弱き者その名は顧客[後編]
プロスペクティング
マーケティングでは、見込み客の獲得、あるいは、獲得した見込み客を、
リード・ジェネレーション(Lead Generation※)
という(ことがある)
※Lead Generationの直訳は「手がかりを得ること」「糸口の創出」
おそらく「顧客になる糸口としての」見込み客という意味で、
・リード(Lead)を「見込み客」
と呼んだり、
・リード・ジェネレーション(Lead Generation)を「見込み客の獲得」
と呼んだりするのだろうか。詳しい方がいらっしゃったら教えて頂きたい。
リード・ジェネレーションは、確かに、データベース・マーケティング用語であり、私事ながら、企画書や提案書等のドキュメントでは目にするものの、
「リード・ジェネレーションが、ドーしたコーした」
という会話を耳にしたことは一度もないように記憶している。
同じ意味で会話に使われるのは、どちらかというと、
プロスペクティング(Prospecting)=見込み客の発掘
のほうが多かったように振り返る(プロスペクト=見込み客)
とくに、Prospectingの語意である(油田や炭鉱を)発掘して一山当てるというような意味で、大口の見込み客の発掘に使われる。
「○○業界の上位10社に的を絞ってプロスペクティングしている」
というような使われ方。
リード・クォリフィケイション
獲得した見込み客の育成をリード・ナーチャリング(Lead Nurturing)ということは前回に述べた。
マーケティングの教科書?的には、見込み客を育成(リード・ナーチャリング)した後に、有望な見込み客のみ絞り込む。
これをリード・クォリフィケイション(Lead Qualification)という。
クォリフィケイションを直訳すると、資格、素質、技能、資質、能力、適格性、必要条件、制限、限定のことで、リード・クォリフィケイションを直訳すれば見込み客の制限。
要するに、買う可能性の高い見込み客や、それらを絞り込むスクリーニング※を指す。
※Screening=ふるいにかけて分けること
これら3つのリードを順に追うと、
1 見込み客を集めてリスト化し(リード・ジェネレーション)
↓
2 見込み客を育成し(リード・ナーチャリング)
↓
3 有望な見込み客のみ絞り込む(リード・クォリフィケイション)
↓
営業担当へバトンタッチ
となる。最後に営業へバトンタッチする流れからしてお察しの通りBtoBに多い。
たとえば、(広告以外にも)展示会 → セミナー案内 → 個別アポイント
のような営業シナリオである。
こうしてスクリーニングした「見込み客リスト」を営業マンへ、
「これが有望な見込み客のリストですよ。さあ、売ってきなさい」
と渡せば、営業マンはムダなく効率的に営業活動しやすい=売上が伸びやすい
というワケである。現場感覚では「そう簡単に上手くいくかい」と思うが
余談だが、スクリーニングには、
・既存客のデータと照らし合わせる方法
と
・アンケートやヒアリングによって見込み度を測定する方法がある。
現在の顧客の傾向を知っていれば、それに近い条件の見込み客が有望な見込み客になる。
平たくいうと、現在の顧客に「男性。40歳以上。既婚。年収1000万円以上」が多ければ、その条件に合う見込み客が有望ということになる。
アンケートやヒアリングによる見込み度の測定は、お分かりになると思う。
「この商品に関心がありますか?」「この商品を買いたいと思いますか?」
等を訊ね、その回答によって見込み度を推し量る。
デマンド・ジェネレーション
近ごろでは前述の、
1 リード・ジェネレーション
↓
2 リード・ナーチャリング
↓
3 リード・クォリフィケイション
↓
営業へバトンタッチ
の流れを一括りにして、リード・クリエイション(見込み客創造)やデマンドジェネレーション(需要発生)と呼ぶらしい。
広告業界の用語で、DGCやDGキャンペーン、デジキャンというと、このデマンドジェネレーション(需要発生)キャンペーンを指すという。
