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【読書ノート】人生を狂わす名著50

人生を変えた一冊、なんてフレーズをたまに聞きます。私は有名人がオススメする本コーナーが大好きで、昔はよく買っていたファッション雑誌なんかでもまずはそこから読んでいました。今もオバマ前大統領が感銘を受けた本、とか見ちゃうと、「あんなすごい人の感動ポイントが知りたい!」と、つい同じ本を手に取ってしまいます。だからこの本を読書の秋2021の課題図書リストの中で見つけたときに絶対読もうと決めていました。ただ、人生を「変える」じゃなくて、「狂わす」?とはてなマークはつきつつも・・・。そして、さらに読書沼にハマるという点で、確かに狂わされた気がします!

今回読んだのは、ライツ社の課題本「人生を狂わす名著50」、著者は三宅香帆さんです。いろんな意味で今年のオススメベスト10に余裕で入りこむ素晴らしい本なので、ぜひ読書ノートに残さねばなりません。ただ、オススメ本が50冊も並んでいて、それぞれに私の思考と重ね合わせたいポイントが山ほどあるので、どういう形式で書くのがいいのやら。長くなりすぎないように、この本のオススメポイントと、私が読みたいと思った本をいくつかに絞って、書いてみます。

Kindleで読めない、でも読むな

きゃ〜、すみません!最初からディスってる感じで!でもこれにはいろいろ思うところがありまして。そう、この本ね、Kindleで読めるんですけど、電子書籍仕様になっていないので、ハイライトやメモができないんです。読書ノートの効果を堅く信じる電子書籍信者の私なので、基本的に読書はKindleで済ませます。だからこれはかなりのマイナスポイントで、文句たらたら・・・、と思っていたのですが、気づいちゃったのです。この本、電子書籍じゃ意味がない、と。と言うのも、これは最初から最後まで順々に読み進めていく類の本ではないのですよ。「何のために読書をするんだろう」「この難題をどう乗り切ろう」「っていうか、人生何か楽しいことあったっけ?」なんて、大小いろいろな出来事にぶち当たったときに、パラパラっとめくるべき本なんじゃないかと。その時々で、気になるフレーズを見つけたり。もしくは「こんな人にオススメ」とある目次から、オススメ本を探して、まずはそこにある書評からヒントを得るとか。マジメちゃんな私は、Kindleで目次からあとがきまで順に読んで、読み終わったらそこで満足してもう一度同じ本を手に取ることは少ないので、この本に関しては逆に電子書籍で読むべきじゃないのかも、とさえ感じます。そんな読み方じゃ、もったいなすぎるもの。

たとえば、ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」は、短大時代に読んだきり、内容さえも忘れていました。でも「立派で完璧な人生 vs 笑えて許せる人生。人生の『笑い飛ばし方』がわからなくなったあなたへ」なんてオススメ対象者になっていると、大人になって頭でっかちになった私は、つい「はーい!私です!」なんて手をあげてしまうではないか。電子書籍で一度読むだけの読書法では、いくら読書ノートをその時に書いたとしても、こうやって手を挙げるまでには至らない。

読書のステップを考えさせられる

同じ本を読んでも、人の感想というのはバラバラで、その解釈を話し合う楽しさは読書好きならではです。これは何度も手に取ってその楽しさを堪能できる、本を愛する私たちにとってはたまらない本だと思います。著者の三宅さんはさすが読書を狂うほど愛しているだけあって、いろいろな解釈をされているのですが、私とは決定的に違うな、と思ったのが、解釈の尺度ではなくて深度。たとえば、
サン=テグジュペリ著「人間の大地」の書評では、こんなことを書いています。

何かに憧れることは、その「何か」に人生を狂わされること。「それ」なしには生きていけないものを持つのは、幸せなんだろうか。どちらを選んでも自分の選択だ。だけどこんな本を読んで、何かに憧れている姿に憧れてしまった、もうあと戻りはできないよな、と思う。

一冊の本を読んで、こんなふうに読みとって、それを自分の言葉で的確に表現できる人がいるんだな、と感銘を受けました。私もこのnoteで読書感想文をよく書きますが、三宅さんに比べると抜けているステップが2つあると気づきます。

