時勢を読むマーケティング リサーチ[4-3]
時勢のほうからやってきた幸運な内装職人のケース
東京オリンピックの頃、すすけた白いバンの後部いっぱいに建築資材や工具を詰め込み、
「仕事ください」「来月以降のスケジュールは空いてます」
と、移動しながら携帯電話で営業活動していたリフォーム専門の内装職人さんが、ここ数年、
「見かけなくなったなあ」
と思っていたら、ある日、新車で1,000万円は下らない高級車に乗って登場。
建設・建築業界は景気がいいと、ニュース等で知っていましたが、その明証を目の当たりにすると、
「本当に、景気がいいんだなあ」
と首肯しきり。
聞けば、リフォームに特化するのをヤメ、需要に応えるまま、仮設足場、塗装、大工、左官、タイル等々、建築全般を請け負っているとか。
察するに、内装(クロス貼り等)の仕事のみ請け負い作業する「職人」業ではなく、
工事の一部をマネジメントし、人員を集めて差配する「一人親方」業になった様子。
しかし、一人親方では、500万円以上の工事を請け負えませんので、建設会社になるべく、ただ今、許可を申請中とのコト(会社は設立済み)
反対に、工事の発注が多すぎて、人を集められず(需要に応えられず)、廃業する建設・建築会社(一人親方)が多いんだとか。
仕事が多すぎて倒産するなんて、オリンピックの余波たるや、すさまじいですね。
いずれにせよ、活況を呈している業界であることは確かなようです、建設建築業界。(業界の構図は、建設 = 建築ではなく、建設業界 > 建築業界)
こうも景気が良い業界になるとは、彼(遠い知人)自身、夢にも思わなかったことでしょう。時勢のほうから、彼のもとへやってきました。
孟子が説いた「天地人」の、天の時(天が動く時)ですね。
時勢のほうからやってきた幸運なシステム開発会社のケース
もう一例。マーケティング(リサーチ)なんざ「無用の長物」と思わせる事例を。
十数年前、どこかでお会いしたシステム開発会社(社員数名)の社長いわく、
「新規営業で、アポを取って、訪問したら、システム開発なんて、終わってるでしょ?と、イヤミを言われました」
ところが、2012年頃から、スマホの登場(アプリの開発)、アベノミクス景気、2020年問題等々、開発案件が増え始め、IT技術者が足りなくなりました。
ITエンジニア(SE、サーバエンジニア、Webエンジニア等々)の人手不足です。
フリーのSEは、やりたいプロジェクトのみ選んで引き受けるほどの供給過多。
社内SEも派遣SEも、許容量を超えた開発プロジェクトを前に、過労死寸前。
プロジェクトマネージャーが高給を提示して技術者を探し回っても、応募なし。
この、空前のITエンジニア不足は、2019年の今も、続いているそうです。
これも、天の時(天が動く時)
時勢のほうが近づいてきました。
これらの例は、マーケティングを知らなくても、仕事が勝手に舞い込んでくる典型。
バブル景気の頃も、そうでしたよね。ゴルフ会員権にしても、不動産にしても、広告出稿にしても、お客様のほうから、買い注文が殺到しました。
そのまま、時勢の追い風に乗って、飛び続けられると良いのですが、
時勢に煽られただけのビジネスは、時勢が去るとともに、墜落してしまいます。
ほんろうされないためには、やはり、マーケティング(増収)戦略が必要です。
マーケティングに携わるならば、天に運を任せるのではなく、天の動きを調べ、天運を味方に付けなければなりません。
これが、テーマの「時勢を読むマーケティング リサーチ」です。
(景気が良いとか人材不足とか)ニュースで知るのみならず、当事者に聴けば、肌身に沁みて実感できますよね?
