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5年間バーテンダーをして得たスキル

プロフィールとしている以下の記事にも書いたが、自分は18歳〜23歳まで大学生活の傍ら、バーテンダーとして働いていた。(週6日労働で生計を立てていたのでもはや本業)

34歳の今、振り返ってみるとその5年間で得られたスキルは大いに社会人生活に役立っていると感じる。
現在大学生でバーテンダーのアルバイトをしようか悩んでいる人向けというひたすらニッチなターゲットで得られたスキルたちについて紹介しよう。

ただし、最後にその理由を書くがこの記事では決してバーテンダーとして働くことをおすすめするわけではない


酔った人への対応力が上がる

当然だが、夜も深くなってくれば来客されるお客様は酔客が多い。
彼ら彼女らは2軒目、3軒目としてバーに来客されるため、そこそこ出来上がっている。

もちろん対応が辛くなることもあるが、たいてい陽気な酔っぱらいだ。
辛気臭い顔して迎えるよりも、あたかも「あなたがたをこれからさらに快適な空間に誘うハッピーな案内人ですよ」という態度で接すれば喜んでくれる。
やばい酔客でも「大丈夫、自分は味方ですよ」と一所懸命接していると大人しくなってくれる。

これらの経験は会社の飲み会や接待で同席者が泥酔したときに役立つ。

やたら酒に詳しくなる

職務だからこれも当然だが、お酒に詳しくなれる。
特に自分は途中でシングルモルトウイスキーと葉巻の専門店で一時期店長となったため(学生でも店長を任せてもらえた)、必死で銘柄を覚えた。カクテルもカクテルブックを読み込んでひたすら練習した。

ステア(マドラーでかき混ぜるアレ)も指にタコができるほどにくるくるし続けるところから始まる。
氷の取り扱いも慣れたもので、最終的に丸氷もダイアモンドカットも手ずから作れるようになる。

お酒絡みの歴史に詳しくなる

これは酒好きでも分かれるが、歴史への好奇心が湧く。
なぜラム酒は広く飲まれるほど行き渡ったのか、なぜ禁酒法時代でも酒が文化として生き残ったのか、など。

バーの成り立ちや国ごとの違いを知れば知るほど、酒が文化を織り成す一因であることを実感できる。
ただ、ワインバー勤めしていたときにワインも勉強したが、ソムリエ取得できるまでの道のりが遠すぎて諦めた経験もある。
今では国ごとのブドウ品種と産地による大まかな味の違いくらいしか覚えていない。

(店によっては)音楽のジャンルに詳しくなる

最初に勤めたワインバーは定期的に音楽イベントを催していた。
オーナーが元ピアニストであったことも影響している。

店では常にレコードでジャズを流していたし、特殊なジャンルのバンドのライブ演奏を給料をいただきながら聴くことができた経験はとても大きな財産になっている。
きっとそのときの経験がなければオルタナも南米音楽も出会うことはなかっただろう。

そしてレコード会社からCDを出しているような音楽家も、音楽一本で食べていけるわけではないことも知れる。

なぜか料理もできるようになる

たいていバーで出す料理は調理の手間を抑えたものが多い。
だが、その中でたまにオーナーがやる気を出してきたり(少し迷惑)、従業員が増えてきたりすると料理をする機会がある。

他店で出している料理から作れそうなものを真似し、最終的にバレンタインには常連の男性客へ手作りチョコを配ったりするようになった。
他の従業員への賄いも、オーナーと相談の上で導入したおかげで若い男子が喜ぶ料理を短時間で作るスキルも磨けた。
なぜか男が食べる物ばかり作っていたので女子向け料理はてんでダメ。

手首と足腰が強くなり姿勢が良くなる

とにかく姿勢良く立つのはバーテンダーの基本だったおかげで、自然と足腰は強くなる。
背筋も伸ばすし、所作を気遣うようになる。
手が最もよく見られる機会が多いため、爪の長さも気にする。

これらはよく世間一般で言われる清潔感のベースになるもので、このあたりが身についただけでもバーテンダー経験があって良かったと思える部分でもある。
ただし常に肉体が緊張状態に近いため、他の仕事より労働後にどっかり疲れが出たりする。

