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ジェイ・エイブラハム「マネー・コネクション」読書感想文

差入された本になる。
あやしい金ピカの表紙に「マネー・コネクション」とある。

“ あなたのビジネスを加速させる「戦略」の見つけ方 ” という副題でビジネス書だとわかるのみである。

交付の際には「こんな本読むのか!」と荒井刑務官(仮名)からのネチネチもあった。

矯正教育からすると、お金のことを書いてある本など読むと、人は犯罪に走るらしい。
ついでにいえば、インターネットも犯罪の入口とのことらしい。

で、矯正教育での収入のありかたは、労働をした給与所得のみが正しいとされている。

“ 就労支援 ” という、ありがたい制度もある。
が、寄せられる求人は、例外なくうなだれるほどに給料も時給も安い。

刑務所としては、黙々とロボットのように働く人間を多く作りたいだけなのかもしれないし、実際、そうなるのを求められる。

もちろん、労働は尊い。
人手不足だともいう。

ただそれは、安く働く人間が不足しているという話であって、中卒の自分などは使い捨てにされるだけ。

そう思うのが間違いなのか?

労働する以外の収入の発言をすること自体が「再犯する!」と結論づけられてしまう、という状況での読書になる。


差入された本

以前は、ビジネス書は多少は読んだ。
小説よりも読んだ。

 “ ビジネスマン必読の書!” と宣伝されている本も読んだ。
が、優秀な人材が揃っていて、かつ資本力もある大企業のビジネスマン向けになっている本がほとんどだった。

たとえば、松下幸之助とか。
稲盛和夫もそうだし、あとは船井幸雄とか。

中卒の零細事業者の自分に役に立つ本というのは、本屋で見たところほとんどないのだ。
だから、いつの間にか、ビジネス書は読まなくなっていた。

で、この本が、差し入れされた。
官本には、この手の本がまったくなかった。

単行本|2017年発刊|288ページ|KADOKAWA

感想

おもしろいではないかぁ!
何度でも読み返したい。
アイデアが刺激される。

読む前は、ひょっとして、どこかで聞いたことがあるようなことが書いてあるのかなと思ったが、それは全くなかった。

オリジナルで、具体的な施策に溢れている。
多くを知るというより、多くのヒントを与えられる。

経営者に書かれた内容だけど、社会復帰を控えた受刑者にも多くのヒントを与える。

ジェイ・エイブラハムとは?

このジェイ・エイブラハム(以下、ジェイ氏)とは、その世界の権威であることは確かだ。

その世界って?
どの世界?

マーケティングの世界である。
コンサルタントの世界でもある。

ジェイ氏は、1949年のアメリカ生まれ。
コンサルタント歴40年。
『フォーブス誌』が2000年に全米トップ5のビジネスコーチに選出。

実績があるのだ。
文中でも自画自賛している。

『マーケティングの天才』とか『マーケティングの教祖』と呼ばれます。
世界中の2万人以上の経営者や専門家に、アドバイザーとして働いてきました。
著書、セミナー、研修プログラム、教材テープなどを通じて、数十万、もしかすると数百万の企業が成長して成功するのを助けてきました、と書いちゃってる。

でもそれが、ぜんぜん嫌らしくない。
自信を感じさせる。

口語も交えて、丁寧に、熱意を以って書かれている。
陽気な人柄も伝わってくる本となっている。

アメリカンっぽくないのがいい

だいたいこういったアメリカ発のビジネス本は癖が強い。
アメリカはアメリカ、日本は日本、という突っこみも入る。

ところが、この本はアメリカン臭がしないのだ。
世界の東西問わずとなっている。

それどころか、どのような事業にも当てはまる手法が解説されている。
事業規模の大小も関係ない。
業種も関係ない。
専門性が高くても、複雑あっても関係ない。

よく見聞きすることが書いてある。
おおまかに要約すると、以下のようである。

商品やサービスの価値を見出し、価格設定をする。
テストマーケティングをする。
広告のキャッチフレーズを練りこむ。
コンサルティング販売をしてみる。
顧客には満足度を上げる。
紹介システムを採り、推薦者を見つける。

