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歪んだ性愛 ❷

見えない鎖

彼が私のところに来てから1時間くらいが経ったのだろうか。
実際に会い、話してみたがメールの通りの印象だ。

彼は信用ができる。
きっと私の心を粉々に砕いてくれるだろう。
そして妻も…。

人違いや事件、事故に発展することはお互い望んではいない。
念には念を、と、身分証明書を交換しお互いを確認した。
犯罪行為ではないことを書いた念書も用意して、お互いの本名を書き記すこととしていた。
見えない鎖だ。
はじめに私が住所、連絡先、アカウント、氏名を書き、彼に手渡した。
念書を受け取った彼が緊張しているのがわかった。受け取る手が震えていたのだ。
ゆっくりと、丁寧に自分の住所、連絡先、アカウント、氏名を書くと彼は私に、

これで私と貴方は見えない手枷足枷で繋がれましたね。

これまでの緊張がほぐれたのだろう。
彼は少し微笑みを見せた。
だが私には
「これでお前の妻は俺のものだ」と
言わんばかりの表情にも感じたのだ。

最後にお互いが、身分証明書と念書を手に持った写真を撮ると、スケジュール、段取りを確認し、私は妻に買い物を頼んだ。
今日中に必要だとメッセージを送り、買い物に向かわせた。
メッセージを送ると私は喫茶店の支払いを済まし、彼と家のすぐ近くへ移動した。

向かいのコインパーキングに車を止めています。
支払い済ませてきますので、車でお待ちください。

コインパーキングに止めてある車が1台点滅すると、彼は駐車料金の支払いに向かった。
私は助手席に座って彼が来るのを待っていた。

お待たせしました。
ナビに目的地設定してありますよ。

手慣れた手つきで私の、いや、私と妻の自宅を目的地に設定し始めた。

ここから近いですね。すぐ着きますよ。

そういうとスタートボタンを押し、車を動かし始めた。
話すべきこと、伝えるべきこと、聞くべきことは全て話した。
もう後戻りできない中で、話すことはもう何もない。
車内は静かにラジオが流れていた。
自宅近くまで来ると、

ここで止めてくれ

彼に車を停めるよう指示した。
自宅の玄関がよく見える路上に車を止めさせた。
もうすぐ、出かけるはずだ。
妻が買い物に出かけるのを待っていた。
ラジオから流れる音楽が1曲聴き終わる頃、妻が玄関から現れた。
玄関の鍵を閉め、妻は買い物に出かけた。

段取りどうりお願いするよ。

私は彼に合鍵を渡し、自宅に帰宅した。
帰ったのがバレないように靴をしまうと寝室のクローゼットに息を潜めた。

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