笑顔でいることの強さを思い知る

男女問わず、笑顔で人に接するということの大事さがよくわかる。
自分が笑顔で接客すればおおむね相手もリラックスできるし、真顔で接客し続けるとお客様も緊張感が解けない。

始めたての頃、オーナーから「表情が硬いってクレームが入っている」と言われたおかげで改善できたが、これを改善するだけで一切のクレームがなくなった。
不思議なもので、笑い慣れると自然と笑えるようになる。
表情筋がガチガチの人は、最初無理にでも笑顔を作る練習をしていくと良い。いつか慣れる。

目上の人への接し方を学べる

18歳の若造の時代、お客様はすべて年上だった。飲酒する場だから当然である。
最初は敬語を正しく使わねば、と気負っていたが、実は敬語より大事な姿勢があった。

「話を聞く態度」である。
「おじさんは説教することで悦に入っている」や「自分語りで気持ちよくなっている」など、SNSではいろんな意見があるが、意外とそういった説教や自慢話の中には役立つ知識が入っていたりする。
そういった話を邪険にせず深堀りできるようになると、お互いに楽しい会話になるんだ。これはすごく簡単で、相手に興味を持つだけで自然と質問できるようになる。
ただし何回も同じ話を聞くことも多々あるので、そこは気合いとか根性で乗り切ろう。

※たまに「他人に興味を持てない」という人もいるが、本当に「できない」ならコミュニケーションのあるバーのバーテンダーは厳しいのでやらないほうがいい。「持たないようにしている」なら意固地になるのをやめると意外と楽しいから試してみてほしい。

様々なジャンルの人に出会って学べる

音楽の話につながるが、とにかく多彩な方々が来店される。
サラリーマンも様々な業種の会社で働いており、様々な役職に就き、様々なチームに属している。
比較的医師が多い地域だったが、医師も様々な専門を持っている。

一度、盲導犬の来店もあった。
それまで盲導犬に接したことがなかったが、あれほどまでに賢い犬は実物で他に見たことがない。
多くの人が知っている芸能人も来られたし、有名企業の社長もいらっしゃった。

それらすべての経験は今でも財産と呼べる。

黙って場に存在できるようになる

接客に慣れてきた時期に案外難しかったのが「黙っている」ことだ。
お客様は単独の場合も複数名の場合もあるが、どういったケースであろうとすべての人がコミュニケーションを求めているわけではない。

黙々と好きなお酒を飲んでパッと帰りたいお客様に対して、黙って佇んで彼や彼女のサポートに徹するというのに慣れるのに時間がかかった。
次の盃を欲している頃にさりげなく声をかけたいが、それまでジロジロ視線を送っては落ち着かないだろうから、HUNTER×HUNTERで言う『円』のように察する力を養う必要があったのだ。

最終的に「自分は他の仕事してるんで気づいたら声かけまっせ」くらいの気持ちでやることがベストだと気づいた。
ときどきバーテンダーが中空を見つめながら佇んでいても気にしてはいけない。

多様性を気にしなくなる

ジャンルの話とは別個で、多様性についても書いておきたい。
バーには本当にいろんなお客様が来店されるのだが、中にはセクシュアリティの差異や、人とのコミュニケーションに関して完全に難がある方もいらっしゃる。

最初は「こういったお客様だから特別にこうしよう」とサービス偏重な形で接しようとしたが、オーナーから「逆に失礼になるケースもある」と指摘されてからは自重した。
他のお客様と同じ金額を払っているのだから、普段と同じく他のお客様を大事にするように接客するだけで良かったのだ。

本当のお金持ちがいることを知れる

ときどきお金の使い方がとんでもないお客様が現れる。
貧乏大学生だった自分からしたら目玉が飛び出るような額を一瞬で払っていくのだ。

憧憬の念を抱くことすら烏滸がましいほどのお金持ちではあるが、やはり一種のスキルというだけで、話してみたらこわいことも何もなかった。
ただ、この世界は資本主義で成り立っており、その中で本当に資本を持つタイプの人がいると知ることができたのは大事な経験だった。
少なくとも彼ら彼女らは「お金ないから食べられる雑草でも摘みに行くか」という経験をしたことがない。

