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【インタビュー】ファンクラブ運営会社と音楽事務所が受けた新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響で音楽業界は大打撃を受けているが、ひとくちに音楽業界と言っても、さまざまな業種がある。今回はファンクラブ運営会社のデータリーフ、音楽事務所のナインアップ、2つの会社で社長を務める髙橋卓也氏に、それぞれの会社で受けた影響を語ってもらった。一般的なイメージでは、ライブができなくなった音楽事務所は大きな被害を受け、年会費が軸になるファンクラブ運営会社は影響が小さいと思われるかもしれない。しかし、実際はファンクラブ運営会社のほうが、より大きな打撃を受けているそうだ。どのようなことが起きているのか、ひとつの実例として知ってほしい。

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●脱サラして起業したデータリーフ

――まず最初に、それぞれの会社について教えていただけますか?

髙橋:もともとは学生時代に自分のWEBサイトでライブレポートやCD評を書いていて、インターネット黎明期に少し人気になったんです。それでユニコーンの阿部義晴さんと手島いさむさんから「取材してみない?」とお声がけいただいて、実際に取材もさせていただいたりもしたんですが、卒業後は普通に就職したんです。

就職してからもサイトは続けていたんですけど、1999年くらいに当時ファイブ・ディー株式会社(THE BOOMなど名だたるアーティストが所属していた音楽事務所)の社長だった佐藤剛さんとお会いすることになって、「これから音楽業界は変わっていくから、君のように音楽好きで、外のノウハウを持っている人は、新しいことをやるチャンスだよ」みたいなことを言われたんです。それが25歳のときだったんですけど、若さもあってすっかりその気になり、そのとき務めていた日立製作所をやめてしまいまして(笑)。

――若気の至りというやつですね(笑)。

髙橋:それでユニコーン好きのコミュニティの仲間と一緒に作ったのがデータリーフなんです。最初は音楽業界の人材データベースを作ってまして、照明さんとかPAさんとかスタッフをデータベース化して、その人がどんな仕事をしてきたか、仕事を頼むにはどうしたらいいかなど、ミュージックマンの裏方版みたいなものを作っていました。

――だから社名がデータリーフなんですか?

髙橋:そうです。ただ、開発に時間がかかったわりには、期待していたほど買い取り手がいなくて。どうしようかと思ったときに、お師匠と呼んでいる剛さんに、THE BOOMのファンクラブを預けるから、この人材データベースの仕組みを活用して、各音楽事務所がアナログで管理しているファンクラブのシステムをオートメーション化すればいいじゃないかと言っていただいて。そこからファンクラブの運営を手掛けることになったんです。

――最初からファンクラブをやっていたわけではなかったんですね。

髙橋:そうなんです。当時、ファンクラブは音楽事務所のビジネスの要で、事務所の若手社員が担当する登竜門的な仕事でもあったので、外注するということは珍しかったと思います。それが2005年に個人情報保護法が施行されたことと、CD産業が斜陽になってきて、業界的にファンクラブ担当者を雇う余裕がなくなってきたことで、外注する事務所さんが増えてきたんです。それからは会社も軌道に乗って、この20年で累計100近くのファンクラブをお手伝いさせていただきました。

当初は僕も、ファンミーティングの司会とか、なんでもやっていたんですけど、次第に社員も増えてきて、現場から離れるようになりまして。でも、そういうことも続けたいなと思って始めたのがナインアップなんです。それでRIDE on BABYという当時10代だった兄弟バンドのマネジメントを始めて、2年ほどでプロジェクトは終わったんですけど、その後も弟のフジタユウスケのマネジメントは続けていて、シンガー・ソングライターとして活動しながら、サポート・ギタリストとしてもゆずさんや大友康平さん、PUFFYさんなど、いろいろお手伝いさせていただく機会が増えて、いまに至るという感じです。

――なるほど。駆け足で言わせてしまってすみません。いま社員は何人いるんですか?

髙橋:データリーフは15人です。ナインアップは私と2人の取締役がいるのですが、取締役はお目付け役的な感じで、実際に動いているのは私1人です。所属アーティストも一時期は数人いたんですけど、いまはフジタユウスケだけです。

――所属アーティスト1人で、みんなに給料は出るものなんですか?

髙橋:アーティスト本人が自分の分を稼いでいるだけで、僕自身はナインアップでは無給ですね。取締役2人も給料があるわけではないです。でも、ユウスケの活動をきっかけに、データリーフの取引先が広がったり、そこで培ったノウハウを他のアーティストさんのファンクラブで活かしたりしていて。うまく支え合う関係になっているかなと思います。

●仕事は増えて、売上は減った

――相乗効果が生まれているんですね。ここからが本題ですけど、それぞれの会社でコロナの影響はどのように現れてますか?

