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深緑野分「ベルリンは晴れているか」読書感想文

余談になるが、・・・いや、余談してる場合ではない。
読書感想文は、長くても5000文字と決めている。

いつだって余談をぶっこいているから、読書感想文が、なんかどうかなっている気がしないでもない。

そもそもが、noteのアイコンだって、ちゃんとした写真に替えなければだ。

ちがう、しようとした。

そしたら、あまりにも胡散臭くて、軽く絶望して、それっきりになっている。

だったら、プロフィールを書かないといけない。
そんなわるい人ではありませんよ、と知ってほしい。

だって、もし自分が、元受刑者なんてヤツからフォローされたりスキを押されたものなら、ただ気味がわるい。

にもかかわらず、フォローしてくださった方、スキを押していただいてる方、お礼をいわせてください。

ありがとうございます。
力をもらってます。

誤解がないようにいいますと、感想文というのは、その人の時間と場所と状況でそれぞれ変わります、というのをわかっていただきたいがために「元受刑者」などとしているだけなのです。

決して、法や規範を遵守しなかったり、犯罪を軽視しているのではないのです。

ついでにいえば、刑務官への数々の謗言については・・・。

・・・また脱線したようだ。

とにもかくにも。
受刑者と読書録である。


読んでみて

よかった。
少しだけ、話の流れが「これは、どうだろう?」としっくりいかない部分があったが、それがちょうどいい。
不思議にちょうどよかった。

ナチスドイツが降伏した直後の夏のベルリン。
空襲と市街戦で、建物が瓦礫の山となっている。
人々は路上にさまよう。

ソ連、アメリカ、イギリス、フランスの4カ国によって分割占領されている市内の緊張感が伝わってくる。

なんの予備知識もないのに、風景がリアルに浮かんでくる。
すごく時代背景を調べているのだな、と伝わる。

17歳のドイツ人の女の子が主人公。
ある事件の犯人とされて、その疑いを晴らすために2日間の人探しをする、というのがざっくりとした内容。

その2日間の幕間に、主人公の戦時中の体験も併せて描かれていて、それがリアリティーを帯びて迫ってくる。

ユダヤ人の迫害の残酷な様子は、映画でも見ている。
「シンドラーのリスト」とか「戦場のピアニスト」などは、映像として目にして嫌悪感を覚えた。

この本は、文章として、残酷さを嫌悪感に訴える。
映画を観ることがない受刑者にとっては、残酷さが嫌悪感として残るのが、どこか心地よくも感じた読書だった。

単行本|2018年|480ページ|筑摩書房

主な登場人物

※ 筆者註・・・けっこう人が出てきます。この3倍は登場してきますが、それほど複雑さは感じないです。

アウグステ・ニッケル

17歳のドイツ人の女の子。
戦時中に、ナチスの秘密警察に逮捕され、矯正施設に送られる間際に逃げ出すことに成功。
ローレンツ家に匿われるが、そこも黙って出ることになる。

