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雫井脩介「犯人に告ぐ」読書感想文

「あーあ、もうわるいことできないですね」
「しなきゃいいだろ」
「そうですけど、指紋もとられたし、これだけ指印も押したし、もうクリックひとつで犯人だってわかるんですよね」
「・・・」

供述調書は、1日ごとに締める。
その日の分の調書の、いくつかの加除修正の部分に指印を押して、終わりの行に署名と指印をしてから言ってみた。

3行ほどあけて署名をした刑事が、続きを答えた。

「なにいってんだ、そんなのはな、映画や小説の中だけの話だ。実際は全然ちがうぞ」
「え、そういう指紋照合システムがあるって新聞で読みましたよ、瞬間で何万もピッって指紋を照合できるって」
「指紋は記録として保管してある。でもな、そんなボタンひとつのシステムなんてないぞ。映画の中だけだ」

刑事は、そんな指紋照合システムはないという。
新聞の記事だって記憶ちがいだという。

「じゃ、これからそうなるって話ですか?」
「そうかもしれんけど、この先っていっても10年や20年くらいじゃぁ、そんなシステムもできないじゃないかな?」
「やっぱ、一般人には隠さないといけないんですか?」
「あのな、そういうのを陰謀論っていうんだ」

陰謀論だというが、自分の理解では、警察の犯罪捜査だけではなくて、国だって全国民の指紋をデータ登録して管理しようとしている。

指紋をとられてデータ登録されたものなら、個人の情報が筒抜けになる。
だから皆が皆、抵抗をしてるのではないか?

じゃあ、今はどのようにして指紋の照合をしてるのかというと、まずは勘で人物の見当をつけて、割り出してから張り込みして、・・・いきなり刑事の勘からの張り込みだという。

いったい、いつの時代の話をしてるんだ!

・・・ また脱線した。
とにかく読書録である。


この本を選んだ理由

ちなみに、刑事がいうには、アナログな方法で犯人らしき人物に見当をつけてからは、現場で採取した指紋と、データとして保管されている指紋とを目視で確かめて照合しているという。

実績がある専門の指紋鑑識官がいて、この人が照合したのだったら間違いないだろうという信用のもとで、指紋からデータにある人物の紐付けができるのだという。

裁判でも、専門の指紋鑑識官の証明書があるから指紋が証拠として採用される。

データやシステムがはじき出しました、という指紋を証拠とする裁判はないという。

いわれてみればそうかもしれないけど・・・と首をひねる自分に、映画やドラマや小説にでてくる警察なんて、あれはつくりものだと刑事はいう。
すべてがつくりものだと真顔でいう。

・・・本題に戻る。

そのようなことから、この本を借りたのは、作家名は知らないけどタイトルが妙にそそるのと、指紋照合システムが謎として残っていたのもあるからだと思われる。

単行本|2004年7月30日発行|367ページ|双葉社
小説推理 2003年1月号 ~ 2004年2月号に連載

※筆者註・・・3巻まであるようです。映画化もされているようです。

読感

おもしろかった。
また、雫井脩介の2冊目を読んでみたい。

実際と小説はちがう、すべてがつくりもの、と最初から決めつけて読んでいるから、細かいこところなどは気にせずに楽しめたと思われる。

長髪の刑事がテレビ出演して、犯人に呼びかけるというのが少しばかり笑ってしまうが、それほどリアルさも求めてないから、こうなったらおもしろいなという突飛もない想像力も刺激させる。