髙橋:データリーフのほうは2月くらいから影響が出始めて、ファンミーティング等イベントものは軒並み中止になりました。大きいバンドさんのツアー等も延期が続いて、その対応に追われていましたね。会社としては3月上旬からテレワークを開始して、固定電話を持ち回り制で転送したり、FAXや押印系もデータ化したり、基本的には出社しないで済むように変えていきました。ただ、返金作業とか出社しなければできないものもあったので、出なきゃいけない人は出ていましたね。

――イベントが中止になると、データリーフの売上にも影響はあるんですか?

髙橋:もちろんあります。ファンクラブでの券売に対して一定の費用をいただくのですが、先行受付や配券等の実作業が済んでしまった分に関しては、払わなくてもいいですよと言うわけにもいかず。むしろ返金等で通常よりも作業量は増えているんです。もちろん、それぞれ事情はあると思いますが、そこの調整は苦労しました。

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――ほかにも売上に影響が出たものはありますか?

髙橋:ファンクラブは主に年会費制なので、即座に影響が出ることはないんですけど、この春が更新期限だったところは、例年より継続されない方が多かったです。ファンクラブの入会動機は、7割近くがコンサートチケットを優先的に取れることなので、しばらくコンサートの予定もないし、一旦様子見しようということなのかなと思います。そこに関しては今後、料金形態やサービス内容を優先チケットに依存しないものにしていかなければいけないなと感じています。

――データリーフの収益は、会員数に応じて増えるんですか?

髙橋:パーセンテージで分けるところもありますし、会員様お一人につきいくらという形で管理費をいただくパターンもあるんですけど、基本的には会員数が多いほど売上は増えます。とはいえ、会員数を増やすために活動を増やすなどは、我々だけの力でできることではないですし、いまはこういう時期なので、オンラインでファンミーティングをしましょうとか、ツアーグッズを会員限定で通販しましょうといった提案が中心になっています。

――やはりコロナによるダメージは大きいですか?

髙橋:かなり大きいダメージを受けていますね。実は昨年末に台湾支店を作って、日本のファンクラブのノウハウを海外にも広げていく予定だったんです。1月末に台湾の有名なタレントさんと契約書を交わして、僕とそのタレントさんで握手している写真まで撮ったんですけど、その翌週くらいからコロナが一気に広がって、それ以来台湾に行けてなくて。現地にオフィスもあって、従業員も1人いるので、早く立て直したいです。

データリーフは今年20周年で、本来であれば社員旅行も兼ねて、みんなで台湾のオフィスに行って、ファンクラブ立ち上げのイベントをやろうと思っていたんです。台湾のタレントさんを日本に招聘する予定もあったんですけど、それも保留になってしまいました。

――20周年の計画まで狂ってしまったんですね。社員の待遇に関しては、コロナ前と変わらずですか?

髙橋:いまは基本テレワークで、3分の1の社員だけ出社しているんですけど、勤務時間としてはフルで働いてもらって、給与も維持しています。そのためにいろいろな融資制度を駆使したり、給付金等も申請したり、これからどう持ち直していくかが大事になっています。

――テレワークにして、仕事の作業量は減っていないんですか?

髙橋:それぞれの日報を見る限りは減っていないですね。今後に向けての開拓もありますし、返金系の業務も専属の部隊はいますけど、みんなでサポートしながらやっているので。

――言い方は悪いですけど、金にならない仕事だけ増えている感じですか?

髙橋:そういうことですね(苦笑)。やはり大規模なコンサートやイベントが再開しないと、年会費の売上だけでは、会社としては厳しいです。なので6月からはオンラインでのファンミーティングを実験的に始めてみたり、いまの状況でできることを模索している最中です。社員のみなさんにも、絵に描いた20周年とは違うけれど、これからはいままでやってきたノウハウを発揮してもらって、新しいファンクラブサービスとは何かをきちんとルール化して、提唱して、根付かせることが、いまの仕事ですという話はしていますね。

●半分以上のチケット予約がキャンセル

――その新しいファンクラブサービスの実験場となっているのが、ナインアップということですよね。

髙橋:そうですね。ナインアップは去年の段階で、フジタユウスケが某アーティストさんのツアーでギターを弾くことが決まっていて、予定では今年の春から秋まで続くはずだったんです。でも、ツアーのリハとゲネプロまでやったんですけど、延期になり、再延期になり、ついには今年はやりませんという話になって。収入も当初見込んでいたものより、大幅に減ってしまいました。