それから連合国の空襲にも、ソ連軍のベルリン攻撃にも生き残り終戦を迎える。

戦後となってからは、アメリカ軍の兵員食堂で働き、住居も提供されている。

そのころになって、ローレンツ家の主人であるクリストフの子供殺しを知り、強い恨みを抱く。
闇市でクリストフを見かけてからは、毒殺を企てる。

クリストフは死亡して事件になり、ソ連赤軍管轄の人民警察にアウグステは疑われる。

疑いを晴らすために人探しに出る。

デートレフ・ニッケル

アウグステの父。
元共産党員。

イーダを匿っていることを、ナチスの秘密警察に通報されて逮捕されて処刑される。

マリア・ニッケル

アウグステの母。
ナチスの秘密警察に逮捕される直前に青酸カリ自殺する。

イーダ

ポーランド人労働者の女児。
10歳。
目が見えない。

ニッケル一家が保護。
アグウステは妹のようにかわいがる。

ニッケル一家が処刑された後は、ローレンツ夫妻に匿われるが衰弱死する。

そのことに責任を感じたアグウステは、黙ってローレンツ家を出ることになる。

クリストフ・ローレンツ

ソ連占領地域に住むドイツ人。
戦時中はナチスの音楽家。
富裕層でもある。

20年ほど前から、砒素を使い子供を殺害し続けていた。
理由は不明。

戦後はソ連文化部の演奏者となる。
毒殺されたことで、ソ連赤軍の人民警察が捜査をする。

フレデリカ・ローレンツ

クリストフの妻。
お嬢さま育ちの奥様。

戦時中は潜伏者を匿う活動をしていて、矯正施設から逃げ出したアウグステも匿う。

クリストフが毒殺されてから、ソ連赤軍の人民警察に参考人として尋問を受けて動転して、犯人はアグウステと嘘の供述をしてしまう。

ファイビッシュ・カフカ

本名はジギスムント・グラス。
見た目はユダヤ人だがドイツ人。
20代半ばの元俳優。

戦時中は、ナチスのプロパガンダ映画に、ユダヤ人役として出演していた。

窃盗で逮捕されていたところを、ドブリキン大尉に協力することを条件に釈放される。
その際、上着に最新機器である盗聴器を取り付けられる。

それから、アグウステと2日間行動を共にする。

ドブリキン大尉

ソ連のNKVD(内務人民委員部)大尉。
本国では、スターリンの粛清の嵐が吹き荒れていて、派閥の力関係から危機を感じている。

粛清の対象から逃れるために、クリストフの毒殺事件を、ナチス残党の “ 人狼 ” による犯行とでっちあげる画策をする。

犯人に仕立て上げるのは、アグウステとカフカ。
2人には、エーリンヒを探し出すように命じる。

べスパールイ軍曹

ソ連のNKVD(内務人民委員部)下級軍曹。
兄と旧知の仲だったドブリキン大尉の部下となる。
途中で、アグウステとカフカと合流する。

エーリヒ・フォルスト

アグウステとカフカが探す相手。
毒殺事件の犯人との疑いを持たれている。

フレデリカ婦人の甥で、養子になるが、ある日に家出。
保護された劇場支配人の養子となる。

アウグステは、その家出は、クリストフに殺されると直感したものと推測する。

もうクリストフは死んだと伝えたいのもあり、ドブリキン大佐の命令も受けたのだった。

グレーテ・イノベルト

フレデリカ婦人の使用人。
エーリンヒの存在を人民警察で供述して、ドブリキン大尉のでっちあげのヒントを与える。

ダニー

カフカの友人。
音響技師。

エーリヒは、ソ連占領地域の映画撮影のスタジオにいるかもしれないと教える。

カフカに取り付けられた機器を盗聴器だとわかりもする。
のちに、一同の窮地を救う。

ホルン

ニッケル一家が住んでいた集合住宅の住人。
アグウステに英語を教える。

逃亡の手助けをして、アグウステから預かった英語の本を保管する。

終戦後に届けてくれもする。

ネタバレあらすじ

※筆者註・・・ミステリーとはなってますが、それほどでもないです。時代背景の書き込みや、情景の描写の細かさの割には、ストーリーは飛ぶところがありますが、それがちょうどよく感じたのです。

