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【プロフェッショナルに聞く 第11回】 株式会社雪野建築設計事務所 代表取締役 雪野 嶺氏 × タミヤホーム 田宮明彦

不動産や税務、建築、労務など、さまざまなプロフェッショナルに、これまで積み重ねてこられたキャリアと実績をお聞きする「プロフェッショナルに聞く」。第11回は、一級建築士の雪野嶺様がご登場くださいました。

著名な建築家の家庭で生まれ育った雪野様は、子どもの頃から建築士の父や祖父にコンプレックスを感じて来られたといいます。そんな雪野様が建築の道を本気で志すようになったのは、大学を卒業してから。学士課程に再入学し、その後、海外の大学でアーバンデザインを学ばれました。雪野様のキャリアと街づくりに関するお考えについて、詳しくお聞きしました。

<プロフィール>
雪野 嶺氏
株式会社雪野建築設計事務所
代表取締役
筑波大学人間総合科学研究科芸術学専攻博士前期課程修了。Columbia University GSAPP Master of Science Urban Design修了。ニューヨークの設計事務所「SPEXA LLC」、株式会社松田平田設計を経て、2016年、株式会社雪野建築設計事務所に入社。2017年、代表取締役に就任。


建築家の家系に長男として生まれたものの、コンプレックスから遠回りをしてしまう

田宮「雪野先生の家系は、お祖父様の代から建築の道を歩まれてきたそうですね」

雪野様「私の祖父が宮内省内匠寮で研鑽を積み、父も同じ道を歩んできました。特に祖父は、宮内省の命により数多くの作品を残しています。東京・上野にある東京国立博物館は、私の祖父が実施設計のトップを務めたんですよ」

田宮「では、幼少の頃から建築の道を志して来られたのでしょうか」

雪野様「それが、かなり遠回りをしています。祖父や父の業績が私には輝かしく見え、子どものころからコンプレックスを感じていたのかもしれません」

田宮「コンプレックスというと?」

雪野様「私には姉が二人いて、私は期待の長男として生まれました。父は一度も『建築の道に進め』とは言いませんでしたが、自分自身は漠然と『父の後を継ぐのだろう』と思っていました」

田宮「ではなぜ遠回りを?」

雪野様「高校生になって、現実を思い知ったのです。それまで、デッサンの準備をまったくしてこなかったこともあり、『自分には芸大は無理だ』と受験直前で打ちひしがれてしまいました。それで、建築の道をスパッと諦めました」

田宮「一度は建築の道を諦めた雪野先生が、再び建築に興味を抱くようになられた理由は?」

雪野様「当時、経済が好きだったので大学で経済学を専攻し、メガバンクから内定をいただいた時点で、『本当にこれでいいのか』と、立ち止まって考えました。このままやらずに終わったら、絶対に自分は後悔する。結局、内定をお断りして大学の学士課程に再入学し、建築を学びました。その後、大学院に進み、さらにコロンビア大学大学院で一年間学びました」

田宮「それは大きなご決断をされましたね」

雪野様「遠回りをすることになりましたし、誰が聞いても『遅すぎる』と感じることでしょう。でも父は建築の道を選んだことに対しては、何も言いませんでした。最後の最後、一昨年に父が亡くなるときは、『お前が同じ道に進んでくれて良かった。一緒に仕事ができて良かった』と言ってくれました」

田宮「素晴らしいお父様ですね」

雪野様「最近ではすっかりコンプレックスとの付き合い方も分かってきたような気がします。人と比較しても仕方ない。人が気になるなら、自分が変わればいい。そう考えるようになってから、気持ちが楽になったんです。7年くらい遠回りしてしましたが、『その分、長生きすればいいんだ』と前向きに捉えています。我が家は長生きの家系ですしね」

建築士としてのあり方も、経営者としてのあり方も、父の背中を見て学んだ

田宮「コロンビア大学大学院で学んだ後のキャリアについてもお聞かせください」

雪野様「ニューヨークの設計事務所に就職しました。父とは3年の約束で渡米しましたが、できれば現地で5年は経験を積みたいと思っていました。しかし、リーマンショックにより景気が悪化し、次々とプロジェクトが頓挫してしまいました。結局、志半ばで帰国することになりました」

田宮「帰国後、すぐにお父様の設計事務所に入られたのですか?」

雪野様「いえ、組織設計事務所に7~8年ほど勤務しました。最初の数年は海外案件を担当し、その後、国土交通省の案件に携わりました。当時手掛けた建築物は、5,000~10,000㎡以上の規模の特殊建築物を担当していました。意匠的には華やかさはなく、堅実なデザインがほとんどでしたね」

