結婚も出産もくそくらえ

「結婚しなきゃ、出産しなきゃと思う。仲よしグループの中で私だけがまだしてない。『次はあなたの番だね』と言われる。みんなと同じでいたいから結婚、出産しなきゃ」

　私は子どもの頃から結婚も出産もしないだろうと思ってきた。こんなふうにぶらぶらしてるとは思ってなかったけれど、いわゆる人並みの人生を送るとは想像してなかった。
　両親は不仲で、私が高校2年から家庭内別居を始め、3年目に父は家を出て行った。けれど離婚はせず、母の死による死別となっている。何度か母に離婚するよう促したけれど、世間体なのか意地なのか、しないまま死んだ。
　誰かと一緒にいてこんなにも楽しくない日々を送るならひとりがいい。誰かと一緒にいるのにさびしく感じるならひとりでいたい。
　子どもも、子どもの頃から欲しいと思ったことがない。有り体に言えば、子どもという生き物がきらい。言葉が通じる、11歳以上でなければ接したくない。人間、特に女性なら子どもを見て「かわいい」と言うとみなされていることが苦痛だ。だってどこがかわいいのか、さっぱりわからないから。

　小学4年生の頃から「結婚なんてしない、子どもなんていらない」と口に出して生きてきた。「なんて」が付くくらい、私には不要なものだった。
　そもそも家族が欲しい、ひとりはさびしいという感覚がないため、結婚する必要性を感じない。いや、お金に困ってお見合いしようかと思ったことはある。あと、私の死亡保険金が絶縁した姉の懐に入るのが嫌で、それを回避するために結婚したいとは考えている。結婚の理由はそれだけ。
「私も子どもはきらいだったけれど、自分の子どもは違うんやよ」
　何度もそう言われた。それを鵜呑みにして出産した結果、やっぱり子どもはきらいでした、となったら？ その可能性をどうしてゼロだとみなすのか、やっぱり理解できない。
　いや、そもそも女性なら誰もが子どもを生むという前提を否定する。だって私はおそらく妊娠できなかったはずだから。子どもの頃、体が弱く、しょっちゅうレントゲンを撮っていた。肺炎で入院し、大量に撮影したこともある。だから体内の卵子がすべて受精不可状態にある可能性が高いと、中学か高校のときに言われた。
　子どもが好きで、将来絶対子どもを生みたいという人であればショックだったろうが、私には「ラッキー」だった。万が一、避妊に失敗しても妊娠せずに済む。レイプされても妊娠せずに済む。
　ちなみにすでに子宮は全摘出したので、年齢はともかく、絶対に出産することはない。

　結婚したい人はすればいい。それを否定はしない。だってその人がしたいことだから。
「無理だと思ったら離婚すればいいから。結婚するにあたって力になれることはないけれど、離婚することになったときには必ず手を貸すから」
「離婚することになったときのために、自分名義の通帳は必ず残しておくこと。そして少しでも貯金していった方がいい」
　これまで友だちから結婚すると告げられたとき、私は必ずこう言った。こうして書き表すと、ずいぶんなことを言ってるなぁと我ながら思う。けれど、これが私の真実。そのくらい、結婚に対して夢も希望も甘い思いもない。
　出産も否定はしない。だけど、友だちの集まりに子どもを連れてくることが嫌になったので、子連れの集まりには参加しない。私は久しぶりに会えた友だちと話すことを楽しみにしている。だけど、場は子どもに集中し、子どもの話を聞いたり、子どもの相手をしたり、子ども一挙手一投足に歓声をあげたり。つまんない。私が会いたいのは子どもじゃなく、友だちなんだもの。
　友だちに「抱っこしてやって」と言われても、絶対に受け取らない。先日、どこかで誰かに「ちょっとお願い」と渡されたけれど、そうでもなければ触らない。
　一度ならず言って白い目で見られたけれど、本音は赤ん坊よりネコの方がまし。選べと言われたら、ネコを抱っこする。

　結婚は、結婚したくてお付き合いするのだろうか。結婚する目的で人を選び、恋をするのだろうか。恋と結婚はイコールなのか？
　そもそも恋愛がわからないのだが、好きと思う気持ちや好きだから独占したいという気持ちはわかる。そこまでは、ごくわずかではあるけれど経験あるから。たぶん、一般的なものと同じはず。たぶん。
　でも「好きとお付き合い」「好きと一緒にいる」「好きと結婚」「好きと家族になる」は理解の範疇を超えている。全然わからない。好きだけじゃだめ？
　そして「好きと子どもを生む」は、もっとわからない。たまたま妊娠した、ならわかる。けれど「好きな人の赤ちゃんを生みたい」というセリフがどうしてもわからない。「好きな人をつなぎとめる鎖なのか？」と言ってしまうくらい、想像が及ばない。
　さらに「自分の子どもは特別にかわいい」も、「いや、本当にかわいいか？」と思ってしまう。見た目も行動も、あざとかったり、どんくさかったり、かわいげなどないではないか。なんて思ってみたり。

　これを私は平気で口にする。「結婚した方がいいよ」「子ども、生んだ方がいいよ」と平気で言う人がいるから。「ひとりじゃなくってよかった」「うちの子、本当にかわいい」と聞いてもないのに言ってくる人がいるから。
　好きな人がいること。結婚していること。子どもがいること。それはそれでいいと思う。その人にとっての最適解だったのだろうから。
　でも恋愛、結婚、出産が全員にとっての最適解とは限らない。「いや、結婚すれば考え変わる」「子ども生めば人生変わる」、そればあなたの場合。ほかの人にも必ず当てはまると思うなよ。
　私のように必要としてない人もいれば、結婚したい、子どもを生みたいと思っていてもできない人もいる。したくてもできないことなど山ほどある。自分ができたから全員できると思うなよ。
　そして、私のように平気で「結婚なんてクソ」「子どものどこがかわいい」と言える人もいるが、ほとんどの人は口に出せない。口に出さないから思ってないわけじゃないからな。

「あなたの番だね」
　応援の気持ちからだとしても言わなくていい。と私は思う。