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歪んだ性愛 ❶

忿懣な男

帰りは遅くなる

私は妻に伝えると、いつも通り仕事に向かった。
しかし会社には休暇を申請し、自宅近くの喫茶店で珈琲を飲んでいる。
珈琲を片手に新聞を読み、普段読まないような株式市場の動向、株価を念入りにチェックしている自分を俯瞰している自分がいる。
今朝は明らかに落ち着きがなく、自分が自分でいられない感覚のまま、時間が過ぎている。

落ち着け、自分で決めたことだろ。
自分の望んでいることじゃないか。

自分に言い聞かせてきた言葉を、何度も繰り返し、3杯目の珈琲を口にしながら平静を装っていた。
やがて時計が11時を表示した。
指定した時間がやってきたのだ。
待ち合わせの時間だ。

彼がやってくる。

彼とは何度かメッセージを交わし、私の趣旨嗜好を理解している。
彼の嗜好と私の希望は完全に一致していたから、その時を迎えるまでの話は早かった。
喫茶店のドアが開いたのが見えた。

来た。いよいよか。

私は心の中でそう呟くと片手を挙げ、ドアを開けた男に自分の居場所を教えた。
写真で見ていた容姿よりいい男に見えた。
男は私と目が合うと店員に軽く会釈し、私のいる席へ向かってきた。

この男に今日妻は抱かれる。いや犯されるのか!

彼を目の当たりにしただけで、私は興奮して鼓動が早くなっているのがわかった。怒りとも興奮とも憤りとも忿懣とも言えぬような気持ちだ。

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