと思うんです。

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――それがいつになるのか……。

河邉:どのライブハウスも、このままでは厳しいと思うんです。特に配信のシステムを作れていないところは。この春はプールしていたお金で乗り越えられたところも、この状況が続くと7月末、8月末には、経営的にもうひと波ある気がしています。

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