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失敗作【ショートショート】#9

胸に一〇センチくらいのガムテープが貼られている。それにはSー49と黒のマジックで書かれていた。それが何を意味するのかはわからない。わたしの周りにいる人たちは皆、Sー49だった。
みんな落ち着かない様子で、ざわついている。それはそうだ、私も落ち着かない。目が覚めると薄暗い場所になぜか立っていて、そこには大勢の人がいて、皆、胸には同じ文字が書かれたテープが貼られているのだから。
わたしは人ごみをかき分け前に進んだ。人混みが途切れるところまで行きたかった。しかしどこまで進んでも人が途切れることはなかった。そして皆、胸にSー49のガムテープが貼られていた。

足元は湿っぽく硬い平らな床だ。上を見上げてみると、天井らしきものがうっすらと見える。天井全体がぼんやりと光っている感じだ。壁は見えない。
そうだ、と思い周りの人の顔を見てみる。皆そっくり同じ顔をしている。それと同時に自分の顔をお見出せないことに気づく。思い出せないというより知らない。鏡もないので自分の顔を確認することもできない。
わたしは自分の名前を知らないことに気づいた。自分が誰で何者かも一切の記憶がない。しかし落ち着いている。不思議とそれが当たり前のように思えた。

世界ってこんなものだよね、と腑に落ちる。今までわたしはわかっているつもりになっていた。わたしという存在がいると思っていた。わたしがあると勘違いしていた。

ふと胸に目をやると、ガムテープに書かれていた文字がこすれて消えていた。そこに何が書かれていたのかも思い出せない。手と足がなくなっている。目もないし、頭もない。それなのに、周りが同時に見えている。いや見えていない、感じ取れている。
すると上空に宇宙人らしきものが現れた。そいつはガラスの棒をわたしに刺すとぐるぐるとかき混ぜた。「次はうまくいくといいな」とそれは言った。

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