が、それぞれにひねりがあって、うなずかせられる。
原理原則でビジネスを成長させる方法です、とジェイ氏が書く通りだった。

目線が中小の事業者寄り

ジェイ氏の目線は、どちらかというと中小規模の事業者向けになっている。

で、ジェイ氏の施策は、具体的で興味深い。
挙げられる事業者と事例は以下である。

剪定業のクライアントには、USP(ユニーク・セリング・プロポジション)を考えるようにアドバイス。
名刺を変更して収入は倍増する。

水上スキーのレンタルショップのクライアントは、顧客に特別優待割引のDMを送付。
売上は倍増する。

整体師への用具販売業のクライアントは、営業のアプローチ手法を変える。
収益は上がる。

・・・ 売上や収益の部分は簡略した。
もちろん、上がる理由の解説もしてある。
続きである。

エアコンのメンテナンス業のクライアントは、格安で機器の調整をする広告を出す。
売上は倍増する。

製材会社のクライアントは、専門知識を教える学校を開く。
収益が上がる。

カタログ販売業者のクライアントは、受注プロセスを省略する。
販売数はアップする。

デリカッセンの店舗のクライアントは、小冊子を発行する。
売上は増える。

・・・ どれも、費用をかければいいという手法でない。
目線や発想を変えるところに重点を置いている。

パン屋のクライアントは、ケーキデコレーションのワークショップを開いた。
売上は倍増する。

文具店のクライアントは、広告のキャッチコピーを作りかえる。
売上は増える。

ヨガスタジオのクライアントは、地元の小売店と提携して会員証を配布する。
入会者は激増する。

・・・ と、ジェイ氏の手法は非常におもしろい。
で、いっちゃわるいけど。
ほんとに申しわけないけど。
松下幸之助のビジネス書よりも、大いに考えさせられた。
稲盛和夫のビジネス書よりも、ヒントに溢れた本だった。

現場向きでもある

事業者でなくても、経営者でなくても、働く人であればこの本はヒントを与えてくれる。

ジェイ氏は心得たようにして、現場の目線で、こまめに質問をぶつけてくる。

あなたが、もし、パソコン販売をしていたら?
あなたが、もし、生地の販売をしていたなら?
あなたが、もし、ハンドバックを販売していたなら?
あなたが、もし、携帯とタブレットの販売をしていたなら?

・・・ ジェイ氏は、突飛もなく質問をぶつけてくる。
答える手法は生々しくて、現場から生まれている知恵を感じさせる。

あなたが、もし、美術品ディーラーだったら?
あなたが、もし、ITコンサルタントだったら?
あなたが、もし、住宅販売をしていたら?

・・・ ジェイ氏の質問には専門用語がない。
聞き慣れないカタカナ用語もない。

あなたが、キャッチフレーズをつくるとします。
あなたが、ウェブサイトをつくるとします。

・・・ ジェイ氏は、現場に飛びこんでくるのだ。
理論というものを振りかざすことがない。
行動を中心にした手法だから、目に見えるようで明快だ。

あなたが、薄型テレビメーカーだとしましょう。
あなたが、形成外科医だったとしましょう。

・・・ ジェイ氏の手法には無理がない。
今までに聞いたことがない工夫がされている。

卓越論は心にメモしておく

この本は様々なヒントに満ちているが、心に残ったことをひとつだけ挙げろといわれたら、自分にとっては “ 卓越論 ” になるかもしれない。

第3章の『卓越論を身につけよう』で掲げられている。
難しい話ではない。

ただ単に、卓越したものを見出せ、ということ。
これは零細事業者には必要なことだと、心にメモした。

顧客とクライアントのちがい

次点を挙げろといわれればなんだろう?
顧客とクライアントのちがい、という部分か?

