販売と営業とマーケティングの違い
議論に負けて買う客なし
ある日、ひと休みしようと、ドトールのテーブル席に座ったら、隣のテーブル席に、
どう見ても営業マンと思しき若い男性が一人。その横に、見習いと思しき若い女性が一人。
向かい側には、近所に住む男性でしょうか、ぼさぼさ頭の中年で、トレーナーにジーンズにサンダル姿の男性が一人。
聞こえてくる話の内容は、どうやら、分譲マンションの売買。
聞き耳を立てていたわけではありませんが、売り込むのに必死な営業マンの声が大きく、否が応でも聞こえてきます。
トレーナー男性が1を訊くと、答えは10倍になって返ってきます。
トレーナー男性が一を疑問視すれば、「そんなことはありません」という説得が十倍になって返ってきます。
まさに、一を訊いて十を知るですね。意味は違いますが
聞くともなしに聞いていた私は、内心、
「説得するよりも、その疑問を持つ同じ立場に立って、一緒に考えてあげればいいのに」
と苦笑しきり。東京の分譲マンションは、どんなに安くても数千万円以上ですから、パソコンを買うのとはワケが違います。
そんな高額商品を、説得されて買うワキャありませんし、ましてや、議論などもっての外。
百歩譲って、議論に負けて買ったとしたら、契約後に、
「買わされた」
と後悔する危険性がありますし、
そうなると、紹介なんて期待すべくもありません。高額商品のみならず、紹介は最強の新規営業ですからね。
その芽を自ら摘んでしまうのですから、マンション営業として、どうでしょう。
あなたが彼らの上司なら、どう指導します?
販売と営業の違い
それから30分くらい経った頃、ぼさぼさ頭のトレーナー男性が一言、
「まあ、今回は、資料を請求しただけですから、買うかどうかの判断は、また後日ということで」
と席を立って帰っていきました。
驚きましたねえ(◎o◎)/
「なんと!資料請求後の、初会で、ハンコを捺させようとしていたのか!」
と、思わず目が点になりました。詐欺商法じゃナイんだから
誰でも知っている大手マンション・デベロッパーの営業マンでさえ、いきなり商品を売るセールスなんですね。
「営業マンなんだから、商品を売るのは、当たり前だろう」って?
ごもっとも。
商品を売って、売上を増やすのが、セールスの仕事です。
ところが、ひとくちにセールスといっても、販売活動と営業活動は違います。
販売の目的は、売上金ですから、今すぐに、誰でもいいから、理由はどうあれ、商品を売って、お金に代えようとします。
自動「販売」機しかり。
今すぐに売るのですから、一年先なんて、鬼が笑います。そんなの、お客さんじゃありません、ハイさようなら。
売れりゃ誰でも構いませんから、欲しい顧客が誰なのかも、欲しくない顧客が誰なのかも、関係ありません。お金が入れば、ハイさようなら。
当然、末永く付き合っていきたい顧客が、どういう顧客なのか、知りませんし、
それを知って、一般顧客の中から優良顧客を増やす必要もありません。誰でもいいから、売れれば、ハイさようなら。
このように、商品と、代金を、交換する仕事が、販売です。
商品とプライスカードを並べておけば、お客さん自身が価値を見出して買っていきます。
是この通り、販売だけなら、インターネット通販にでも出来ます。
信用を売って顧客を増やす営業活動
例示したマンション・セールスは、営業活動ではなく、販売活動でした。
件の営業マンは、営業部に所属し、営業部の名刺を持ち、自分は営業マンだと思い込んでいる、単なる販売員だったようです。だって、
・会社が、商品の広告を出し、
・広告を見て、資料請求してきた擬似客に、売り込む
だけの販売活動なら、アルバイトやパート等の非正規にでも出来ますよね。
雇用リスクの高い正社員が担当するまでもありません、代りは幾らでもいます。
売っている商品を(代金と交換するために)売るのですから、
・資料が欲しいと言われたら、資料を送った後、売り込む。
・見積りが欲しいと言われたら、見積書を作った後、売り込む。
・注文が入ったら、売る。
売れたら終了だもの、こりゃ楽です。プロの営業マンが売る必要ありません。
一方、営業の仕事は、違います。
会社や自分の「信用を売って、顧客を増やす」のが営業活動です。信用には、
1)会社の信用
2)商品の信用
3)営業マンの信用
の3つがあります。販売は、会社と商品に信用があれば、あとは代価と交換するだけですが、
営業活動には、営業マンの信用も欠かせません。
なぜなら、営業活動は、人と人の付き合い(人脈)が重要だからです。
これは、BtoBなら分かりやすいでしょう。
人間関係が出来ていれば、ちょっとしたムリも融通し合えますし、時と場合によっては、指値を教えてくれることもあります。
指値といっても、談合ではありませんよ?
