【読書ノート】文章は接続詞で決まる

読書ノートにするには異色な「文章は接続詞で決まる」を読みました。光文社新書出版、読書の秋2021の課題図書です。

何がすごいって、これで読書感想文を書けってことだよね(笑)。私は仕事と家事がすべて片付いてからお酒を飲みつつ読書することが多いので、接続詞の参考書をしっとり読もうぜーってことにはなかなかなりません。それでもこの本を手に取ったのは、書くスキルを上達させたかったから。

note に書く記事は比較的フリースタイルで、どんな語り口調でも読者は優しく受け止めてくれます。でもね、やっぱりそれは基礎がきちんとしている正しい文章を少し砕けさせるからこそ読みやすいのであって、それがなかったら(前記事のような)ただの酔っ払いの戯言です。

あと私はボランティアで学校の広報の仕事をしているので、校内報や寄付のお願いの手紙などを書くことがあります。英語に比べて日本語は楽勝〜なんて、たかを括っていた私ですが、同じく広報で一緒に仕事をしている仲間(みんなプロのライターさん)に真っ赤に校正された文書を見て高い鼻をへし折られたんだっけ。だからこそ、ここら辺で日本語の文法を、もう一度しっかり学び、自分の言葉で説明できるくらいにマスターしたいと思うようになりました。

この本によると、一流のプロに尊敬されるような作家でさえ、推敲の過程で修正するのは接続詞なのだそうです。というのも、読みやすい文章の全体構造を支えるのが、接続詞だから。確かに接続詞が変わると、印象がガラッと変わりますもんね。

たとえばですよ、こういう文があったとして。

課長は仕事が速いが、ミスが多いのが玉にキズだ。
課長は仕事が速い。だが、ミスが多いのが玉にキズだ。

1番目のほうは、2番目に比べて軽い情報に聞こえませんか?接続助詞の代わりに接続詞を使うことで、すでに述べた内容を独立させ、その部分を尊重することにつながります。ぽんぽん思いつくがままに接続詞を使ってしまいがちですが、ニュアンスが変わることを念頭に置いて選ぶと、文章の流れが変わってきますね。

ちなみにこの本での接続詞の定義は、

独立した先行文脈の内容を受けなおし、後続文脈の展開の方向性を示す表現

とされています。前述の仕事の速い課長に関するふたつの文章を比べてみると、この定義がより分かりやすいですね。

さて定義が分かったし、接続詞の練習しようぜ〜っとはさせてくれないのが、この接続詞だけに特化したこの参考書です。たとえば以下の2文。

昨日は夜遅くまで起きていた。そして、今朝は朝早く目が覚めた。
昨日は夜遅くまで起きていた。しかし、今朝は朝早く目が覚めた。

そう、接続詞は論理だけでは説明できないことがあるのです。

接続詞で問われているのは、命題どうしの関係に内在する論理ではありません。命題どうしの関係を書き手がどう意識し、読み手がそれをどう理解するのかという解釈の論理です。
・・・
接続詞は、複雑な内容を整理し、書き手があらかじめ立てた計画に沿って確実に文章を展開させたいときに力を発揮します。

と言うことはですよ、接続詞をしっかりマスターすると、自分の思考に沿って読み手をうまくナビゲートできるということですね。この知識は重要!

接続詞に限らず、一般的に文章を書いているとどうしても主観的になりがちです。私も意気揚揚と校内報を書いて、それが真っ赤に訂正されて返されるとガッカリします。でもね、それを読み返してみると、いかに独りよがりな文章を書いて、読み手のことを考えていなかったって反省するのです。この本の著者も同様のことを書いています。

書き手の論理で書いた文章は、しばらく寝かせて、自分と切り離す必要があります。そして、自分と切り離せた段階で、他者の眼でその文章を読みなおし、他者の論理で推敲をする必要があるのです。
・・・
優れた書き手は優れた読み手でもあり、自分お書いた文章を読み手の視点からモニターすることに長けています。そうした優れた書き手が推敲で手を入れるのが接続詞なのです。