「さあ、需要発生(デマンド・ジェネレーション)キャンペーンやりましょう」
と提案して、広告(を含めたプロモーション)を売るわけだが、CIにしても地方博イベントにしても、新しい無形商品を作り出す広告代理店にはホトホト頭が下がる。いかにもマーケティングのプロ集団らしい(笑)
既存の商品に、新しい名称を付けて、新商品化するわけだが、前述のカタカナ好きの業界風土が新しいカタカナ用語を誕生させるのだろうか。
デマンド・ジェネレーション・キャンペーンといっても恐るるべからず(笑)、仔細に見てみればプロモーション(広告・販促・広報・営業)のことである。
この基本(プロモーション = 広告・販促・広報・営業 = 値引き行為)さえ覚えておけば何にでも応用できる。
リード・ナーチャリングといっても難しいことはなく、結局はプロモーションのことであり、プロモーションは、広告・販促・広報・営業の4つのみ。
Nurtureに助成の意味がある通り、リード・ナーチャリングは、販売助成物を使った販売促進(SP)活動と、商品への理解を高める広報(PR)活動である。
広告から始まったプロモーションが、販促と広報へ連鎖し、最終の営業活動へと連鎖していくとは、こういうことである。
売れる商品を、売れる人へ、売れる価格で、売れる場所で、売れるように売るのがマーケティング。
リード・ナーチャリングの具体例
デマンド・ジェネレーションあるいはリード・クリエイションはBtoBに多いと前述した。
が、基本(プロモーション = 広告・販促・広報・営業 = 値引き行為)さえ覚えておけば、BtoCへも応用できる。
その具体的な一例として、(多額の広告費を投じている)ある健食通販の場合、(当社がプロモーションに関与していた頃)無料サンプルを送った後に、
・レター(挨拶状)
・A6判の小冊子
・商品リーフレット
・申込書(当時は料金受取人払ハガキ。もちろん、電話やFAXでも注文可能)
・アンケートハガキ(答えてくれた人の中から抽選でプレゼント)
の5点を長3封筒に入れて、一年間、二ヶ月に一度、5回送る。無料サンプルを含めると計6回になる。
冊子は、1巻から5巻までの連続物語で、商品に使われている素材の由来や効能等が16ページにわたって綴られている。
物語は、たとえば「ガリバー旅行記」のような有名な小説の主人公が、秘宝にたとえた当該商品を探し求める旅のエピソード仕立て。
いわば、楽しく読める教科書のようなもので、これによって見込み客の興味を引き上げつつ育成する。リード・ナーチャリング(見込み客の育成)である。
本例のように(特にBtoCの場合)現実には、教科書通りに進めるよりも、育成と絞込みを同時進行させるほうが多い。これは現場から得た実感である。
たとえば、申込書の同封にしても、最後の一回のみ同封するのではなく、毎回同封することによって、受注機会を増やす。
また、毎回申込書が同封されていて、いつでも買えるようになっているほうが、買う気になっている見込み客に対して親切。
「電話番号を載せておけば、電話で注文してくるなり、問い合せてくるだろう」などという見込みは甘い(笑)
それほどまでに努力して買う商品は、よっぽど欲しい商品に限られる。誰しも身に覚えがあるだろう。
購入機会は、ちょっとしたこと(面倒な作業の押し付けなど)で失われるもの。
「いつでも買えるようにしておく」ということは「いつでも売れるようにしておく」と同義である。商売の鉄則といっていい
ブックレット・プロモーション
本例で用いられたのは、ハガキと冊子であった。
小冊子で宣伝する方法をブックレット・プロモーション(Booklet Promotion)という。
これは、リード・ナーチャリング(見込み客の育成)以外に、いろいろな使い方がある。本例のように、興味を高めたり、理解を促進するなど、広報の意味合いが強い宣伝に多い。
