帰宅と買物

17時10分。それは仕事の終わる時間だ。タイムカードはぴったりに押す。だからといって慌てて帰りはしない。背伸びなんかもしてみる。「今日は何を食べようか」。頭の中はそんな感じだ。

駐車場までは5分くらい。その間に考えがまとまることは少ない。この日も作る料理は決まらなかった。運転中も引き続き考える。「昨日は何を食べたっけ」。そこから考えると決まりやすい。

一丁前に”健康”なんかも気にしてみる。野菜は摂っているか。肉は続いていないか。本当はあまり気にしていない。だが制約があると決めやすい。選択肢を削るために健康を気にしてる節もある。けれども決まらない。そんなに甘くはない。それが毎日の自炊なのだ。

スーパーに着いてしまった。未だに作る料理は決まらない。ここは田舎だ。駐車場も広い。僕の駐車スペースは決まっている。店の入口から一番遠いところだ。いつも空いていて停めやすい。もらい事故のリスクも低いだろう。入口まで距離はあるが、店内で歩く量を考えれば誤差範囲。歩いているうちに作る料理も決まるだろう。

自動ドアがお出迎え。カゴを受け取ると勝負が始まる。今日は良い買物ができるだろうか。己との戦いなのである。僕は買物が苦手だ。理由は分からない。おそらく手にした物から色々と詮索されるのが嫌なのだろう。ちっぽけなプライドだ。故に店内をまわるスピードは速い。

通い慣れた店だ。どこに何があるのかは把握している。おおよその価格も然りだ。それを高速でチェックしていく。異常を発見するためだ。その異常とは”お買い得”も指す。値段は気にする。お買い得を中心に考えると、作る料理も決まりやすいからだ。けれども決まらない。そんなに甘くはない。それが毎日の自炊なのだ。

職場の人と合ってしまった。マニュアル車を乗り回すM姉さんだ。彼女とは仕事で一緒になることも多い。雑談の中心は車と料理だ。「今日は何するの?」。こちらが聞きたいくらいである。M姉さんは既婚者だ。兼業主婦でもある。僕と同じ悩みを抱えているようだった。

迷ったらカレー。王道の逃げ道である。作るのは簡単で飽きも少ない。週2ぐらいなら許容範囲だ。彼女にはそれを勧めておいた。それで僕はというと、別の逃げ道を進んでしまった。お惣菜祭り。これが一番の逃げ道なのである。

ポイントはとことん手を抜きまくること。お惣菜と決めた日は絶対に包丁や鍋を触らない。未練を感じるほどに料理から距離を置くのだ。さすれば翌日は手の込んだものを作りたくもなる。自炊には休日も必要なのである。

明日は何を食べようか。コロッケでも作ってみようか。すでに明日の夜ごはんを考えていた。自炊をすると絶えず料理のことを考えるようになる。それが僕にとっては楽しかった。考える種を与えてくれてありがとう。僕の自炊は止まらないのである。


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