クリストフは毒殺された

1945年7月のベルリン。
ナチス・ドイツが降伏した直後の頃。

ベルリンは、ソ連、アメリカ、フランス、イギリスの4ヶ国に分割占領されていた。

アグウステは、配給で手に入れたアメリカ軍の歯磨き粉に青酸カリを混ぜ込んでいる。

数日前に、ポツダム広場の闇市で見かけたクリストフを毒殺するためだった。

クリストフは、戦争中に匿ってくれた恩人ではあった。
が、長年にわたり、砒素で子供を毒殺していたのを終戦間際になって知ったのだった。

被害者には、アウグステが妹のように可愛がっていたイーダも含まれていた。
恨みしかなかった。

クリストフは、闇市で毒入り歯磨き粉を入手。
それを使用して死亡する。

疑われたアウグステ

事件は、ソ連占領地域だったため、ソ連赤軍が管轄している人民警察が捜査をする。

参考人として、クリストフの妻のフレデリカが人民警察に呼び出された。

フレデリカ婦人は、夫が子供を殺害していたことは知らないし、犯人の心当たりもまったくない。

尋問されて「誰か名前を挙げなければ逮捕する」と迫られて気が動転。

自身でも全く疑ってもない、アグウステの名前を挙げてしまう。

参考人とされたアグウステは、アメリカ軍占領地域の住居から、ソ連赤軍の人民警察に連行される。

とはいっても証拠はひとつもない。
アグウステも「知らない」と供述してるので、その晩うちに釈放されることになる。

警察署内では、久しぶりにフレデリカ婦人と会った。
名前を出したことへの謝罪を受けもした。

その夜はローレンツ家に泊まる。

犯人は元養子のエーリンヒかも

フレデリカ婦人が話すには、クリストフが闇市で歯磨き粉を受け取ったのは、20年前に養子にした甥のエーリンヒかもしれないという。

はっきりとは言わなかったが、クリストフがそのようなことを口にしていたとも明かす。

エーリンヒは、養子になって4年が過ぎたある日、知らぬまに迷子になって、劇場支配人の保護を受ける。

しかし、ローレンツ家には帰りたがらなかった。
そのまま、劇場支配人の養子になったのだという。

それを聞いたアグウステは、少年だったエーリヒは、クリストフに殺されるかもしれない察して逃げ出して、家出に近い迷子になったのではないかと内心で思う。

叔父のクリストフは死んだ、そう伝えてやらなければと、写真立てからエーリヒの写真を抜き取り、翌朝、ローレンツ家をあとにする。

そこで、カフカから声をかけられる。

ドブリギン大尉の思惑

この毒殺事件を、保身のために解決しようと考えたのは、ドブリギン大尉だった。

本国では、スターリンの粛清の嵐が吹き荒れている。
派閥の位置からして、ドブリキン大尉も目をつけられていて、身の危険は感じていた。

ドブリキン大尉の画策はこうである。

この事件は、ナチスの残党組織 “ 人狼 ” の工作。
アメリカ軍の歯磨き粉を使って、ソ連占領軍の撹乱を狙ったテロ行為。

人民警察での尋問と調書に基づき、自身の采配でNKVD職員を動かして、アグウステとエーリヒを “ 人狼 ” の活動家にでっちあげて逮捕。

解決したことを手柄として、粛清の対象から外れると画策したのだった。

ドブリキン大尉は、窃盗で逮捕されていたカフカに釈放を条件に協力を命じる。
カフカは応じるしかない。

上着のエリ裏には、最新機器である盗聴器を取り付けられたが、その機器がなんであるのかわからない。

ドブリキン大尉はカフカは連れて、ローレンツ家を出てきたアグウステに接近させたのだった。

ドブリキン大尉は命令する

頃合を見て、ドブリギン大尉は2人の前に現れた。
捜査の協力を名目にして、疑いのあるエーリヒの居場所を判明させるように、半ば命令する。

アグウステも、エーリヒを探すつもりだったので承諾する。

エーリヒが住んでいたというバーベルスベルクまでは、電車で1時間の距離。

が、電車は爆弾騒ぎで運休していた。

アウグステとカフカは、そこまで歩いて向かう。
ベルリンの街は晴れていて暑い。

崩れた建物の瓦礫の山となっている街路は、歩く人々でいっぱいになっている。

途中でカフカは、俳優をしていた頃の友人に情報を求めるが、アメリカ軍の難民キャンプに収容されてしまう。
アグウステは、少年窃盗団の女リーダーに追われる。

ドブリキン大尉は、その様子を盗聴で知る。
事態の収束に乗り出す。

再び、アグウステとカフカは合流できて、目的地へと向かったのだった。