ダイレクトメールに限らず、手渡しでは、某冊子協会という新興宗教が、一軒一軒まわって小冊子を手渡ししている。
ユニークなところでは、米国マクドナルド。
ハンバーガーはダイエットの敵という構図が定着したためか「ダイエットする人のためのハンバーガー(Hamburgers for dieters)」という商品を企画した。
メニューにカロリーを表示し、そのカロリーを消費する運動法が載った小冊子付きでハンバーガーをセット販売する企画だが、実現したかどうかは不明。
本例では、この小冊子が、続きものの物語になっていて、ストーリーは、毎回新展開してゆく。
興味のある人、つまり、有望な見込み客は、つい、次回も読みたくなるという仕掛けであった。
小冊子のみならず、商品リーフレットも毎回ごとに異なり(すべて期間限定)
・ご購入の方のみ、今だけ、オマケ付き(キャリー・オン)
もあれば、
・お試し価格(トライアル・オファー)
もあれば、
・まとめ買い値引き(バルク・バイイング・ディスカウント)
もあり、DMという一つの封書の中に、広報(小冊子)と販促(リーフレット)と営業(申込書)が渾然一体となっている。
こうして、広告を出稿した一年後まで、一連のブックレット・プロモーションは続く。
これはWebプロモーションにも通じることだが、マーケティングは広告を出して反応を刈り取ったら「ハイお終い」という場当たり的な方略ではなく、一年先や五年先まで見越した戦略・戦術であることをご理解いただけるであろう。
弱き者 その名は顧客
ここまで長きにわたりダイレクトマーケティングの実際について述べてきた。
ここまで書いてきたように、マーケティングは科学的に行われるが、科学的であるがゆえに、重大な欠陥が3つある。
一つ目が、数字で判断すること。
たとえば、クォリフィケイションにもナーチャリングにも数字が必要で、予め定めた数字に基づいて、見込み客に○×をつける。
わかりやすい例が年齢で、30代と定義すると、29歳も41歳も×になるが、現実には、流行語大賞にもなったアラフォーのように、数字で割り切るのが難しいグレーゾーンがある。それを取りこぼしてしまう。
二つ目が、マーケティングは、売る側が、売るために立てる作戦であること。
これまで御覧になってきた通り、徹頭徹尾、売る側の立場でマーケティングは進められる。
ひどい例になると「絶対に売れる!」と確信して準備してきたにもかかわらず、蓋を開けてみたら、まったく売れずに赤字撤退ということが、よくある。
特に中小零細企業の方は注意して頂きたいのだが、大手企業のマーケティングには、水面からでは見えづらい、水面下の活動が多分にある。
たとえば、ある日用品メーカーは、顧客のインサイトを探るべく、一般家庭に一週間ほど泊まり込むことさえある。そうした調査結果が商品へ反映される。
また、予算や人員という体力も決定的に異なれば、知名度やマーケティング力といった無形資産も異なる。ヘタに真似すると痛い目に遭う
三つ目。マーケティングは科学的だけに、顧客とは何か?商売の基本が疎かに
なりがちな傾向がある。
マーケティングを突き詰めると顧客へ行き着き、顧客を突き詰めると顧客満足へ行き着くのだが、1と2の理由に関連してマーケティングは、売る側の独善性によって顧客満足を阻害する危険を孕んでいる。
マーケティングが行き着くところの「顧客」とは何か?
(このシリーズの核心にあたるが)特に見込み客を含め、顧客は、
・データや計算で割り切れる存在 = 数字
でもなければ、
・お金を払う権限をもつ強い存在 = 神様
でもなければ、
・下手に出なければならない存在 = ご主人さま
でもなければ、
・商売を抜きにして付き合う存在 = 友人
でもなく、
・一人では生きていけない弱い存在 = 人間
である。そう考えれば、顧客の謎が解ける。
逆に、強いのは、顧客ではなく、顧客の障害になっている業界自身の因循固陋。
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