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顧客に愛され、コロナ禍でも、びくともしない飲食店経営者に聞いた「分散型経営」の話

きっかけは一件の「お問い合わせ」

今年の春、TAMサイトのフォームから一件の「お問い合わせ」が来ました。
そこには、問い合わせの主がフードゲートという飲食店経営の会社の代表取締役であること、「飲食店の業務システムを作りたいのでTAMの力を借りたい」とのこと、そして、名前が村上宜史であることが書かれていました。

その名前を見た途端、目の前に突然30年前の記憶が蘇りました。
当時、僕は大学4年生。
「元・人気塾講師」の名声で(その人気は授業中、生徒に配っていたドーナツによるもので、それが発覚してクビになった経緯があったのですが、それはまた別の機会に)、割のいい家庭教師の仕事をしていました。

村上宜史さんこと「ヨシくん」は、当時中2の僕の家庭教師の生徒だったのです。超高級住宅街のおぼっちゃまだったことを覚えています。ボクが8歳年上のお兄さんのイメージ。

たしか、十数年前になにかで会って、経営者になっていたことは知っていたけれど、こんな形でまた連絡をくれるとは。すぐに「これ、ヨシくんですか?」と返事をしたら、「分かりましたか!」と。それで神戸にある彼の事務所で、久しぶりの再会をしたのです。


飲食店の未来を担うのは、現場のサービスマンと料理人

飲食店の仕事が未経験の僕に彼はまず、こんな質問をしました。
「最近、接客も注文もタッチパネルでするお店が増えていますよね。あれ、嬉しいですか?」
僕は、苦手です。若い人はあれでいいのかもしれないが、やっぱり僕は人に注文聞きに来てほしい。
「ヨシくん」は我が意を得たりとばかりに、飲食店の未来は、現場のサービスマンや料理人にかかっていること、そして、最近の効率重視のシステム導入が、そのまったく逆の流れであること。

だから、中央で管理するためではなく、それぞれの店舗や現場のスタッフ一人ひとりの独創的な創意工夫をサポートするシステムを開発したいと説明してくれました。


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コロナ禍でもお客さんが来てくれた「ヨシくん」の店

ある程度以上の数の店舗を経営する会社は、効率を重視して、料理はセントラルキッチン型、接客はマニュアル型にするのが普通です。
でも、それだと厨房にもホールにも自由度がなくなる。それでは繁盛しない、というのがヨシくんの考え方でした。

彼は大学卒業後、大企業のシステムベンダーでSEをしていたのですが、20代後半でいろいろと事情があって突然一文無しになる経験をし、その頃、まったく未経験の飲食店の経営をまかされ、店をスタッフごと買い取ったところから今のキャリアをスタートしています。事業がうまくいくにつれ調子にのってチェーン店を目指しスタッフにいろいろと指示を出したら、どんどん人が辞めていったそうです。

これじゃダメだ、と極力現場にまかせるようにしたら、事業が徐々に安定し黒字に転換した。そんな体験から彼は、「箱は自分が作るからあとはよろしく頼む」という方針を徹底しているのです。

実際、彼の会社が経営する14店舗のうち、3店舗にお邪魔しましたが、どのお店もコスパ高く、味も接客もすばらしく、飲食店に訪れて心から感動するのは本当に久しぶりでした。

彼のお店は、一切広告を打たないそうです。すべてクチコミまかせ。だからオープン初年度は数千万円の赤字を出すが広告はしない。それでも予約が取りにくいくらいに繁盛していて、驚くべきことに、コロナ禍の最中でも、彼の店には相変わらずにお客さんが来てくれるそうです。しかも入れ替わりの激しい飲食店の業界で、フードゲートの各店舗は10年20年の長期に渡り繁盛を維持していることにもとても驚いてしまいました。

なぜかといえば、それは料理人や現場のスタッフに「ファン」がいるから
コロナ禍ではみんな、外食を自粛したでしょう? それでもたまには、と久しぶりにする外食で、アタリかハズレか分からない新規の店や、どこにでもある無難な店には行きませんよね。

かぎられた機会なら、やっぱり確実においしいものが食べられて、馴染みのサービスマンが迎えてくれる店に行きたい。むしろ「あの店もコロナで大変かもしれないから、応援のために行こう」と、そんなときこそ来てもらえる。

ヨシくんの経営する店は、まさにそういうお店だったのです。
例えば、ヨシくんのお店では、お刺身なんかもものすごくおいしい。なぜかと訊いたら、食材はわざわざお店の料理長が選びに行くそうです。で、一匹買いする。そこから一番おいしい部分を当日刺身にして、次の日は焼き物に…というように、現場の創意工夫が介入する余地が大きい。