褒められるより叱られることの大事さを知れる

若い時に店長経験をさせていただいたおかげで、褒められることは多かったと思う。
自分なりに頑張った結果として認められているような気がして、天狗になっていた期間があることは否定しない。

だが、だいたい天狗になっているときは誰かに叱られる経験をする。鼻っ柱を根っこから折られるのだ。
相手が酔っ払った上司だったとき、「酔ってるから若者に説教したいんだな」とあしらっていた自分を殴ってやりたい。本当に自分のことを考えて改めさせようとしてくれていたんだと気づいたのはずっと後になってからだった。

結局、バーテンダーとして働いていた時代は唯我独尊とまではいかずとも、調子に乗った若造を続けてしまっていた。
大人になって、独り立ちしたらもはや叱ってくれる人なんてほとんどいない。よく「怒られるうちが華」と言うが、まさしくそれを実感している。

バーテンダーを若い人に勧めない4つの理由

ここまで良い面を紹介してきたが、最後の最後でバーテンダーを勧められない理由を書く。

1. 昼間眠くなる

大学生だったこともあり、とにかく昼間眠い。だが、自分で授業料を支払っている状態だったため、もったいなくて授業には出席していた。(ナイス貧乏性)

もし朝まで働いて朝から大学に行く自信がないなら夜〜朝にかけて働く職種は避けたほうがいい。
自分の場合は大学の他に昼のバイトも掛け持ちしていたおかげで、18歳にして過労で入院することになった。

2. 良くも悪くも気に入られることがある

女性の場合は男性から不用意に気に入られてしまう経験をしたことがある人も少なくないかもしれない。

自分の場合は、男性客からストーカー被害に遭い、その中でも最も憤ったのはアンダーウェアを盗まれた経験だ。当時本当に貧乏だったから衣類はやめてほしかった。
その後、別で女性からつきまとい(ストーカーとまではいかないが)のようなことをされ、海外で暮らし始めるまで夜中に電話がかかってくることが多かった。

こういった行為で神経を摩耗させると私生活でも荒れる。どう対処すればいいかはわからないが、IT業界ではほとんど人と関わっていないので今は平和だ。

3. アルコール中毒の危険性

仕事で酒を取り扱っていると、「勉強のため」と称してプライベートでもよく飲むようになる人がいる。
自分はまさにそのケースだ。

とにかく酒を飲むようになったが、もともと家系全体が酒に弱いこともあり、たまに動悸が走ることもあった。
今ではほとんど飲酒しなくなったが、健康を損ねるようなお酒との付き合い方はしないよう心から注意してほしい。

4. 世界が狭くなることもある

様々な職業、ジャンルの人々と出会えるメリットは先に説明した通りだが、逆にバーの外で起こっていることに疎くなるパターンもある。
流行りのJ-POPは一つも知らなかったし、大学のイベントより仕事を優先してしまった。

きっと世界にはもっと楽しいことで溢れている。そう気づいたのは夜働く生活から抜け出した後だった。
もっと早めに知っておけば、と後悔はしていないものの、他人にバーテンダーを勧めたくない理由は主にこれだ。

ウィスキーの値上げは辛いが、若い人にバーへ行ってほしい

働く場所にしろ、お酒を嗜む場所にしろ、バーへ足を向けてみてほしいと思っている。
今年4月からサントリーのウィスキーがこぞって値上げするおかげで、ますます手が届きにくい印象を受けそうではあるが、やはりお酒とお酒の場で得られる経験値は大きい。

お酒が飲めなくても、ノンアルコールカクテルやミクソロジーカクテルの一部はアルコールを含まないものもあるので、多くの人に門戸は開かれている。
長い人生の中で、良いバーを見つけることは良い友人を見つけることと同義だ。

成人年齢が18歳になったとはいえ、飲酒は20歳からなので、もし20歳未満の人がこの記事を読むことがあったら20歳になったらぜひ。

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