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小説『en PACA』

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何年かぶりに訪れたプロヴァンスの街は、かつてとはどこか違う印象だった。 世界的パンデミックは収束したのちも、なおも進行中の気候変動に悩まされるエクス=アン=プロヴァンス、マルセ… もっと読む
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1.噴水の街-3.市庁舎の広場 en PACA

坂を登りきったあたりの角を右手に折れる。美味しそうなパンの匂いがして、その方向に顔を向けると、ブーランジェリーがある。この店構えは記憶にある。8年前に来たときにもここにあった、確か。そして、小さな甘いパンを買って食べたのだった。 パン買わない?と聞いてみる。妻も同意したので、店に入る。小さな店内に客は私たちだけ。お店の人もピンクの半袖のシャツを着た気の良さそうな女性がひとり。ひとつずつ食べたいパンを選ぶ。お腹が空いてたわけでは決してない。飛行機のなかでも何度も食事をしたし、

1.噴水の街-2.サントン人形 en PACA

コートを脱いだまま、上はシャツ1枚でホテルを出る。妻もさっきまで着ていたカーディガンを脱いで、ノースリーブのワンピース1枚になっていた。ワンピースの生地は、白地にさまざまな古いヨーロッパの職人が使っていた道具が淡いブルーとグリーンを使った線画で小さくいくつも描かれたものだ。腰のあたりを細い布のベルトでしぼるデザイン。彼女はまぶしい陽射しを避けるように、サングラスをかけ、帽子をかぶった。 シャツ1枚でもすこし暑いくらいの強い陽射しが降りかかる。しばらく旅行にこれる状況ではなかっ

1.噴水の街-1.ジェラート屋のこと en PACA

12時間ほどのフライトでパリ・シャルル・ド・ゴール国際空港に着いたのが、4:30AM頃。トランジットで2時間半ほど待ったのを含めて、マルセイユ・プロヴァンス空港に到着したのが、8:30AMくらいか。車でエクス=アン=プロヴァンスの街に着いたときには、9時になろうとしていた。 噴水がたくさんあるこの街でも一番大きなものであるロトンドの噴水のまわりをいくつかの企業のロゴマークの入った横断幕やのぼりがかこっていた。何か祭りでもあるようだ。いや、何かのレースだろうか。円形広場のまわ