――まさにコロナの煽りを受けてしまったわけですね。

髙橋:はい。それとは別に、僕は「ときわ荘」と呼んでいたミュージシャン専用のアパート兼作業スペースの管理人もやっていて、ユウスケもずっとそこに住んでいたんです。それが老朽化で6月に取り壊すことになったので、それまでに家の中だけで完結するアルバムを作ろうと年初の段階で決めていたんです。たまたま「家にいるのも悪くない」みたいなことがアルバムのテーマだったので、このステイホームのタイミングとしてはピッタリだったんですけど、ツアーの延期が決まってからはアルバム作りを進めていました。

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それと並行して、フジタユウスケ自身のライブ活動もしていたんですけど、2月の終わりに大規模ライブ等の自粛要請が出て、その時点で3月1日に東京で、3月8日に京都でのライブを控えていたので、どうするべきかという話になったんです。どちらも大規模というほどではなかったし、本人たちもどこかが強く反対しない限りはやる方向でいきましょうと。

それで会場の方にも話したら、我々のようなライブハウスはまわし続けないとあっという間に潰れてしまうんですという事情も聞きまして、予定通り出演することに決めたんです。それと同時に、キャンセル料はいただかないので、体調に自信のない方は諦めてキャンセルしてください、お越しになる方もマスクをして、帰ったら手を洗ってくださいという基本的なガイドラインも示しました。ただ、それを発表したところ、「この時期にライブをするなんて、とんでもない!」とか、「やると言われたら私はそこに行かなきゃいけないからやめてほしい」とか、いろいろなご意見もいただきました。

――実際、お客さんは来たんですか?

髙橋:3月1日のライブはそこまで影響はなかったのですが、それから1週間で世間の雰囲気がだいぶ変わりまして、8日のライブは50%以上がキャンセルでした。もちろん、自信がなければキャンセルしてくださいと、こちらからお願いしているくらいなので、その方々にはなんの罪もないんですけど、それでも半分以上キャンセルという数字は、いままで経験したことがなくて、衝撃は大きかったです。

ただ、その日のリハーサルのときに、キャンセルした人たちも、本当は来たかったから予約してくれたわけだから、この人たちに向けてライブを見せる方法はないだろうかと思いついて、配信をやることにしたんです。本当に急遽だったし、配信機材を持っていたわけではなかったので、スマホからできるPeriscopeを使ったんですけど、Wi-Fiもなくて画質も音質もよくなかったにもかかわらず、視聴者数が5000以上だったんです。ちょっと盛り気味に数字が出るっぽいんですけど、それを差し引いても配信の研究をする価値はあるかもなと、そのときに思ったんです。

●視聴者と一緒に配信を研究

――それがきっかけで配信に力を入れることになったんですか?

髙橋:そうですね。その先も決まっていたライブがあって、中止になってしまったので、もともとライブをやる予定だった日に配信をやろう、それまでに機材も揃えて、各自配信について勉強しようと。それと、その3月8日の少し前に、都内のスタジオでリハーサルをやったんですけど、そこの雰囲気がすごくよくて、わりと自由度が高い感じで使わせていただけたんです。

そういうこともあったので、そのスタジオを配信拠点にしていこうと決めて。それで「ysk music labo.」と名付けて、ライブの代わりにはならないけど、この"おこもり"の期間にラボを作ったので、一緒に研究しましょうというコンセプトで、4月22日に第1回の配信をしたんです。

――研究というのは?

髙橋:視聴者の方々にも研究員になっていただいて、たとえばタブレットだと音質がよくないとか、このイヤホンがよかったとか、Bluetoothスピーカーがいいとか、配信を見ながらチャットやTwitterで教えてくださいとお願いしたんです。これが僕らが思っていた以上に好評いただいて、全国から見られるということもあるんですけど、普段のライブ動員をはるかに越える方々に見ていただけたんです。

――それは有料配信だったんですか?