第4章の『クライアントと恋におちる』になる。
概要は以下である。

顧客とは、商品やサービスを購入する人。
クライアントとは、ほかの人の保護下にある人。

劣悪なサービスから、粗悪な商品から、その人を解放することでクライアントとなる。

売るのではなく、どう解決するのか?
そのためには、なにが提供できるのか?
あなたはその使命がある。

・・・ と、ジェイ氏は心強い。
なんだか、やる気が湧いてくる。

リスクリバーサルという手法

同列で挙げるとすれば、第7章の『価格構造が原因で、大金を失ってないか?』も心に残る。

ジェイ氏はここで “ リスクリバーサル ” という手法を紹介する。
いちばんに好きなテクニックだという。
何千ものオーナーを成功に導いたと保証もする。

相手が購入のときに感じる心理的なリスクをリバース(逆転)させて、こちらがリスクを負う、というのがその手法の骨子である。

具体的には、返金を保証をするのもリスクリバーサルのひとつだけど、そう単純ではないので抜粋はやめておく。

あえて文句をつけるとすれば

官製の就労支援よりは、この1冊のほうが、よっぽどためになるのは確かだ。

手元に置いてたまに開きたい。
その度にヒントを得れるとは感じる。

が、あえて文句をつけてみる。

繰り返し読むためには、不要な部分は削除したい。
まずは、所々にスペースを割いて掲載されている格言の類はごっそりといらない。

『 商いレベルで成功する人は、運が良いのではありません。ほかの人たちとは違う方法で行っているのです。アンソニー・ロビンス 』などの格言が、まったく頭に入ってこないどころか、逆に邪魔すぎる。

格言の人物を端から羅列してみる。

ジム・ローン、デイモンド・ジュン、ハリール・ジブラーン、W・クレメント・ストーン、リチャード・ブランソン、サム・ウォルトン、ハワード・ジュルツ、エリック・フォッファー、と本文の半分もいかないうちに、これらの人々の格言が所々に挿入されている。
これが邪魔でならない。

あとは、ビジネス書定番の “ 煽り ” の部分。
ビルは朝早くから奴隷のように働く日々で、憂鬱で足取りが重くて、家族の不満は溢れていて、今年のスキーは中止になったとなどという小話。

こういう煽りも、大人が読むとしらけさせるのでないのか?
現実は、そんなものではないのか?
まったくいらないな、と首をかしげた。

ここを出たら1冊購入して、余計な部分には鉛筆で斜線を入れて手直しして、手元に置いておきたい。

いちばんに驚くのが最終章

ジェイ氏は最終章で、読者にビジネスコンサルタントになるように勧めている。

決してジェイ氏は煽り立てているのではないが、そこまで読んでいると、こっちも出来る気がしてくる。

それまで説いていた内容は、ビジネスコンサルタントができることを保証しているようだ。

で、ジェイ氏は勧めといて、冷静な疑問を投げかけてくる。

『 ビジネスコンサルタントになったとして、もし、クライアントのニーズが、大変に失礼ながら、指針や知恵を提供するあなたの能力を上回っていた場合はどうしたらいいのか?』

もっともである。
そりゃ、そうだ。
その疑問も、ジェイ氏から指摘されて気がつかされる。

『 言い換えれば、非常に大きな魚がかかり、それをボートに引き上げるのに少しばかりの手助けがいる場合はどうしたらよいのでしょうか?』

どうしたらいいのかまったくわからないが、なんとジェイ氏は、先回りして答えを用意しているのだ。

気のせいか、行間からは自信が伝わってくる。
ジェイ氏は明快に答える。

『 そこで、エイブラハム・グループの出番です。』

要はこういうことだ。

その “ 大きな魚 ” の事態になったときは、ぜひ、エイブラハム・グループに連絡をください。
対応できるエージェントを派遣します。
お互いにパートナーとして、この大きな魚に当たろうではありませんか。
もしくは、紹介だけでもかまいません。
もちろん “ 紹介料 ” を受け取ることも可能です。

なるほど!
そういうオチだったのか!

呻る気分だ。
練り上げられた小説を読んで、山場を越えたときのようなグラッと感がある。

ラストの一文が清清しい

それにしても、商売上手なジェイ・エイブラハム。
トークが巧みなジェイ・エイブラハム。
陽気なジェイ・エイブラハム。

さすが、アメリカのフォーブス誌が2000年に全米トップ5のビジネスコーチに選出したとの経歴だけある。

えらく手の内をさらす内容を、バンバンと明かすものだと不思議さを感じながら読んでいたのだが、こういう結末に清清しく納得できた。

で、ジェイ氏の手法は底が知れない。
やがて世界は、ジェイ氏に飲み込まれるのではないか?

おおよそ以下の文章で、本書は締めくくられる。

『 あなたのビジネスを成長させてください。
収入を増やしてください。
私のアイデアを、どのように用いて成功を遂げたのか。
それを、教えてもらうことを楽しみにしてます。』

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