ハイキックの少女(仮)③

【小説】

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一週間後、僕は再び対策本部を訪れ、北川ミナとともに、榊さんから今後の闘いかたについて説明を聞いていた。

この一週間で僕は二つの闘いをこなした。一つは本部からの指令で、六本木の映画館でゾンビ映画を観ていて変態したヤツと闘った。もう一つは会社の近くで、昼食時に人気店に並んでいるとき、目の前に並ぶ男が突然変態したので倒した。

どちらも一対一の決闘だったので、勝負は呆気なく終わった。映画館のヤツはロメロのゾンビのように動きが遅かったので、ヌンチャクで脳天を一撃でカチ割った。そして昼食時のヤツはヌンチャクを会社に置いてきていたので、胸ポケットに刺さっていた赤ペンをアゴの下から喉にかけて突き刺した。

映画館では幸い観客が少なく被害者は出なかったが、会社の近くのときはお気に入りのボールペンを使わざるを得ず、1万円以上したパーカーがヤツの体液で使い物にならなくなったし、おまけに昼食の30食限定の海鮮丼を食べ損ねた。

二体とも実に弱かった。だけど僕はこれまでにない気持ち悪さを闘いのなかで感じた。この二体に攻撃衝動は見られず、むしろ救いを求めるかのように僕に近寄ろうとしてきたのだ。僕は背筋に寒けを感じ、全身が泡立った。

榊さんは、科捜研の研究員とともに教壇に立ち、パワポの資料をスクリーンに写して、僕たち二人に説明した。

驚愕の内容だった。

それは〈ヒトの形をした心を持たぬモノ〉同士が合体して、より強靭により狂暴になるというものだった。

ただ、合体はほとんどの場合が失敗に終わり、成功事例はまだ少ないという。

「今後、こうした合体した敵に対するために、複数の敵が出現した際には、二人揃って出動してもらう」

北川ミナが右手を挙げた。

「はい。質問です!そこまで強い敵なら、もう保安警察で銃器を使ったらどうですか?」

榊さんが左手で右の眉をさわりながら答える。

「それはないな。知っての通り、敵が銃器を持たない限り、我々が先にそれを使用するわけにはいかない。我々の立場はあくまでも専守防衛だ。だからこそきみたちに依頼している。それに合体した個体を仕留めるにはかなり大型の銃器が必要となるから。そんなものを市街戦で使用するわけにはいかないな」

「だからって、僕らの接近戦にも限界がありますよ」僕は頭にきて右の拳で机を叩いた。

「我々が期待するのは通常時の闘いではなく、覚醒した後のきみたちのパワーだ。これまでの闘いではまだまだ最大値に達していない。それにーー」

「それに、何ですか?」

「いや。ぜひとも強敵を相手にMAX値の闘いを見せてほしい」

僕は呆れて目を閉じた。この人は、いや政府はどこまで僕らを利用しようというのか。

「わかった。じゃあ、さらに鍛えておきます。1号のおじさん、前に途中まで聞いた動体視力の鍛え方を教えてよ」

北川ミナは榊さんの指令を前向きに捉えている。

「それと、もうひとつ」榊さんが北川ミナを見ながら言う。

「これから接近戦をするなかで、いままで以上に敵に捕まらないよう注意してほしい。あくまでも可能性の話だが、敵がきみたちを相手に合体しようとするかもしれない」

えっ、ヤツらが僕らと合体?

「もし合体されたらどうなるんですか!もうヒトには戻れないということですか?」

「その可能性は高いだろうな。しかし、きみらが合体の対象となるか否かも定かではない」

他人事みたいに言いやがる。

「あなたが倒した最近の二体。防犯カメラの映像を見たが、少し不可思議な動きをしていなかったか」

例の六本木の映画館と会社近くの闘いの件だ。

「敵が攻撃を仕掛ける素振りが見られなかったように見えたが、闘っていてどう感じた?」

それは僕自身がいちばんわかっていた。榊さんが指摘するように、ヤツらに攻撃衝動は感じられなかった。そして、近づくヤツらにこれまでにない気持ち悪さを覚えた。

「たぶん、榊さんが思った通りです。明らかに攻撃以外の何らかの目的があったと思う」

「わかった。捕まらなきゃいいんでしょ」

北川ミナは退屈そうに結論を急いだ。

「そう、北川の言う通り。捕まらなければいい」

「じゃあ、もう終わりにしようよ。はい。終わり、終わり!」と手を叩きながら、北川ミナは意味あり気に僕を見た。


本部を出た僕らは、北川ミナに誘われ近くのカフェに入った。31歳の僕と制服姿の17歳の彼女が平日の昼間に一緒にいる様子は、端から見てどう思われるのだろう。職質されてもおかしくはないな、と僕がいらぬ心配をしているとーー。

「ヤバいよ、1号のおじさん、なんかヤバい」と北川ミナがブルーベリースコーンを食べながら話を切り出した。

「うん、確かにキナ臭い。何か大事なことを隠してると思う。まあ、いつものことだけどね」

「合体タイプの敵って何?成功事例が少ないってどういうこと?そんなのニュースになってないよね。どこで起きたんだろう」

それについては僕も考えていた。僕らの知らないところでそんな事件が起きたのだろうか、それとも…。僕は恐ろしくなって頭を振った。

「まさか、奴らを捕まえて対策本部で実験とか改造しているんじゃないよね」

う、僕が口にしなかったことを無邪気に言ってくれる。

「まさか、対策本部はショッカーじゃない。この国の政府だ」だから危ないんだ。

北川ミナは、ブルーベリースコーンを食べる手を止め、僕をまっすぐに見る。

「1号のおじさん、特訓しよう」

「そうだね、イメージトレーニングの必要があるね」

その時、二人の携帯端末が同時になった。対策本部からだ。僕と北川ミナは互いの目を見た。

どうやらぶっつけ本番になりそうだ。北川ミナの目の色が攻撃衝動に変わった。

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※全7回、週一回更新予定です。

※本作は、マガジン『闇との闘い!』に掲載した以下の作品の続編です。

真昼の決闘

3分間の決闘

決闘!ヒーローショー』(全3回連載)


tamito

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