髙橋:ツイキャスのプレミア配信で、2000円で販売しました。実際にやってみて、それなりに収支の見込みも立ったし、いろいろやりたいことも出てきたので、それから配信用のパソコンを買ったり、設備投資を増やしていったんです。配信内容も最初は実験という感じでしたけど、ギターをズラッと並べて、ギターバリスタを名乗って、日曜のカフェタイムにおしゃれっぽくやってみるとか、毎回テーマを変えて企画するようになりました。

ただ、実際にやってみて体感しているのは、みんな慣れてくるとギリギリまでチケットを買わないんですよ。配信5分前とかに、急に予約数が2倍になったりするんです。当日券も出るし、アーカイブを販売できるメリットもあるんですけど、その数が読めないから、予算を立てられない。だから事前予約をした人は安く買えるとか、飛行機みたいに空席が多いときは安く買えるとか、そういう制度も考えたほうがいいのかなと感じています。

●配信はライブの代替行為ではない

――実際に配信をやってみて、これは成功だったなと感じたものはありますか?

髙橋:最初はライブの代替行為として考えていた部分があったんですけど、ライブと同じことをやっても全然うまくいかないんです。生放送のスリル感とか、視聴者のコメントに返事をするとか、それはそれで大事にしているんですけど、少し前の配信から、前日とか当日の本番前とかに、収録ものを別撮りするようにしたら、これが存外よくて。

――何が違ったんですか?

髙橋:まず演奏の集中度が全然違いますし、たとえばギターを弾いている映像に、カスタネットを叩く映像を重ねるとか、そういうこともできるじゃないですか。これは配信ならではの醍醐味なのかなって。あと、収録を流している間は休憩できるんですよ。これが実はすごく大事で。やっぱり2時間とか生でやり続けると、ものすごく疲れちゃうんです。だから基本は生配信なんですけど、収録を挟んでいくスタイルのほうが、トータルとしていいものができるように感じています。

――他の場所にいる人とセッションしていたじゃないですか。あれは映像を送ってもらって、そのうえに重ねているんですか?

髙橋:そうです。現状の技術ではリアルタイムで同期させることは難しいので、そこは事前にやり取りをしてて。向こうから送ってもらったものを聴きながら、ユウスケが演奏を重ねています。ただ、それに対するトークとかは、ZOOMを使って生で配信しています。そこは割り切ってやっていますね。

――もうレコーディングみたいなものですね。

髙橋:そうですね。それもユウスケが『Home Sweet Home』を自宅で全部1人で完結するっていうのをやっていたこともあって、うまく対応できたのかなと思います。

――逆に配信で苦労したことはありますか?

髙橋:通常のライブとは全然違う疲れ方をすることですね。ライブハウスでやっているときみたいに、アドレナリンが出てすべての痛みを忘れられるとか、そういう感じではないんです。それは何回やっても慣れないし、気が抜けないところですね。

それと最初は参考になる情報が少なくて大変でした。なのでYouTuberとか、ゲーム実況とか、異業種でうまくいってる人の情報を参考にしました。それと配信だと、出したい音の帯域等が変わってくるので、それは何回もテスト放送をして調整していきました。

いろいろやってみて、PCのスペックが大事だなということも改めて思いました。だから自分で配信用のPCを作ったんですけど、そこからはやれることが一気に増えました。結局CPUの負荷が上がっちゃうと、固まって何もできなくなったりするんですけど、CPUの使用率が4〜5%くらいで安定していると、カメラを増やしてみようかなとか、ここにウィンドウをつけてみようかなとか、試したいと思ったことがすぐ実行できるので、そこはやっぱり大事だなと思いました。

――いまカメラは何台入れているんですか?

髙橋:いまは5台です。スイッチャーも買ったんですけど、それだと思った感じでスイッチングできなかったので、HDMIのビデオキャプチャから一旦パソコンに流して、それをOBS(Open Broadcaster Software)というソフト上で管理しています。そのほうが自由度が高くできるなと個人的には思っています。

――そういうのはネットで調べたんですか?

髙橋:そうですね。でも、スイッチャーを買って使ってみたら、こりゃダメだとか、失敗もありました(笑)。

――無駄な投資もあった。

髙橋:そういう失敗も大事かなと思います。配信に限らずですけど、いきなりできちゃうのと、試行錯誤してからできるのでは、結果は一緒でも身についたスキルは違うと思うので。だから、それをみんなに共有してもらおうと思って、仕事がなくなっちゃったPAさんや、地方で悩んでいるミュージシャンたちとZOOMでオンライン飲み会をやって、情報をシェアしてみたり。そこは自分たちだけのノウハウだとは思っていないし、全体のアベレージが上がらないと、あっという間に飽きられてしまうと思うので、みんなで高めあっていけたらなと思っています。

●配信機材への投資は約15万円

――配信機材に関しては、どのくらい投資したんですか?