田宮「民間の建物と官公庁との建物では、プロジェクトの進め方が異なるのでしょうか」

雪野様「民間の場合、予算や納期などに応じて設計の手順を柔軟に対応するケースもあるのですが、官公庁の場合は設計の工程が細かく定められていて、必要な書類がとても多い。もちろん、手順を省略することはありえません。最初は『これは大変だ』と思いましたが、その分、学びも多かったですね」

田宮「そんな雪野先生が、お父様の設計事務所に入られた理由は?」

雪野様「一つは、民間の案件がやりたかったからです。当時、働いていた設計事務所でも民間の案件を数多く手掛けていましたが、私は国土交通省の案件ばかりで民間の案件に携わる機会がほとんどなかったんです。また、父が80歳を越え、時期的にもそろそろ父の事務所を手伝いたいと思いました」

田宮「それで雪野建築設計事務所に入られたのですね。お父様と肩を並べて設計の仕事に携わられたのですから、とても貴重な経験ができたのでは?」

雪野様「そうですね。父は良くも悪くも『昭和的な人物』で、多くを語りません。その分、父の背中を見て学び取ったことがたくさんあります。たとえば経営者としての生きざま。前設計事務所では、所謂“設計士”として勤めていたため、経営という視点は弱かったです。月並みな表現ではありますが、彼なりの『自分の城の守り方』という強い姿勢が見て、そこに大きな影響を受けましたね」

田宮「設計の面で学んだことはありますか?」

雪野様「一般的に周囲でも、親子で同じ仕事をする場合、先輩となる親が子のやり方に口を出すことが多いような気がします。父の場合、それが一切なく、私の考えを尊重し、一歩引いてくれました。サポートはしてくれましたが、設計は基本的に自分でやれと言ってくれたんですね。なのでそういう面では、すごくやりやすかったですね」

田宮「とても良いお父様ですね」

雪野様「私にとって、父は精神的な柱でした」

未来の子どもたちのために。街づくりの担い手として、できることがある

田宮「雪野先生にとって『良い建物』とは、どのような建物を指すとお考えですか?」

雪野様「すごく難しい質問ですね。多様化が進んでいますから、施主様にとっての良い建物も多種多様です。そのため、良い建物が人によって違うのが当然と言えるでしょう。そういった点から、私は、『建築士と施主様が共に創り上げていく』という考えを大事にしています」

田宮「なるほど。日本は少子高齢化が急速に進み、近年は空き家率の向上が社会問題化しています。私たちが暮らす『街並み』をより良くしていくためには、どうすべきでしょうか」

雪野様「少子高齢化が進む日本では、1990年代から住まいや交通・公共サービスなどを中心市街地に集約させた『コンパクトシティ』を取り入れるなどの構想を進めるようになりました。しかし、成功事例はあまり多くないのが現状です。官公庁が主体の取り組みだと、どうしても意思決定に長い時間がかかってしまうのも、大きな課題と言えるでしょう。より良い暮らしやより良い街並みを実現するのであれば、産官学、つまり教育機関と官公庁、民間企業が連携を図りながら進めていく方法が最も正解に近いように思います」

田宮「私たちも解体工事業を主要事業とする会社として、街づくりに少しでも貢献していきたいと考えています」

雪野様「田宮社長と初めてお会いしたのは、確か経済界の懇親会でしたよね。お父様から会社を継がれたこともあり、私自身、田宮社長と似た部分を感じています。しかもアイデアマンで、いろいろなことに挑戦されていて、持ち前の向上心で努力されていらっしゃる」

田宮「雪野先生にそこまでほめていただくと、照れてしまいます」

雪野様「私は学生時代にアーバンデザインを研究してきたので、街づくりにはかねてから興味があるんです。今後、何かしらの形で街づくりに協力できるといいですね」

田宮「同感です。子どもたちが希望を持って人生を歩んでいけるような未来にしていきたいですね」

雪野様「建物は、作り方次第でプラスにもマイナスにも変化すると思うんです。例えば、住宅は、そこに住む人々のライフステージによって使い方が変わってきます。なので私は、敢えて作り込みすぎないようにしています。シンプルで合理的なデザインを心がけ、敢えて“余力”を残すことで、ライフステージの変化に応じた住まい方をしてもらえたらと願っています。また“何が心地よいのか”を知り、時間とともに“変化していく”ことを知ることは、今後の街づくりを考える上でも重要だと考えています。」

田宮「とても素敵な考え方ですね」

雪野様「ありがとうございます。一緒に未来の街づくりに貢献していきましょう」

田宮「雪野様が私にシンパシーを感じてくださったように、私自身もまた、お父様の設計事務所を継がれた雪野先生のお話に大きなシンパシーを感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました」


タミヤホームでは、年間1,000件の解体工事を手掛けています。
また、解体工事だけでなく、解体工事発生前の、空き家や相続、不動産に関するお悩みを解決する無料相談窓口も開催しています。
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