第五章-2項 ダイレクトメールに秘められた「人の動かし方」

(拙著の宣伝です:笑)

日時を指定して動かす

「買ってください」

と勧めるダイレクト・メールには、人を動かす技術が満載されています。

お金を支払う=お金が減るのは、誰だってイヤなもの。ロス暴動を例にとるまでもなく、払わなくて済むものなら、頂くものだけ頂いて、一円も払いたくないのが人情。

それを、自ら望んで
「お金を払います」
と注文させてしまうDMは、もっとも動きにくい対象を動かしてしまう技術の結晶といっていいでしょう。

では、そのDMから、幾つか代表的な方法をご紹介しましょう。


散らばったオモチャで足の踏み場もない部屋を見た親が、「すぐに片付けなさい」と命じたとしましょう。

数時間後に確認してみると、片付けられていない。それを見た親は「片付けろと言ったじゃないか」と怒る。

怒る前に、そうした子供に命じるのでしたら、
「何時までに」
片付けるか時間を決めてみてください。そうすると
「片付けろ」
という命令が、
「何時までに終わらせる」
という約束に変わります。

命令だと、
「やりたくないのにシブシブ」
と消極的になりがちですが、約束だと
「約束は守らなければならない」
という良心に訴えますので、自発的な行動を促せます。

さらには、約束を破るには理由がありますから、
「言ったじゃないか」
と怒ることなく、
「どうして約束を破ったんだ?正当な理由があったのか?」
と理で諭すことができます。


このように、時間にリミットを設ける方法を、時間限定(limited-time)といいます。

片付けのように、短時間で済む場合は時間の指定で良いのですが、
「近日中に連絡します」
という具合に、日数がかかりそうな場合は、
「わかった」で済ませずに、
「何月何日までに?」
と締切日を指定してみて下さい。

これを、締切日(deadline-date)限定効果といい、時間限定と合わせて、期間限定効果(deadline-effect)といいます。

また、期間を限定することによって、残り時間を明確に示すことができ、焦らせることができます。

「あと××時間しかない」
と焦れば人は動くわけです。

待ち合せ時間の許容範囲が人それぞれであるように、日時の許容範囲も人によって異なります。

「近日中」と聞いて「3日くらい」と思う人もいれば、「10日以内」と思う人もいる。
双方ともに「時間に対する自分の概念は間違っていない」と思っていますから、日時を曖昧にしておくと、

「すぐにやれって言っただろう」(この人が思う「すぐ」は一分以内)

「やろうとしていた」(この人が思う「すぐ」は30分以内)

と、スレ違ってしまう。これでは、双方が納得できる結果に落ち着くハズがありませんね?


DMやチラシに
「何月何日まで」
とか
「14:00~16:00タイムセール」
と記されてあるのは、お得な日時を記憶させ、損しないように焦らせ、期間内に買ってもらう動機づけが目的です。

店舗の場合は、アイドルタイム(暇な時間)に来店してもらう役割もあります。

以上のように、相手の行動を待つ場合には、「何月何日の何時までに?」と、日時を明確にしてみて下さい。たったそれだけで、今まで動かなかったものが、動き出すこともあります。

氏名を特定して動かす

ダイレクトメールの宛名を、まじまじと御覧になったことがありますか?あなたのフルネームが書かれた宛名もあれば、
「ご購入者さま」とか
「ご担当者さま」といった、
誰宛なのか曖昧な宛名もあったことでしょう。

受取人の氏名を特定したDMの開封率は、特定していない場合に比べ、2~3倍に伸びると言われています。

自分宛てへ届いたダイレクトメールの封は、倍も開けやすいのですね。

「ご購入者さま」
とか
「ご担当者さま」
といった漠然とした宛名のDMは、あなた個人ではなく、住所へ宛てて送ったダイレクトメールであることを、人は機敏に察知します。

氏名が特定されていないと、暗に「誰でも良いから」ということが分り、開封率が下がるわけです。

宛名に受取人の名前が明記してあると、
「その住所に住んでいる、あなた個人へ届けられたものですよ」
と、暗に訴えることができます。

「住所のみ」
よりも
「住所+氏名」
のほうが、より
「自分へ宛てたもの」
との確信を深めるため、開封率が高まるというワケです。

それほど、人は、指名されたときに応えるようになっています。


あなたの氏名を宛名にする、つまり、宛名に受取人氏名を表記する手法を、マーケティングでは、パーソナリゼーション(personalization)といいます。

名前を特定することによって、「あなたです」と認識させる方法。

これは、日常生活にもおいても然り。個人名を特定しないで呼びかける人は、

  • 「おい」とか、

  • 「お前」とか、

  • 「キミ」とか、

  • 「誰か」

と呼びかけて、誰からも返事されずに、「無視してんのか?」と勝手に怒るハメになります。

個人名を特定して呼びかける人は、「佐藤さん」「鈴木くん」「太郎」「花子ちゃん」と指名して、「あ、自分だ」と認識させることができます。

その結果、「何の用?」と返事が返ってくる。

芸名のようなブランドを除き、氏名とは、個々人が
「自分は佐藤一郎である」
と認識するために持っている認識記号ですから、認識させるために、できるだけ氏名で呼びかけるようにしてみて下さい。

