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梁石日「血と骨 上」読書感想文

梁石日は “ ヤン・ソギル ” と読む。
在日朝鮮人の作家。
“ 在日文学 ” というジャンルがあるのを、はじめて知った。

とやかくいわれる在日朝鮮人だけど、個人的には悪感情はない。
というより、よく知らなかった。
16歳で家出するまで、在日朝鮮人って近辺にはいなかった。

社会に出てから知り合った在日の人達は、皆、親切だった。
これは、ただ単に幸運だったというのもある。

世代によるものも、大きいと思われる。

4世か5世になると、すっかりと日本人と同化している。
日本で生まれて、日本人として生活している。
見た目や、ちょっと話したくらいでは在日だとわからない。

なにかの拍子で、国籍が “ 朝鮮 ” となってるのを知るのだけど、本人らも隠すわけでもない。

それを明かして嫌な目にあったことも少ないのかな、・・・そこまでは聞かないから実際はわからないけど、そう思わせた。

3世だと、ときどきは悩みをチラ見えさせる。
アイデンティティの。

祖父母や両親からは、半島が “ 故郷 ” だと教えられるようだけど、さらに “ 民団 ” か “ 総連 ” に属するのだけど、それを口にする本人も、しっくりきてない様子を見せもする。

2世になると、最初に日本に来た1世ともども日本人を敵視してるし、こっち側も盛大に差別していただろうし、そうなるのだろうなとは思う。

朝鮮学校の連中が怖かったとか、朝鮮人に騙されたとか、ひどい目にあったとか、度々はわるく聞きもしたけど、よくよく聞いてみると、ほとんどが2世の時代のことになる。

そんな極めて浅い理解と経験しかない自分が、はじめて “ 在日文学 ” というのを読んだ。


梁石日の父をモデルにした小説

作者の梁石日は1936年(昭和11年)生まれ。
在日2世になる。

父親が1世となる。
その父をモデルにした小説だという。

で、読みはじめて気がついた。
すっかり忘れているけど、これはテレビ放映された映画で見たことがあるのではないのか。

たしか、最初はウジ虫が湧いている腐肉を手掴みで食べるシーンだった。
そのあとは覚えてない。

表紙の写真は、ビートたけしで間違いないだろう。

単行本|2002年発刊|466ページ|幻冬舎文庫

ネタバレあらすじ

昭和の初め在日朝鮮人社会が形成された

昭和のはじめの大阪。
各地で、在日朝鮮人社会が形成されていた。
朝鮮半島の済州島の村々から、大阪に渡った人々だった。

・・・ 金俊平という主人公を通して、昭和のはじめの在日朝鮮人社会が描かれている。
映画はすっかり忘れていたけど、本はおもしろい。

彼ら彼女らは、工場で働き、土木現場で働く。
待遇はわるい。
日本人の賃金の半分。

それでも辛抱して1年働いて、済州島に帰省すると金持ちになるのだった。
日本側も安い労働力を求めていた。

在日朝鮮人は、地縁血縁で助け合って暮していた。
長屋に住み、市場ができて、飲食店もできた。

朝鮮人たちには不満が蓄積する

世界恐慌となる。
カマボコ工場は、事業縮小することになる。
真っ先に解雇されるのは、朝鮮人労働者だった。

突然の解雇に、彼らは困り果てる。
日本語の読み書きができない者がほとんど。

社会の状勢もよくわからない。
共産党の活動家が、労働争議を持ちかけた。
「労働者は団結しなければならない!」と活動家は権利を説くが、彼らは理解ができない。

酒を飲み、勢いをつけて工場に抗議にいく。
が、相手側はヤクザを雇っていた。
彼らを締め出そうとする工場側とは、たちまち乱闘になり、逆に袋叩きにされる。

警察がきたが、朝鮮人の味方はしない。
金俊平は、警察に逮捕されて、取調べを受ける。

・・・ 描かれかたはシリアスではない。
めちゃくちゃ。
すぐに暴力。
が、読むのは止まらない。

鬱屈と暴力が繰り返される

無職となった金俊平は、30歳となっていた。
身長185センチで100キロを超える巨漢。
酒乱で、暴力沙汰もしょっちゅう。

済州島の少年の頃から有名な凶暴さだった。
在日朝鮮人の間でも有名だった。

・・・ 暗い。
ひたすら暗い。
時代もそうだし、金俊平も暗い。

金俊平は、飲食店を営む李英姫と結婚をしている。
押しかけられて、強引に結婚したのだった。

で、ほとんど家にいない。
酒を飲んで、バクチをしているのだ。
たまに家に帰ってきて金を取り上げていく。
逆らうと殴られる。
殺されかねない。

その日も、金俊平が姿を見せた。
李英姫は隠れる。
逃げると追いかけてくる。
息子の成漢は、そんな父におびえて暮す。

在日朝鮮人社会では、それらの蛮行も許容された。
李英姫も、いつかは変わってくれると信じている。

・・・ かなり鬱屈している。
が、金俊平は、多くは語らない。
それが不気味さを醸し出している。

獰猛とか、異常とか、理不尽とか、クズとか、金俊平をそんな一言で済ませることはできるけど、それは何世代も経た今の時代だからできるのであって、当時の状況や背景を知ると考えさせられる。

時代は戦争に向かっていく

時代は物騒になっていく。

青年将校による “ 2.26事件 ” がおきる。
警察による “ 大本教本部爆破事件 ” もあった。
が、世間は “ 阿部定事件 ” のほうに関心がある。

日中戦争がはじまる。
が、世間は戦勝気分だった。

金俊平は、相変わらずである。
無職のまま、酒とバクチである。

女は欠くことがない。
強引さと暴力で支配するのだ。
ほかの家で愛人と住んでいる。

あるとき、李英姫が違法営業で警察につかまる。
非難が自分にふりかかると、成漢らを連れて東京に逃げる。
あげく、ほったらかして妹を餓死させる。

・・・ 金俊平の行動には、多くの暴力が含まれる。
描写はかなり凄惨だ。

国家総動員法が施工された。
世の中の気配が変わってきた。
服装から食べ物から言葉遣いから行動までもが、戦時体制となっていく。

金俊平は、成漢を連れて各地を転々とする。
これは徴兵を忌避するためだった。
が、理由など話すことなく、無口なままだった。


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