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父と、時刻表は旅をする

父は時刻表を読むのが好きだ。

こんなことを言うと「読む?時刻表を?」といったような反応をされそうだが、現に父は今日も時たま時刻表を開いている。

母によれば父は昔から電車旅が好きだったという。若い頃は時刻表を片手にリュックを背負って鈍行を乗り継ぎ、その足で山歩きなどよくしていたのだそうだ。去年コロナが騒がれはじめる直前には、納沙布岬だか宗谷岬だったかで極寒の冬を体験してきた。いい年してすごいバイタリティーだ。

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トンネルか何かの前で撮ったらしい写真
防寒具のせいで戦時中の亡霊みたいになっていて普通に怖い

なぜ普段から時刻表を読んでいるのか、父に訊いてみたことがある。するとこんな答えが返ってきた。

「ここからここの間にこういう名前の駅があるのかって知識が付くだろ。そしたら行ったときに土地勘が掴みやすいんだ。行ったことあれば時刻表見るだけで旅の計画立てられるし、旅行行ったような気分になるぞ」

訊いた当時はあまり意味が分からなかった。旅行に想いを馳せるなら「るるぶ」とかで観光地やら名産の情報でも見ていた方がいいんじゃないのか、と思った。

根っからの現代っ子である僕は移動となると専ら新幹線か、ケチるときでも高速バスを使うことが多かったので電車というものにピンとこないというのもあった。


話は変わるが僕は東京が好きだ。東京コンプと言ってもいい。

長らく生活拠点を東北の中心仙台に置いてきたことで、都市部かつ住みやすいもののバリエーションに乏しく、観光地とは言い難い仙台に物足りなさを感じていた。地元はドが付くほどの田舎なので憧れるとすれば一択、東京だったのである。

仙台からは新幹線で2時間、日帰りでも行ける距離で毎年一回は遊びに行くのが習慣だった。それが仕事の関係や身内の不幸、コロナと続いてかれこれ3年近く顔を出していない。今の情勢では今年が終わるまで安心して行けるのかも定かではない。

東京行きたい病にとり付かれた僕は、何を思ったか東京の電車路線図を見始めた。上野の美術館、秋葉原のオタクショップ、原宿のアパレルショップや六本木のミッドタウン。路線図上で見知った地名を見るだけで溜飲が下がる。

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なんかワクワクするのだ

まさかこれが父の言う「旅行気分」なのか…?

欲求の赴くままに開くのは、ジョルダンの「乗換案内
※出発地と目的地、経由地を設定すると便利すぎるツール。賢い旅行の友。

行く予定もないのに「この時間に出発して、この電車に乗ってこことここを回って…」と電車やメトロのルートを確認する。経由地として出てくる駅名に「そういえばここには〇〇があるからついでに寄っていこうかな」なんてことを思った。

いつか行くだろう旅を夢見て。


アナログとデジタルの違いはあれど、僕はいつの間にか父のやることをなぞっていた。今なら時刻表オタクの父の気持ちがわかる。

一人旅が好きな父の旅のパートナー・時刻表。旅の間はいつも一緒で、食事のときも風呂のときも、もしかするとトイレのときも。
時には話し相手にもなったかもしれない。そう思うと少し笑ってしまう。

今度旅行に行くときは、手垢のついた時刻表を借りていくのもいいだろう。



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