私:読む → 理解する → 感想を書く。
三宅さん:読む → 理解する → 読み込む自分の言葉にする → 感想を書く。

ただ機械的に、作業の一環として、読書ノートを書いていても、自分の血肉にはなっていないんだな、と思い知らされました。

重なる観察眼

三宅さんは見ず知らずの読者へ、けっこう踏み込んだ感想を記すことによって、心のうちをさらけ出してくれている感があります。そういうプライベートな部分を分かち合える間柄になるまでって時間がかかるので、そのステップを飛び越えていきなり心の内を語り合えるのがこの本の特徴です。特におもしろいのが、解説本に対する三宅さんの解説があって、そしてそれを解釈してnoteで解説する私(←無駄な言葉遊びをする)。この鋭い観察眼のレイヤー、すごくないですか?あ、私の観察眼はさして鋭くないけど。

俵万智著「恋する伊勢物語」では、俵万智が伊勢物語を解説し、それを三宅さんが解釈・解説し、それを私が個人的に解釈します。その仕組みがおもしろくて、この本に関しては「個人的な感想だから読み飛ばしてくれていい」なんて謙遜する三宅さんでしたが、つい読んでしまいましたよ。だって、尊敬に値するおふたりが、人生を変えられた本、現代の少女漫画や恋愛ドラマの原型だとか言うのなら、読むしかないじゃないですか。三宅さんの言う通り、1000年前の言葉がそのまま残っていて、そのまま私たちが楽しめるって、言葉の芸術、と言うよりもう魔術レベルですよ。そうやって書籍に対する見解をリレー方式で重ね合わせていく作業は、身震いがするほどワクワクしました。

小説愛を知る「月と六ペンス」

三宅さんの才能の根源が理解できた気がする書評でした。

読書にしても、小説っていうひとつの芸術作品を本当にわかろうと思ったら、その書き手に追いつかなきゃいけない。 

確かに。そういう覚悟を持って読めば、彼女のように深い書評が書けるようになるのかも、と思います。鑑賞者としてちゃんと小説をわかりたい。そのための努力をしたい。あなたをわかりたい。という三宅さんに、「うんうん、そこが私に欠けてるところ」と妄想トークをした私。「愛は理解だ。まるで言葉のわからない外国人に恋をしたみたいに、よくわかんないけどあなたのことをわかりたい、と心底思う。」という三宅さん。なるほど〜これは愛なのか。小説愛なのか!

ふと思ったんだけど、この本で紹介されている書籍の著者が三宅さんの書評&分析を読んだとして、「ああ、そんなふうに意図していなかったけど、確かにそういうふうにも考えられる」と逆に学び、次回の作品に生かされる、のような逆輸入バージョンってありえるのかな。あ〜、その流れで出来上がった本をぜひ読んでみたい。

再発見を知る「おとなの進路教室」

山田ズーニー著、有名な「おとなの進路教室」です。人生で選択を迫られたときに読むとスッキリするフレーズがありました。

何かを選ばなきゃいけない、というのは、表面上わかりやすい「選択のタイミング」だっただけ、ということ。日々いろんなことを選択してきた自分がいて、その自分が何かを選びます、と外の世界に宣言するのが、そのタイミングだっただけ。
「自分を「選択」まで導いてきた意志の集積に比べれば、「結果」は小さいことだと私は思う。だから、いざ「選択する」という段になって、あっちが有利だから、こっちは怖いからと、それまで自分を導いてきた意志をすりかえるというのは、おかしな話だし。「結果」に負けて、「意志」がつぶされるというのは、順番が逆のように思う。

確かに!と膝を打ちたくなるような名言に出会いたいから、私は読み続けるんだと再確認しました。新しい知識ももちろん刺激的だけど、再発見というか、見方を変えた先にある普遍的事実に巡り合えたとき、その言葉に、そして著者への感謝の念であふれるのです。

自分だけじゃなくて、他人とつながってみないとわからない自分もいる。だからこそ、言葉で表現したり、自分の意志を相手に伝えたり、他者に挑んだり、そういうことが人生には必要だ。

