旅の空

【散文】

 

 井の頭の森は、連休最終日とあって家族連れやカップルで賑わっている。空の色は水彩のように薄くのばされた青、勿忘草。白く淡い雲が上空でぼんやりとかたちを変え、池をわたる風が涼やかで心地よい。
 鴨の数はまだ少ない。そしてもちろん僕に話しかけてはこない。僕の世界はまだ歪んではいないんだとホッとする一方で、歪んでいないことを少し残念にも思う。歪んでいない状態と歪んでいる状態。
 世の中にはわからないことが実に多い。そのもっとも大きなものが心だ。心は高次に発達した脳が生み出す副産物だというが、個体のわずか短い一生のためだけに生じたものであれば、それはあまりに悲しい。前世の記憶を持って生まれ来た子供たちの話がつくりものとは断定したくない。
 と脈絡ない話の羅列。結論も答えもなにも用意されてはいない。
 閑話休題。
 この一週間ばかり、出張と旅行が重なり名古屋から大阪にかけてを行き来した。その行程のなかに初めての伊勢参りがあり、天照大神に挨拶をしてくる。そして名古屋に戻る近鉄特急のなかから不思議な夕空を見る。行く筋もの雲が生きもののように西へと向かい、まるでなにかの集まりに遅れないよう皆で急いでいるように見えた。その空を見て詠んだ歌を三日前に掲載。
 新幹線での移動は速すぎて、でも数多くの景色が見えて、視覚が右脳を刺激する。
 京都駅に停車するたびに何か特別なものを感じて、今度来るときは例え短い時間でも下車しようと思う。

 

tamito

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#散文 #エッセイ #随筆

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