これ即ち、定性調査。人様の話を聴くリサーチです。
オープン情報とクローズ情報を集めて分析しよう
「マーケティングリサーチが必要なのは分ったケド、日々ナニすればいいの?」
って、答えはカンタン♪
情報収集です。
ヒト・モノ・カネに続く第四の経営資源といわれる『情報』を集める作業。
「情報を集める作業って、どうすればいいの?」
それが、マーケティングでいうところの、リサーチ(調査分析)です。
「マーケティングは、リサーチに始まり、リサーチに終わる」
と唱えているのは(検索してみると)筆者のみならず、沢山おられるようです
が、
それらのサイトを読むと、100%、テーマあってのリサーチを指しています。
テーマあってのリサーチとは、
「朝、コーヒーを飲む人」
といったテーマに基づく調査です。調査の仕事、と言い換えていいでしょう。
もちろん、それはそれで正解!かつ重要ですが、テーマなしの調査も必要です。
テーマなしの調査とは、時勢を読むこと。
時勢で分かりにくければ、社会のムード、時代の流れ、人心、傾向、トレンド、新しい価値観、趨勢、世論、風潮、潮流といった、世の中の動きです。
世の中の動きというと、PEST(ぺすと)分析 ※ が挙げられがちですケド、
※
Politics(政治)
Economy(経済)
Society(社会)
Technology(技術)の頭文字をつなげた情報分析。規制緩和が好例。ぶっちゃけ、
日本経済新聞(の政治面、経済面、社会面、企業面)を読むこと。
PEST分析を用いて、こんにちの禁煙社会を予測していたマーケターが、いたかどうか?
喫煙ピーク時の1966年には、83%もの成人男性が、たばこを吸っていました。
電車の席や、自動車には、灰皿が付いていて、当たり前でした。
わずか17年前の平成13年さえ、過半数(52%)の男性がスモーカーでした。
喫茶店や観光地では、マッチを無料で配っていました(東京ディズニーランドのマッチがあったくらいです)
マッチが、キオスクでは、10円で売られていました(私事ですが、ライターを忘れた時なぞ、よく買いました)
それが今では、まったく見かけなくなりました。時勢です。
こうした変化は、PEST分析からは読み取れない、人々の心の移り変わりであり、民意のインサイト(本音)
以下は推測ながら、心のどこかで、
・たばこを吸っている多くの人々が、禁煙したいと思っていた
・たばこを吸わない多くの人々が、禁煙の社会になってほしいと思っていた
・WHO(世界保健機構)が時勢を作った(全世界が啓蒙された)
等、こうした、人々の気持ちや作為が、まさかの禁煙社会を実現したといっていいのでは?
またも私事で恐縮ですが、禁煙するつもりのなかった筆者が禁煙してしまったのは、その時勢に飲み込まれたから。
このように、時勢は、身近に在りて、他人事ではありません。
時勢を知るには、メディアでオープン情報を集めるのみならず、前掲のように、当事者からも聴くことです。
成功に再現性は無くても、失敗には2つの再現性がある
時勢を比喩するとしたら、大津波。気づかないうちに近づいてきます。
その津波の到来を、感知しようとする調査分析が「時勢を読むマーケティングリサーチ」です。
仕事としての(期限や予算が決まっている)担当者レベルのリサーチではなく、
会社の10年後を展望するような、俯瞰したリサーチになります。
その高みにアンテナを立てられるかどうかは、従業員であっても、経営意識の有無によりけり。
(経営意識については、このメルマガ創刊の頃から、耳にタコができるくらい、繰り返してきましたね?)
そのマーケティング リサーチは、日々の仕事に追われて、いつしか、やらなくなってしまいがち。それが現実です。
なので、リサーチを継続するには、情報を持ち合い、時勢を読む会議のような定期的なミーティングを催すと良いでしょう。
まとめますと、時勢は、その時しか成し得ない大いなる力、天が動く時※です。
※天の時 地の利 人の和。天地人(孟子)
その力によって、上昇気流に乗った企業もあれば、失速した企業もあります。
時勢が変われば、ビジネスも変わります。
廃れるビジネスもあれば、興るビジネスもあります。
天地人の動きに呼応する時勢を読むには、テーマを設けない調査分析が必要です。
なぜなら、起業や事業の成功に、レシピ(再現法)は無いからです。
あるとしたら、コンサルタントが後づけで分析した成功要因(KSF)でしょう。
成功の軌跡は、事業や商品の数だけありますが、失敗には、共通点があります。
1.情報不足(リサーチ)
と
2.思い込み(バイアス)
です。
情報を集める作業(リサーチ)から始めるマーケティングは、勝つ方法である以前に、負けない方法、会社を潰さない方法でもあります。
ぜひ、時勢を読むマーケティング リサーチを、取り入れてみて下さい。
何も難しいことはありません、オープン情報を集め、気になる情報があったら、話を聴きに行って、クローズ情報も集めるのみ。
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