髙橋:ビデオカメラ等は、もともとあったものを持ち寄ったので、新規に購入したのは1台だけです。PCもWindowsで配信専用と割り切ったので、Apple製品等と比べれば、そんなに高いものではないです。あとはPAさんから教えてもらったコンプを買ったくらいですね。

それと、オヤイデ電気さんがケーブルのサポートをしてくださって。やっぱり高品質のケーブルを使うと、音が全然違うんですよ。そういう実験も、マニアックすぎて放送はしていないんですけど、裏では撮っているんです。

――そんなこともやっていたんですね! ちゃんと買った機材としては、カメラとPCとコンプくらいですか?

髙橋:そうですね。全部で15万円くらいです。もちろん上を見ればキリがないんでしょうけど、現時点ではオペレーションする自分のスキルもそこまでないので、やれることが増えたら買えばいいかなと思っています。

――いまは1人でオペレーションしているんですか?

髙橋:たまにPAさんが手伝ってくれるときはありますけど、基本的には自分1人ですね。たとえば配信当日は、まずパソコンを立ち上げて、ネットワークの設定をして、OBSにカメラをつないで、映像の色味を合わせて、画角をチェックして、音をチェックして、それからリハーサルをして。それで配信が始まったら、スイッチングなどをしつつ、この曲は◯◯ですとかコメントを打って、ちゃんと配信が流れているかチェックするっていう役をやってます。

――もはや何役やっているのかわからないです(笑)。

髙橋:だからどうしてもミスが出ちゃうんですよ(苦笑)。でも、ライブハウスでやるときも、車を運転したり、機材を運んだり、物販したり、精算したり、当たり前のようにやっていたじゃないですか。それが長い間ルーティンワークになっていた部分もあるし、ときには後ろで腕組んでる業界のおじさんみたいになりかけていた部分があると思うんです。だけど、いまは新しいことをやらなきゃいけないし、それを早くやれるようにしなきゃいけない。そこはこの数カ月、本当にいい勉強になりました。

――今後の配信では、どんなことを考えていますか?

髙橋:これからは共演者を呼んだり、逆に他のアーティストさんの配信に出ていくことも考えています。そろそろ配信も飽和状態になって、この数カ月でそれぞれが模索して身につけた個性のぶつかり合いになってくると思うんです。それはライブハウスでやっていた対バンに近いのかなと。だから今後はそれぞれが情報交換したり、オンライン上でのお客様をシェアしたりという流れになるんじゃないかなと思っているので、どういった方と共演するのがいいか画策しているところですね。

●給食用の抗菌生地で作ったマスクをグッズ販売

――配信以外の部分で、コロナをきっかけに取り組んだことはありますか?

髙橋:グッズでマスクを作ったことですね。知り合いのミュージシャンの実家がユニフォーム屋さんをやってまして、マスクを作ってみたのでグッズにしませんかという提案があったんです。ユニフォーム屋さんなので医療用ではなくて、給食作業員や清掃作業員が使う用の抗菌生地で作られていて、学生服の名入れをやっている方に刺繍を頼んでいますと。

最初はデータリーフに話が来ていたんですけど、ファンクラブを運営している事務所の方々に話しても躊躇していたので、まずはフジタユウスケのグッズで作ってみることにしたんです。発表したときは4月中旬で、マスクが足りないのにみたいな批判もあるかと思ったんですけど、そこは医療用ではないことを丁寧に説明して、今後ライブが再開されればマスクは必須になってくると思うので、それに備えることや、個性のあるマスクを作ることは大切だと思っています、どうぞご理解くださいと。それで販売したところ、ユウスケのファンの方だけでなく、まったく関係ない方からもたくさん注文をいただくことができたんです。

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――僕も発表されたときに、これはいいなと思って調べました(笑)。

髙橋:ありがとうございます。作っても作っても即完売になるくらい好評をいただいて。いまはマスク需要も落ち着いて、ある程度の在庫も確保できるようになったんですけど、それでも売れ続けていますね。ユウスケのマスクはギターの刺繍を入れたり、いくつかデザインを用意したんですけど、そういう少し個性のあるマスクは、タオルやTシャツと同じようにアーティストの個性を出せるものになるのかなという気がしています。いまはデータリーフでお付き合いのある事務所さんも、そのユニフォーム屋さんにマスクを発注するようになって、だいぶ受注も増えたと聞いています。

●コロナをきっかけに、本来のマネジメント業務ができた

――このコロナ禍でも、かなり前向きに取り組まれているように感じますけど、いまの状況に対して、音楽事務所として感じられていることはありますか?

