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故あって台湾 二

 さて、尻切れトンボで終わった台湾旅行の続きである。前回の終わり方があんまりにもあんまりだったので、今回は実際の旅程をさくさく書いていくことにしよう。
 利用したエバー航空は機内食も豪華で美味だった。台湾料理への期待も高まるばかりである。台北松山空港に着陸の際、「軍民共用のため写真撮影は厳禁」という警告を受けたのが、ミリオタ的興奮ポイントだろうか。

 よく外国の空港は、その国独特のにおいがすると聞く。例えば韓国であるならキムチ、ロシアならコンクリート、日本なら醤油とかそんな類の話だ。台湾はどんな香りがするのか期待していたが、そんな経験も無く、亜熱帯らしい蒸し暑さをただ感じるのみだった。
 10月の終わりなら過ごしやすかろうという目論見もすっかり外れてしまった。すぐにしっとりとした汗が肌着を体に吸い付かせてくる。こんなことでは熱中症が不安だが、とにかく初日の目的は国立台湾博物館である。
 実は中に興味があったわけではなく、外観を見に行ったのだが、展示内容がとてもぼく好みであった。自然科学系の展示が多く、鳥類がなかなか充実している。見せ方も凝っていて、お洒落であった。廊下に出ると、一気に明治時代にタイムスリップするのもまた良い。フォトスポットでもあるらしく、現地のインフルエンサーだかモデルらしき人がポーズを決めてそこここで写真を撮っていた。
 国立台湾博物館は展示館がいくつかに分かれており、はす向かいに旧勧業銀行台北支店を改装して作られた古生物館がある。この古生物館の展示もまた圧巻である。建物自体は狭いのだが、それを逆手に取った見せ方をしている。無論見せ方だけではなく、博物館の使命の一つである「学習の場」の役目も果たしており、現地の子らも元気にきゃあきゃあ騒ぎ、はしゃぐ大変な活気である。上野の国立博物館でも思うが、化石を見たときの子どもたちの目は実に尊い。思わず幼い頃にアンモナイトの化石を買ってもらったことを思い出す。
 博物館の小さなミュージアムショップには、あの時のアンモナイトが今も売っていた。

 ショップを冷やかした後は、近くの台湾総統府を歩いて見に行く。外から見ただけだが、しっかりと小銃を構えた警備兵がいる。とはいえ、こちらものんきな顔をした観光客である。総統府を何ら警告も受けずに写真をパシャパシャと撮らせてもらった(中央真正面から撮ろうとすると警告を受けることもあるようだ)。なんだか気温、湿度と赤レンガの質感が良くマッチしている。あいにくの曇り空だったが、南国の青空には良く映えたことだろう。
 ところで台北では皇居ランならぬ総統府ランが流行っているらしい。ランナーとちらほら行き会う。もっとも、衝突したりするようなことはなく、狭いところではきちんと順番待ちをしてくれたりする。

 正直、時間の余裕がないと思って国立台湾博物館を急いで回ってしまったので、その日行こうと思っていた予定をこなしてしまった。時刻は15時半くらいで、ホテルに戻るにはもったいない。
 そこで龍山寺まで歩いて行ってみることにした。なに、歩けぬ距離ではない。学生時分にはこの程度の距離はよく歩いたものだ。歩道は日本の地方都市程度には整備され、気を付ける必要があるのは原付くらいなものだ。危ないと思うことも全く無かった。ただ、着る服を間違えたので、ひどく暑くてたまらなかった。この分では明日は本当に熱中症になるかもしれない。
 歩いているうちに、日も落ちてきた。徐々に暗くなる街並みと、色とりどりの看板、漢字文化圏のなんとなく推測できる店々、道を走る車とバイクのヘッドライト、着いた時には気が付かなかったが、排ガスが鼻につき始める。
 どうやらぼくにとって台北は、暑さと排ガスの臭いで記憶されそうだ。

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