正統派マーケティングの限界

マーケティングの雄といっていいプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble/P&G)が、面白いリサーチを行った。

洗濯洗剤のマーケティング担当者と、広告代理店の2名で、無作為に抽出した一般家庭へ泊り込み、家庭における洗剤について、観察調査を行ったという。

その結果、「洗濯洗剤は、家庭生活において、まったく重要視されていない」との結論に至った。

要するに、安くて良い洗剤ならば、P&Gだろうが、ユニリーバだろうが、無名ブランドだろうが、どれでも良いと考えられている。

盲点といえよう。企業側としては、心血を注いで作り上げた自社製品が一番と自負して当然だからである。


逆に「自社製品だろうが、他社製品だろうが、どれも同じだよ」と投げやりになって販売する企業など無いのではあるまいか。

おそらく、P&Gのマーケティング担当者は、相当なショックを受けたであろう。マーケティングの苦労も喜びも自尊も、ユーザーには無関係なのである。

この調査の結果が、どのように反映されたかまでは分らない(おそらく企業秘密であろう)が、必ずや関連各所へフィードバックされたに違いない。

こうしたユニークな調査を行うあたり、さすがはP&G。これからも動向に注目したい。

製品作りにしても、販売にしても、自他の間には隔たりがある。


メーカー側が「美しい」と満足していても、「どこが美しいの?」とユーザーが疑問に感じるならば、「美しい製品」との訴求は通じない。

ユーザーの感覚に合った訴求にして、「おお!それそれ!それが欲しかったんだ」と覚醒を促す必要がある。

ここに、マーケティングの弱点がある。

企業は営利追及団体だから、俗な表現を用いれば、カネを欲しがる。

一方の顧客は、命の次に大事なカネを、一円でも払いたくない。

「カネくれ」vs「払いたくない」の熾烈な戦いである。その折り合いが価格であったり、品質であったりする。

だから安いものが好まれる。米国産牛肉のニュースが記憶に新しいと思うが、「安いから買う」という人もいるし、「おいしいから買う」という人もいる。

一方で、安全という絶対価値が付加されていない牛肉は、いくら安くたって「買わない」という人もいる。つまり、

「カネは払うけど、払う金額以上の価値が無ければ払わない」ということになる。本例では、「牛肉を買って食べるけど、安全じゃない牛肉は買わない」ということ。

 安全という付加価値が、牛肉という商品に勝る。

つまり、安いに加えて、良いものである以上に、安全であらねばならない。良いものが当然であれば、それ以上の価値(安全)を示す必要がある。


10円の価値を10円で売るのは当然。10円以上に価値がないのであれば、9円以下で売る他に付加価値はない。

そうすれば「安い」という価値が付加される。しかし、安さを競って勝ち続けるのは、容易ではない。

10円で売るには、10円以上の価値が要る。それが今の日本である。


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