髙橋:実を言えば、ユウスケやサポートしてくれるミュージシャンたちの気持ちが落ちかけたときもあったんです。でも、「この期間に何をやったかで、のちのち絶対に影響が出るから、僕も勉強するからみんながんばりましょう!」「不謹慎と言われるかもしれないけど、ここは僕が責任を取るのでやりましょう!」と声をかけていました。

僕としては、この時期でもちゃんと音楽をやって、少しでも売上を立てることが、みんなのモチベーションや自信につながってくると思ったので、かなり無理してがんばった部分があるんです。でも結果的には、マネジメントとしては正しい判断だったのかなって。いまの時代はマネジメントがなくてもできちゃうことも多いので、マネジメントが雑用係的になりかけていた部分があったんですけど、お金を生み出すことや、仕事に向けて導いていくことがマネジメントだとすれば、かなり本来的な業務ができたんじゃないかなという気がしています。

実際、知り合いのミュージシャンのなかでも、4月にまったく何も発信しなかったら、心配した人からnoteの過去の記事に対して投げ銭が増えていったという人がいたんです。でも、本人的には、何かをした対価としてお金をいただくのはいいけど、何もしていないのにお金をもらえると、じゃあ何もしないほうがいいのかって考えちゃうらしくて、そういう意見もあるのかと。だから、何かして売上を立てるということを考えなきゃいけないんだなっていうのは、そのときにすごく思いましたね。

――確かに不労所得は心が病むと聞いたことがあります。

髙橋:そうなんですよ。ライブを生業にしていた人が、急にライブするなと言われたときの絶望感は、本人じゃなきゃわからないところだと思うんですけど、僕らが思っている以上だったみたいですね。いまも根本的なものが解決したわけではないですけど、特に4〜5月はキツかったんじゃないかなと思います。

――今後の見通しは、どのように考えていますか?

髙橋:1日でも早く、ライブハウスで健全にライブをやりたいとは思っているんですけど、チーム内では今後の配信のアイディアも次々と出てきているんです。だからCDを作って、ツアーに行ってという以外に、配信でおもしろいことをやりながら情報発信していくことが、ライブの代わりというよりも、もうひとつ仕事が増えたとして、成立していくんだろうなという感じがしています。

――いまは配信とグッズ販売を中心に売上を立てていく感じになるんですか?

髙橋:そうですね。ギタリストのフジタユウスケとしては、サポートの仕事も受けていきたいんですけど、いざオファーを受けて動き出したときに、現役感があるかどうかはすごく大事だと思うんです。そこで久しぶりにギターでも弾きますかとなっては、とてもお手伝いできる状態ではないと思うので、ホットスタンバイを維持するためにも、この時期でもお客様に見てもらうこと、スリリングな現場に身を置くことは、続けていかなきゃいけないだろうなと思います。

ただ、元には戻らないかもしれないなかで、元に戻ることを前提に動くのは、精神的にもしんどいと思うんです。だから、いま自分が必死になって新しくやろうとしていることが、もしかしたら業界のスタンダードになるかもしれないという気持ちを持って、それをどんどん集めていくことが大事なのかなと思います。「それいいね!」「ウチもやる!」っていうのが増えていけば、それがスタンダードになるじゃないですか。そういう意味では、いまはチャンスかもしれないなと捉えていますね。

もし、配信などに関して情報交換してくださる方、フジタユウスケと配信対バンしてくださる方がいましたら、是非タナカさんを経由してでもご連絡いただければと思います。よろしくお願いします!

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髙橋卓也/Takuya Takahashi
1974年11月8日生。東京都出身。学生時代より自身のサイトで音楽評を掲載し、当時は解散していたユニコーンの複数メンバーなどに取材。一度は日立製作所に就職するが、当時ファイブ・ディー株式会社の社長だった佐藤剛との出会いをきっかけに独立。2000年に株式会社データリーフを設立する。これまでに約100組のアーティスト・タレントのファンクラブ運営を行ない、2004年には音楽プロダクションの有限会社ナインアップを設立。現在はシンガー・ソングライター/ギタリストのフジタユウスケのマネジメントを手掛けている。
https://dataleaf.co.jp/
http://www.nineup.co.jp/

本記事は無料で公開しておりますが、もしお気に召したらご購入いただければ幸いです。有料部分には、クレジットカードでつながったタカタクさんとタナカの出会いのエピソードを掲載しておきます。お礼にもならないかもしれませんが、おまけとしてお楽しみください。

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