私の「好き」は消費させない

 いつの頃からか、「カフェ・オ・レ」は聞かなくなり「カフェ・ラテ」ばかりとなった。
 たぶんティラミスが流行った頃、イタリア料理を「イタ飯」と呼ぶようになった頃からではないかしら。

 ティラミス、好きだった。
 これまでに食べた中での一番は、赤坂にある「グラナータ」のもの。
 落合務さんが料理長を辞める頃か辞めた直後くらいに訪れた。スカンピのパスタと、大きなチーズの上で仕上げたリゾット、それにティラミス。ふたりでフルコースを食べたはずなのだが、他のお料理は忘れてしまい、覚えているのはその3つだけ。
 初めて食べたティラミスは、それまで食べたことのあるケーキすべてを消し去るくらい、衝撃の味だった。ムースでもなく、スポンジでもなく、バタークリームでもなく、チョコレートでもなく。
 上から下へスプーンを入れ、すべてを口の中へ運ぶ。最初はコーヒーとリキュールの香りでいっぱいだが、次第にチーズの味やココアパウダーとコーヒーの苦味などが一体となっていく。
 その間、数秒。
 恋に落ちるとはこういうことなのかもしれない。恋をしたことないからわからないけれど。一口で世界が一段階明るくなった気がした。息をのみ、目を見開き、気づいたら口角が上がってるような感じ。

 ブームは去り、私は東京を去り、ティラミスを食べられなくなった。今は田舎でも定番として復活したけれど、当時、田舎では消えてなくなっていた。
 そもそも、ブームの間もおいしいティラミスは数少なかった。材料や作り方は同じだと思うのに、おいしいものとそうでもないものが混在しているのがおもしろい。その差はどこにあるのだろう。
 おいしいおいしくないは個人によるから、単に私好みではないというだけの話かもしれない。

 イタ飯ブームのおかげで、エスプレッソやカプチーノを知った。
 ちなみに、カフェ・ラテとカプチーノは違うんだとか。泡立ってるかどうかだけの差ではないらしい。知らんかった。

 さて、カフェ・オ・レとカフェ・ラテの違い。
 カフェ・オ・レはドリップコーヒーベースで、カフェ・ラテはエスプレッソベース。カフェ・オ・レはコーヒーと牛乳が半々くらい、カフェ・ラテはコーヒーと牛乳では牛乳が7~8割と多め。でも、ドリップコーヒーとエスプレッソなので、できあがりは大体同じ色してる気がする。
 言葉のとおり、カフェ・オ・レはフランスで、カフェ・ラテはイタリア。本格的に表記すると「カフェ・ラッテ」かな。

 イタ飯ブームの前、ファッション誌はフランス中心だった。an・an もolive も、パリジェンヌにあこがれていた。
 パリジェンヌの暮らし、ファッション、生き方。パリに住んでる高校生の一日に密着とか。ただの高校生だってのに。
 ブランドといえば、シャネルにディオール、エルメス、ソニア・リキエル。若い子なら、アニエス・ベーやA.P.C. 、セント・ジェームス。
 いつの間にか、ファッションもイタリアへ流れ、ミラネーゼの特集が組まれるようになった。ミラネーゼになっても、ただの高校生で特集組まれてた。日本人は高校生好きだなぁ。

 今さら「カフェ・オ・レが好き」とは言えない時代。「カフェ・オ・レってなに?」とすら聞かれそう。あるいは「ああ、カフェ・ラテね」とか。
 ブームで出会い、好きになったものを好きなままでいられたらいいなぁ。タピオカドリンク(ミルクティか?)も、飲みたい人はいつでも飲めるといいのに。
 ブームがブーム終わってしまうのがもったいない。ブームの間に荒稼ぎしたい人もいるのだろうけど。で、次のブームでまた荒稼ぎ。
 消費財(タピオカドリンクのような)を消費してるだけじゃなくて、消費者すら消費されてる感覚。いいなと思う感性や、好きと思う気持ちや、それにハマっている時間とか。

 私はカフェ・オ・レが好き。カフェ・ラテもカプチーノも好きだけど、カフェ・オ・レという言葉が好き。軽やかで音楽を感じる。
 ティラミスが好き。カヌレも好き。今でも。
 リンダ・エヴァンジェリスタは、これまでで最高のモデルだと信じてる。
 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「インディ・ジョーンズ」の頃のスティーヴン・スピルバーグが好き。
 最高に好きではないけれど、ボン・ジョヴィの「Bad Medicine」「Livin' On A Prayer」「Wanted Dead Or Alive」なんかを聞くと盛り上がる。ブライアン・アダムスは、今でも天気がいいとドライブ中によく聞く。
 ドリス・ヴァン・ノッテンほど、ガツーンとくる服に出会ったことはない。(その後、服に対する興味なくなったのもあるけど)
 アーモンドアイやディープインパクトがすごいのはわかるけど、テイエムオペラオーも強かったし、ナリタトップロードは美しかったし、ステイゴールドは愛された。ちなみに私は10歳まで走り続けたハートランドヒリュが大好き!

 好きなものは好き。時間が流れ、移り変わったとしても、好きなものは好きだ。
 これからもずっと好き。




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