これは、セントラルキッチンの店ではできないことです。化学調味料ではなく料理人の技術で美味しさをつくる。… けれど経営者のヨシくんはそのレシピもよく知らない(笑)。それくらい、「現場におまかせ」が徹底しています。
接客も付かず離れずのかゆい所に手が届くサービスで、これは「マニュアルに従っていたらできないなあ」と感心しました。


「現場の創意工夫をサポートするシステム」を開発

通常、飲食店を経営する会社のDXは「効率化」を求めます。すると、どうしても中央一括管理になる。注文データも仕入れも売り上げも、中央が管理するようになる。また、飲食店では一般的に「FL管理」とよばれる、フードと人件費を売上の60%程度に抑えるという考え方が主流です。

一方、ヨシくんの会社のシステムは彼の意向を受けて、各店舗管理で、ホールと厨房のコストを分けて集計し、利益が出たら、その店舗のインセンティブとしてスタッフに還元される形にしました。そして、そのデータはすべて現場のスタッフにオープンになっています。

だから、フードゲートの本社には現在、経理担当者は2人しかいません。年商15億を扱う飲食の会社の本社の経理が2人で事足りるほど、会計管理が各店舗にまかされているのです。


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どこかで残っていた中央集権的な「思い込み」

僕も、以前から基本的に、スタッフには「勝手に幸せになりなはれ」という方針でやってきました。
そして、事業継承の一環として、TAMをグループ経営に移行したのが、ちょうどヨシくんと再会する少し前の昨年9月。今思えば、これがまさしく分散型経営への舵を切ったときだったのですが、それからずっと、「もっと分散したい」という思いがありました。

それでも、ヨシくんと一緒に仕事をするようになってから、こんな僕の中にもまだどこかに根強く残っていた中央集権的な「思い込み」が浮き彫りになりました。
以前の僕は分散型経営を志向する一方で、根底に「とはいえ大事なことは中央が決めないと」という前提があったのです。
例えば、最近のTAMでも、事業の方向性を決める岐路に立ったことがありました。
そういう分かれ目は、トップが「えいや!」と決めるべき。各チームのリーダーたちはその決断を現場に浸透させていくのが仕事。意識はしていませんでしたが、そんな前提に立って日々の経営を考えていた気がします。

ヨシくんの理念には、そういう中央集権的な価値観の土台みたいなものが一切なかったのです。そんな彼と話をするうち、いろいろ思うところがあり、以前から目指していた分散型経営をもっと迷いなく、明確にTAMでも打ち出していくことになりました。


じゃあ、それでも中央に残る「役割」ってなんだろう?

そうなってくると考え直さないといけないのは、「中央」の役割。どんどん各店舗、各グループの自主管理にまかせていって、「最後に残る中央の仕事はなにか?」ということ。

小さな政府にすること。難しいですが、一番は、理念やビジョンやクレドを伝承し、時代に合わせた文化を築いていくことだと思います。
最近、経営ミーティングで話しているのは、「未来の数字を予測してサジェストする」役割。管理会計の一種ですが、予実管理から将来数字の見通しを立てて各経営者のサポートをすること。
ここは専門性も要るので小さな政府からサポートしていっしょにやるほうがお互いハッピーだろうなと思っています。

また、イレギュラーが発生したり、緊急対応時には、小さな政府でもトップダウンで一気にものごとを進められる体制も作っておかなければならないと思います。
ボトムアップだ、民主主義だ、だけでは分散型経営は成り立たないのだと思います。緊急時には小さな政府のトップダウンこそが必要な時もあるが、通常オペレーションは現場に任され、内発的モチベーションを最大にする文化づくりこそが小さな政府の役割なんだと思います。


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「箱を作って後はおまかせ」「勝手に幸せになりなはれ」のためのDX

ヨシくんと話していてもう一つ気づいたのは、彼と僕は根っこの考え方が非常に似ているということ。

彼によると、TAMに優秀な人がたくさん働きに来てくれるのは、僕はそもそも営業が得意で、仕事を取って来ては「ご自由にどうぞ」とスタッフにおまかせするのが上手いからだそうです。
そう考えると、クリエイティブで「場」を用意するのが上手く、「箱だけ作るからあとはよろしく」の経営を一貫しているヨシくんと、重なる部分が大きいかもしれません。

実はまだ公開していなかったのですが、こんな似た者同士のTAMと、「ヨシくん」ことフードゲートさんで、「かみれじ株式会社」という新しい会社を設立し開発を始めました

先ほどお話したような、分散型の飲食店経営をサポートするためのシステムをどんどん開発し成長させていく予定です。

「DX」というと、どうしても効率化、中央管理化のイメージがありますが、本当はもっと大事な「分散型」という方向もあるということで、分散型経営とDXのお話でした。

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