「これくらいの価格差だったら、御社(あなた)から買いたい」
と言わしめる営業マンは、だいたい、優秀な営業マンに多いようですからね。
顧客を増やすのが目的である営業の仕事と、商品と代金を交換するのが目的の販売の仕事は、段階的に異なるワケです。
BtoBのみならず、BtoCも同様で、たとえば、売れる八百屋さんは、
・商品を持ってレジに並んでいるお客さんから、代金を受け取る
だけの販売活動ではありません。リピーター(顧客)を増やそうとします。
「今日は一個オマケしとくよ」「333円のところ300円でイーや」「また来てね」
と、優良顧客を差別したり、値引きしたり、来店促進したり、ちゃんと営業活動しています。
このように、お店の信用と、商品の信用と、八百屋のオヤジの信用が三位一体になっています。
待ち受けるのみが販売ではありませんし、販売するのみが営業ではありません。
何を売って、何を増やすか?により、販売か?営業か?決まります。
営業活動とマーケティング活動の違
販売は、商品を売って、売上を増やす活動で、
営業は、信用を売って、顧客を増やす活動です。
販売=営業ではありません。営業 > 販売の不等式で、販売活動は、営業活動に含まれます。
営業活動はプロモーションの中に含まれ、プロモーションはマーケティングの中に含まれますから、
マーケティング > プロモーション > 広告+広報+営業+販促 > 販売
の構図で、広義(マーケティング的)には、価値を売って味方を増やす活動です。
味方というよりも、支持や風評といったほうが分かりやすいかもしれません。
味方の中には、推薦者(自分は買わないけれど、推薦してくれる人)がいます。
味方の中には、紹介者(自分は買わないけれど、新規客を紹介してくれる人)もいます。
味方の中には、媒介者(自分は買わないけれど、記事に取り上げてくれる人)もいます。マーケティング的には、リファーラルではなく、パブリシティです。
味方の中には、仲介者(自分は買わないけれど、あなたの代りに売ってくれる人)もいます。
味方が増えれば、顧客も増えますし、価値を売れば、商品も売れます。
価値を売るとは、良い所ばかりを見せることではありません。都合の悪い所も見せる必要があります。なぜなら、
満足指数 - 不満足指数 = 満足度
ですから、満足してもらうには、不満よりも、満足を高めることです。
満足を高めるには、価値を高めることです。これ即ち、価値満足。
新しい価値を創造し、価値を高めるのが、マーケティングです。
売れる時期を待つ間も活動し続けるのが営業
冒頭のマンションの例でいえば、
「家を買う時になったら、あなたに必ず声をかける」
と言ってもらえるようにすることです。
そりゃあ売る側にとっては、マンションAだけが、大事な商品マンションかも
知れませんが、
買う側にとってマンションは、BもCもありますし、一戸建ても、あります。
しかも!資料請求があったからといって、今すぐに買うとは決まっていません。
今すぐに売れるとは決まっていないのですから、売るのを止めたらどうですか?
売るなという意味ではありません、売れる時期を待つのも、営業活動です。
販売は、売る時だけの接触ですが、売れる時期を待つ間も、活動し続けるのが営業です。
営業活動しなければ、いつしか忘れ去られてしまい、「あなたから買う」とは言ってもらえなくなりますからね。
営業活動とは「買って下さい」「買って下さい」と、しつこく付きまとうことではありませんよ?
価値を売ることです。価値に満足してもらうことです。
その価値とは、商品の価値を高めることも当然ながら、
「どうせ買うなら、あなたから買う」
「知り合いが買うことになったら、あなたを紹介する」
と言ってもらう営業マンになることです。
そのために、すべきこと?
優秀な営業マンに秘訣を訊けば「特別なことなど何もしていません」と答えるように、
ありきたりなことを、営々黙々と、地道に続けるのみです。
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