これこそが本当の「コミュ力」ですね。確かに人と話したり、あとは読書後に感想文をnoteに書くことによって、見えてくる自分の奥底にある感情や思考っていっぱいありますもんね。それをこうやって私みたいな凡人にも分かるように表現できる三宅さんには尊敬しかありません。

むずかしいことに取り組みたくなる「人間の建設」

わかりやすさ vs むずかしさ。天才数学者と天才批評家の対話本です。あえて、難しいことを難しく語る。・・・げ〜!って思ったでしょ?でもやっぱり必要なのですよ。

あまりに「わかりやすさ」ばかり求めてしまうと、危ない。難しいことをわかりやすく言うと、どうしてもそこで抜け落ちてしまうものがある。難しいことはどうしたって難しい。むしろこちらががんばって難しいことに追いつかなきゃいけない。

残念だけど、これは大きな本質だと思います。アメリカでトランプ前大統領が台頭した理由は、難しいことを理解するのを拒否した人たちが、安易なメッセージに流れた結果が大きいと考えられています。国家まで動かしてしまうこのシンプル・イズ・ベスト思想の影響を考えると、三宅さんのこの言葉は重いです。この書評を読むと、ふつうの人が見えない世界を見ていることに憧れる、気持ちがあふれます。そしていつか社会で起こっている多くのことを包括的に考えられるようになりたいと思いました。

勉強したくなる「枠組み外しの旅」

勉強なんて意味がない vs 勉強したら何かが変わる。うん、この本は絶対読みます!と言うのも、常日頃私が感じていて、でも言葉にできていなかったことが書かれているのですよ。「思い込みの枠」からいかに自由になっていけるのか。結局は勉強することが自由への1番の近道、だと確信できます。見えない抑圧を「見えるようにする」にする方法は、自分が世界の枠について「学ぶこと」、とのこと。その通りですね。

小説の世界に住める「わたしを離さないで」

カズオ・イシグロさんの別の本を読んだことがありますが、今度はぜひ「わたしを離さないで」も読もうと思いました。この本は生きる意味を説いた本、というと、つまらなそうで俄然読みたくなくなりますが(失礼!)、死ぬまで残り時間を意識しながら生きることについて書かれた本、という解釈を聞くと、「ん?読んでみたいかも?」と思いませんか?三宅さんは、「ささやかに死んでいくことを、生きること自体が切ないことを思い出させてくれる本」と紹介しています。どんだけ根暗な本なんだ!と思う反面、でもそんな切ない人生@現実に寄り添ってくれる人たちがいる、そういう人たちの小さな物語が垣間見れる、現実と絶望とその間にあるちょっとした希望を感じられる、そんな世界に身を浸せることができる小説なんて、ワクワクしかないじゃないか。

あとがきを読んで

あまりあとがきには注意を払わないタイプなのですが、この本はぜひあとがきも読んでほしいです。三宅さんが、疲れ果てたときに「ガラスの仮面」を買って駅のホームで読んで、気力を回復した話、分かりすぎます。「本に助けてもらった記憶」があるってすばらしいですよね。

たとえ他人が支えてくれたとしても、「そこ」で自分の人生を動かすのは自分しかいないし。だけど、「本」は、ほとんど唯一「そこ」にいてくれる他人なんですよ!ひとりのとき、ふっと本に手を伸ばして、何かを感じて考えて受け取って、それがあなたの秘密としていっぱい降り積もって、その降り積もった何かがエネルギーになる。他人に邪魔されることのない、「がんばるぞ」って自分を励ます元気になる。一歩踏み出すきっかけになる。

いや〜、名言ですな。昔に、こんなふうに読書を応援してくれる先生がいたら、私の人生は変わっていたのに、と思います。オバマ前大統領やビル・ゲイツ氏は定期的にオススメ本を紹介してくれます。彼らみたいな世界的な大物はみんな、読書から多くを学んだ、と口を揃えます。でも、彼らはどうやって読書の大切さに早くから気づいて、成功へ繋げたのだろう、ってちょっと悔しかったりもします。でも、私よりずっと若い大学院生の三宅さんのおかげで、私もさらに読書に身を埋める喜びを学びました。まだまだ遅くない!だから私は読書をこれからも続けるのです。


#人生を狂わす名著50

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