エーリヒは見つかった

2日目になる。
2人は、カフカの友人のダニー会う。
もしかすると、エーリヒは、ソ連占領地域の映画撮影のスタジオにいるかもしれないということだった。

が、その日は、ポツダム会談の前日。
一帯は立入禁止となっている。

考えあぐねている様子を盗聴で知ったドブリキン大尉は、部下のベスパールイ軍曹を2人の元に向かわせる。

まずは、ソ連赤軍の軍服を2人に与える。
立入禁止区域に無断侵入させる。

その上で、ポツダム会談へのテロ活動の未遂の現行犯で2人を逮捕。
そのまま処刑しよう、と画策したのだった。

突然に現れたベスパールイ軍曹に2人は戸惑うが、与えられたソ連赤軍の軍服で立入禁止区域に入れもした。

そして、ついに一同はエーリヒを見つける。
アグウステは、叔父のクリストフは死んだ、と伝えることができたのだった。

エーリヒは酒があるという。
ベスパールイ軍曹も交えて、酒を飲みはじめた。

すると、内務人民委員会の職員と共にドブリキン大尉が突然に現れた。

全員は、有無をいわさず拘束される。
ベスパールイ軍曹もだった。

ただちに軍用車で森の中へ。
そこには、4つの穴が掘られていた。

処刑の直前の大音声

アウグステの後頭部に銃口が当てられたとき “ 人狼 ”の活動家として処刑されるのを知らされたのだった。

アグウステは、クリストフに個人的な恨みから毒入り歯磨き粉を渡したことを明かしたが、もう遅い。

その直後だった。
森の向こうから大音声がきた。

ドイツ語だ。
ドブリキン大尉を名指して、独断の処刑を非難する大音声が響き渡っている。

ダニーだった。
この件から手を引いて皆を解放しろと、次はロシア語ででっち上げをバラすぞ、とマイクを通じて訴えている。

音声技師であるダニーは、カフカが心配して見せた衿裏の機器を盗聴器だと見抜いて、自身も盗聴して、今のタイミングで大音声を放ったのだった。

ドブリキン大尉は皆を解放した。

結果、アグウステは、ソ連赤軍の人民警察に逮捕され勾留。
カフカとエーリヒも、立入禁止区域への侵入者として逮捕されたが1日で釈放。

ベスパールイ軍曹は、民間人に軍服を貸し出した件で罪に問われることになる。

ラスト10ページほど

そして半年後。
アグウステは、当初はソ連赤軍の占領地域に勾留されていたが、アメリカ軍が交渉した結果、アメリカ占領地域の赤十字の病院に入院していた。

病院のベッドのアグウステに手紙が届いた。

カフカからだった。
半年前の、あの2日間の、出会った人達の近況が伝えられる。

ドブリキン大尉は、反革命罪で粛清。
ベスパールイ軍曹は、懲罰労働で外国へいく処分が下されていた。

そのほかの皆は、新しい生活に頑張っている。
少年窃盗団も、女リーダーも。

皆が、これからに希望を持っている様子が伝わってきた。
追伸には、ホルンが見舞いにいくともあった。

両親と暮していた頃の、集合住宅で親しかったホルンだ。
秘密警察が訪れたときには、階下に住んでいたホルンは、逃がしてくれてもいる。
その際に、英語の本を預けてもいた。

ホルンは、その本を大事に保管していて、戦後になってから、アメリカ軍の住居に届けてくれてもいた。

留守中に預かったと管理人から渡されたのが、その英語の本だった。

手紙を読み終えたアグウステは、その懐かしい英語の本が手元に届けられた日を思い出す。

半年前の、あの2日間の前だった。
闇市で、クリストフに、毒入り歯磨き粉を手渡した日だ。

あの日は、闇市で少年を介して、毒入り歯磨きだと気がつかれることなく、クリストフに売りつけるつもりだった。

だけど、クリストフの姿を目にしたとたんに、あまりの憎しみのあまりに、少年の間に割って入ったのだった。

アグウステは「これを使えば死ぬ」と毒入り歯磨き粉を手渡して、クリストフは「わかった」と受け取った。
クリストフは、毒入りだとわかっていて使用したのだ。

窓の外は静かで、もう爆弾は落ちてこない。
生き延びるために堪え忍んだり、心の奥底に隠した勇気を奮い立たせて必死に走る必要もない。

自由だ。
もうどこにでも行ける。
なんでも読める。
どんな言語でも。

失ったと思っていた光が、ふいにアグウステの心に差した。
そして、その光は、今のアグウステには白く眩しすぎた。


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