NHKアーカイブスが好きだった

　2泊3日で鳥取へ行ってきた。移住先を求めて。
　住まいを提供してくれそうな人（とその人と仲のよい人たち）に会い、また以前、鯖江で会った移動しながら人について取材記事を書いている人に会い、たくさん話を聞いた。ふたりとも、私からすると長いスパンで物事を捉えて、考えて、点を打ったり、線でつないだりしている。
　記事を書いている人は、長い旅路の中で「腑に落ちた」ことを得て、これからそれを始める。

　しかし、よくよく考えてみる。「したいこと」というのがほんとうにしたいことなのか。「したいこと」としてひとが思い描くのは、視野にある範囲での最良のものである。目の前にある枠組みのなかでどう生きるかということである。けれどもそうした枠組みの向こう側までひとははたして夢見ているだろうか。「しなければならないこと」もほんとうにしなければならないことなのか。「しなければならないこと」と、ただ思い込んでいるだけのことではないのか。
（鷲田清一「噛みきれない想い」より）

　やりたいことというより「腑に落ちること」の方が私の中でしっくりくる。「腑に落ちること」は、目の前にある枠組みより外にあるのではないかしら。枠外だから気づかなかったり、見ないようにしたりすることだけど、自分にしっくりくること。
　ま、私の解釈ですけどね。
　で、私のしっくりくることってなんだろうか。
　以前「月３万円ビジネス」（藤村靖之著）を読んだとき、どんなことをしようか考えた。遺影用の写真を撮影するとか、市販されているものを使って車のガラスの撥水コーティングを代行するとか、趣味のカメラで撮りためた写真を加工・保存・アルバム化するとか、基本、田舎の老人をターゲットにしたものばかり思いつく。
　その中のひとつに、取り壊す家の記録を残すというものがあった。老親が施設に入ったり、亡くなったりして住んでいた家を取り壊す前に、たとえば小学校から家に向かう道すがらや、家とともに廃棄されるアルバムや食器、家具を含めた家の中を撮影する。あるいは、最後に訪れた家族の様子も撮影したり、その中の会話を文字化して、写真とともに一冊の本に仕上げる。
　このときは取り壊す家の記録だったけれど、越前和紙の職人さんと話して残り少ない和紙を漉くための道具をつくっている人の記録も残せたらと思った。記録があれば、復活を目指す人が現れたときに実現できるのではないか。

　記録を残したいと思うのは、私が「思い出があれば生きていける」論者だからでもある。
　私にとって写真は記憶を引き出すためのきっかけにすぎない。写真そのものに意味はなく、記憶を呼び覚ますためのツールだと思っている。
　楽しかったこと、うれしかったこと、なんでもない日常、もうすごせない日々。時間が経つにつれ美化されていく記憶は、今目の前にある苦痛を和らげてくれる良薬だ。私のように過去に生かされている人間は、思い出がなければ今を生きられない。
　私くらい重々しく思い出を必要とする人ばかりではなかろうが、思い出の品を捨てられない人はいっぱいいる。ほかの人にとって大したものじゃなくても、本人にとっては大切なもの。
　そういうものを記録する人を必要とする人いるんじゃないだろうか。
　人の話を聞くのが好きで、思い出を大切にする私だからできること。おお、なんか腑に落ちるぞ。

昨日いろいろ聞いて考えてしたら、「私は誰かが残したいと思うもの・人をアーカイブしたい」と今朝思いました。話を聞いて聞いて聞いて、文字とともに写真やビデオに収めて記録する。
そんなご依頼、お待ちしてます。（営業）

　上記は昨日、Facebookにアップしたもの。
　ライターでありたいけれど、SEOライティングがしたいわけじゃない。モノやサービスを売るためのネット記事は書きたくない。ドキュメンタリーやルポルタージュというほど立派な取材ができるかわからない。
　でも人の話を聞くのは、たぶん得意。根掘り葉掘りするのも得意。なぜ得意かというと、知りたいから。噂のタネにしたいのではなく、ただ知りたい。「なぜ」を突き詰めたい。その衝動のまま、根掘り葉掘り聞き出そうとする。
　インタビュー記事を書けたらいいけど、そんな仕事は転がってはおらず。ランサーズで応募しても提案通らないし。
　もちろん、「アーカイブするよ」と宣言しても依頼があるかはわからないけれど、とりあえず言うだけはタダ。とりあえず言っとけ。そんな感じ。

　あ、余談ですが、たぶん鳥取に引っ越します。

---

2021年6月20日追記
鳥取へは引っ越さず、通うことにしました！
「通えるのか！？」と言う人は多いけど、どちらかひとつを選ぶことはやめたのです。福井にいる理由もあるし、鳥取へ行きたい理由もある。だったら「どっちも」選ぼうと。
ただし、デミオくんがもう高速に耐えられるカラダではなくなってしまったので、電車で行くか、誰かと一緒に（誰かの車で）行くか、乗り替えるかしないと行けない…。しばしお時間いただきます。