刑事と犯人の心理戦というのもとくになく、犯人の逮捕で終わりなので動機がよくわからないままだけど物足りなさはなかった。

なぜだろうか?
よく考えてみると、今まで警察小説というのを読んだことがない。

いやある。
大沢在昌の「新宿鮫」シリーズだ。

たぶん「新宿鮫」がおもしろくなかったから、警察小説は読まなくなったんだと、今になってわかるようだ。

だって、キャリア警察官が、現場の一匹狼として拳銃片手に事件を追っていって、それで解決までしてるから、なんかこう入り込めない。

やっぱ刑事っていうのは、第一にバカじゃないと。
そこそこのバカでないと。

ネタバレ登場人物

巻島文彦

神奈川県警の刑事。
長髪という風体。

男子児童連続殺人事件の発生から1年が経ち、捜査が生き詰まる中、特別捜査官となる。

“ 劇場型捜査 ” として、連日のようにニュース番組に出演。
非難や反発が高まていくなかで、犯人に語りかけたり、挑発したりして反応を待つ。

曽根要介

神奈川県警本部長。
捜査の指揮をとるが、解決しないどころか、連続して発生する事態に非難の声が高まっていく。

そんななか、犯人らしき “ バッドマン ” から犯行声明文が届いて、それを利用した公開捜査を考えつく。

早津名奈

ミヤコテレビ女性キャスター。
ニュース番組『ナイトアイズ』を担当する。
番組でバッドマンを非難して脅迫状を送りつけられる。

小川かつお

捜査員。
「チョンボ」という呼び名にふさわしく、誤認逮捕をしそうになったり、証拠を台無しにしようともする。
が、ローラー作戦の聞き込みで、浦西を犯人と見抜く。

浦西

連続児童殺害事件の犯人。
バッドマンと名乗り、捜査本部に手紙を送りつける。

警察のローラー作戦で自宅を訪れた小川に、怪我をしたと掌紋の提供を拒んだのが逮捕のきっかけとなる。

ネタバレあらすじ

犯人の浦西は逮捕された。
警察のローラー作戦が成功したのだった。

捜査協力を求めて、西浦の自宅を訪問した捜査員の小川が、犯人だと見抜いたのだった。

特別捜査官の巻島の作戦が成功したのだ。

公開捜査だったら特集が組まれやすいだろうと、ニュース番組の『ナイトアイズ』に度々出演して情報提供を求めていた巻島だった。

情報提供のお願いと同時に、見えない犯人に何度もメッセージを送っていた。

犯人をバッドマンと呼び「私は君の話を聞きたい」と話す。
犯人に共感するかのような口ぶりや、媚びる姿勢に、視聴者からの反感も起きるのは当然のことだった。

番組には抗議が寄せられる。
電話もなりっぱなし、FAX は動きっぱなし、ホームページには半日で10万アクセスがある。

しかし、巻島は「これが劇場型捜査だ」と上司を説得して、テレビ出演を続けた。

ついには『ナイトアイズ』の女性キャスターにバッドマンを名乗る犯人から脅迫状が送られもした。

それをニュースで報じると、脅迫状を模倣して郵送してくる者も多発した。

しかし巻島は、寄せられた脅迫状の仕訳作業を指示する。
狙いは、犯人からの再度の脅迫状だった。

今までの捜査で上がった不審者リストの全員に、監視をつけていたのだった。

テレビ番組の公開捜査を見た犯人が、ポストに手紙を投函する動きを待っていたのだった。

だが、不審者リストの誰も動きを見せない。
不審者リストには、犯人は含まれてないのだ。

いよいよ、公開捜査への反感も大きくなる。
手紙の捏造も疑われた。
ついに上層部からは、1週間の期限もつけられた。

動きがあったのは、ぎりぎりのところだった。
犯人と捜査本部しか知りえない内容の手紙が届いたのだ。
3回4回と、犯人からの手紙は届いた。

巻島の狙いは当たる。
それらの脅迫状から、ついに、犯人が居住する地域が特定できたのだった。

その地域のローラー作戦を行うことと、犯人の掌紋が証拠としてあること、捜査協力のお願いと、それらは『ナイトアイズ』で巻島により告知された。

警察のローラー作戦は開始された。
すると「怪我をしているから」と包帯を見せて、掌紋の提供を拒んだ者がいる。
それが犯人の西浦だった。

犯人に近い・・・と見当をつけた捜査員の小川は、何気ない雑談をする。

そして、西浦がベージュのことを臙脂色と認識していたことが事件との関わりの決め手となり、任意同行を求めるに到ったのだった。

その後の家宅捜査で、犯行メモも見つかる。
西浦の逮捕となったのだった。

余談として

本当は、指紋照合システムはあるのではないのか?
読書録をキーボートしてから検索してみた。
すると、自分と刑事の話が噛み合ってないだけだった。

指紋照合システムは、本当にある。
が、クリックひとつで、すべてがわかるわけじゃない。
半自動なだけの、いってみれば検索だけのシステム。

現場で指紋を採取してからは、まずは勘で人物を探って見当をつけて、人物を特定してからシステムで検索してデータを取り出して、最終的には目視で異同を識別する。

映画や小説で出てくるような、パソコンの画面でパッと出てきて、ピッと識別して、ピピッと個人情報にも照合できる指紋照合システムなどない、と刑事が言っていたのは本当のことだった。

でも思い込みが激しい自分は、そんなことない、指紋照合システムを警察は隠している、だいたい勘だなんて本当ですか、どうせ張り込みのときにはドラマにみたいにアンパンだって食べてんじゃないんですか、とも言った。

刑事が言うには、そんなクリックひとつでわかりはしない、でもアンパンは食べる、で、勘なんてもんじゃなくて、ずっと犯人のことばかり考えているから、知らないうちに犯人に似てくるから見当もついてくるとのこと。

だから捜査が終わってみると、仕草や、表情や、話し方までも、犯人に似てきているのに気がつくときもあると苦笑いしていたが、そこは本当かは今も知らない。

感想文にあったバカというのは、別の言い方に訂正したい。

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