繰り返し
【小説/短歌】
同じ話ばかりを読んでいるのだ。
とにかく同じ話ばかり、繰り返し繰り返し、読んでいるのだ。
「そんなに一つの小説ばかりを読んでいて飽きませんか」
――と、酒場のカウンターなどで馴染みの客に訊かれることもあるが、僕にしてみたら、繰り返し読めない話にはまったく興味などなく、むしろ読み散らかしているタイプの読み手こそ、何がおもしろいのか、と訊きたいくらいだ。
「でも、そういう人たちがいるからこそ、本が売れて、才能が育つ環境も整うってもんじゃないですか」
才能が育つって? 本気で言っているとしたら君、余程この腐りかけた林檎のような社会のシステムに洗脳されている。
才能なんてものは本が売れようが売れまいが関係なく、ある人にはあるし、ない人にはないのだ。ない者にあるような衣を着せたところで、それは才能ではない。仮に才能が育つ期間というものがあるとしたならば、それは15歳までのことだな。
「だけど、売れる環境はあったほうが良いでしょう」
そんな環境があったところで、才能のある誰かの話に安い布を被せて象っただけの模造品が氾濫するだけさ。厳選されたものだけが売れれば良いではないか。
「そんな偏狭な考えをしているから、坂本さんは食うにも困るのでしょう。酒なんて飲んでて、奥様に怒られますよ」
偏狭……。置かれた環境に流されて自覚的に生きていない君に言われたくはないね。それに、世の中の真実の軸がどこにあるかを考えることを社会の数勢が〈偏狭〉と呼ぶならば、この社会の価値観こそが偏狭そのものだよ。
「でも、その社会に我々は生きているのでしょう」
そうだ。だからこそ、自覚が大事なんだ。自覚なき行動になんて、何の意味もない――。
とかく、この世は浅はかで、低い方へと水は流れる。
tamito
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