なるほど〜。確かに名詞とは違って文章の流れを変えると言う重大な役割を担う接続詞ですから、慎重に推敲しないといけません。

接続詞には6つの機能があるそうです。

連接関係を表示する機能
文脈のつながりをなめらかにする機能
重要な情報に焦点を絞る機能
読み手に合意を読み取らせる機能
接続の範囲を指定する機能
文章の構造を整理する機能

どれも勉強になりましたが、私の文章に足りないのは二つ目の「文脈のつながりをなめらかにする機能」かな、と思いました。と言うのも、一緒に仕事をしているプロのライターさんに比べて、私の文章はガタガタしてて読みにくいな、と、毎回感じています。たとえばこういう文章、私には書けません。

人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかしとにかく一部を成している。

「しかし」と「とにかく」をつなげて、こんなにサラッと、しかも心に残る文章を書けるなんて、すばらしいです。

他には、接続詞のタイプが紹介されています。

論理の接続詞
整理の接続詞
理解の接続詞
展開の接続詞
文末の接続詞(特殊)
話し言葉の接続詞(特殊)

いろんな接続詞がタイプ別に解説されているので、今後は接続詞を使うたびに、本当に意味があって使っているのかを、本に記載されている表を見ながらチェックしようと思います。

たとえば「すると」という論理の接続詞。登場人物の目になったかのようにしてその場面を見ることができるので、小説では必要な接続詞だそう。「そして」も「すると」もなんとな〜く気分で使っていたので、こういう間違いが重なって、私の文章はガタガタしているのでしょう。

また、「および」「ならびに」という同じように使われそうな接続詞ですが、「ならびに」のほうが大きい接続を表すそうです。たとえばみんなが知っとかなきゃいけない日本国憲法の第七条の「天皇の国事行為」の五。

国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

なるほど〜、官吏の任免と全権委任状の認証がメインの仕事ということになるのですね。憲法を正しく読めないと大変ですよ。

4つのタイプの接続詞に加えて、二つの特殊バージョンである、「文末の接続詞」と「話し言葉の接続詞」があると前述しました。この文末の接続詞も勉強になりました。日本語は英語に比べて雰囲気がある言語だな、とよく思うのですが、その要因のひとつが、わざわざ要点をすべて書かなくても婉曲的に言いたいことを伝えられる、「ハイコンテクスト」な言語だから。たとえばこの文章。

「どうだ、エライだろう、おでこで蠅をつかまえるなんて、誰にだって出来やしない、空前絶後の事件かも知れないぞ」 「へえ、驚いたな」と長男は、自分の額に しわ を寄せ、片手でそこを撫でている。
「君なんかに出来るものか」私はニヤニヤしながら、片手に蠅を大事そうにつまみ、片手で額を撫でている長男を見た。彼は十三、大柄で健康そのものだ。ロクにしわなんかよりはしない。私の額のしわ は、もう深い。そして、額ばかりではない
「なになに? どうしたの?」 みんな次の部屋からやって来た。そして、長男の報告で、いっせいにゲラ〳〵笑い・・・

ここにある文末の接続詞、「ばかりではない」があるだけで、他にもシワがあるという予測を生み出します。でもわざわざ後続で他のシワについての説明はなく、別の話題に移りますが、その空白はあえて読み手に想像力を働かさせて埋めてもらうのです。こういう使い方ができる文末の接続詞は、他には「〜ではない」(でも〜だ、と予想させる)など、いろいろあって、これを意識的に使うことができたら、リズミカルで雰囲気のある文章が書けるようになると思いました。

そんな万能な接続詞ですが、使いすぎは禁物です。接続詞は、文章の流れを一旦切断し、それをあらためて繋ぎ合わせる働きを持っています。だから文章の流れを切りたくない時に接続詞を使わないというのは鉄則だそう。また接続詞は書き手の解釈が入るということなので、客観性が大切な文章には前後の関係を限定しないよう、接続詞をつけないほうがいいこともあります。う〜ん、深い。

母国語である日本語を書くのはとても簡単な反面、危険性も含みます。ついつい分かっている気になって、深く考えずに書いてしまい、独りよがりな文章が出来上がり、さらにはその事実を知る術もないことがほとんどです。そんな基本的な注意喚起までしてくれた「文章は接続詞で決まる」、ライターの皆さんの手元に置いておくべき一冊です。


#読書の秋2021 #文章は接続詞で決まる

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