認められるには、まず認めることから。あなたが相手を認識したとき、相手もあなたを認識します。

動き方を提示して動かす

DMの末尾にありがちですよね?「今すぐお電話を!03-30123-4567」

他にも、
「同封のハガキをポストに投函するだけ!」
とか
「ホームページからお申し込み頂くと×××を進呈します」
といった具合に、あなたの行動を促す一文が書いてあります。(書いていないDMも多数あります)

どうして、末尾に
「このように動いて下さい」
と書いてあるかというと、動き方を教えて、申し込ませるためです。なぜなら、
・人は、どう動けば良いか、積極的に考えない

・DMを読み終わったあと、どうすれば買えるのか、DMを読んでいる最中に忘れてしまう

・DMを読んでいる最中に高まった購買意欲が薄れないうちに申し込ませる

・どうすれば買えるか、最後の最後に印象づける

これを、マーケティングでは、行動指示(action-directive)とか行動喚起(action-call)といいます。


あなたが思っている以上に、人は、どうすれば良いか積極的に考えないものです。
「そこまで教えなきゃ動けないの?」
というシーンが、日常にゴロゴロ転がっています。

たとえば、料理。味噌汁を作った経験のない(作り方を知らない)人は、味噌汁を作る人にとって常識である「ダシ」を入れません。
まさに、味噌を溶いただけの味噌汁を作ります。

それで「まずい味噌汁だ」と自信を失っている。そういう人には、味噌汁の作りかた以前に、ダシの取り方から教えなければならない。

「そんな奴、おらんやろ」って?
誰あろう、18歳の学生の頃の私がそうでした。

今では自分でも信じられませんが、そんなモンなんですよ。あなたの常識が、他人の常識たり得る確証はないのです。

よく「日本の常識は世界の非常識」と言われる通り、あなたの常識は他人の非常識。

他人の常識はあなたの非常識といっていいほど、かけ離れていることもあるんです。

あなたが「こりゃ常識」と思う常識は、あなたが常識だと思っているに過ぎず、必ずしも万人の常識ではないことを覚えておいて下さい。


仕事に視点を移すと、たとえば納期。日時の約束を守らない職業人が意外と多い。これは、
「そこまで教えなくとも大丈夫な人材を採用している。納期を守るのは社会人として当たり前」と、会社側が思いこんでいるだけの話。

納期を守れない人は、名の通った企業にも結構いるものです。

たとえば、メモ。筆録の重要性を理解している人は多いのですが、意外とメモを取らない。
「メモしないんですか?」と問われて、あわててメモ帳を取り出す議員もいるくらい。

試しに、観察してご覧なさい?メモを取る人に限って、有能な人物が多い傾向に気づくはずです。

私の友人では、「図解・実戦マーケティング戦略」の著者・佐藤義典先生や、「道具としてのファイナンス」の著者・石野雄一先生がメモ魔です。

お二人とも、コンサルタントにして経営者で、英語ペラペラのMBAホルダー。

もしかしたら、MBAのプログラムの中に、わざわざ、メモの重要性を教えるプログラムがあるのかもしれませんね。


どんな些細なことであっても、
「そんなの教えるまでもない、誰でも知っている、当たり前な話」
と思うのは、あなたの価値観や経験則から導き出された常識であって、他の人にとっては、意外どころか、知ってビックリ!驚きの新事実かも知れません。

その逆も然りで、他の人(たとえば私)にとって当たり前な話であっても、あなたにとっては、目から鱗かも知れない。

なので、
「そこまで教えなくとも良いだろう」
と思われることであっても、
「ほら、こうするんだよ?」
とわざわざ教え、曖昧になりがちな内容を明確にストロークすることで、人は動きやすくなります。

紙数の都合で3つしか開陳できませんでしたが、マーケティングには、もっと多くのテクニックがありますので、ご興味がありましたら、マーケティング書を読んでみるのも良いでしょう。

私のマーケティング書でなくとも構いませんので(笑)

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