明日の『世界は美しいか?』について

【散文】

 

 稀に、生い茂る木々を見たくなり、仕事をあとまわしに家を出てまっすぐ井の頭の森へと向かう。
 梅雨入り前のこの季節湿度は低く、日向はすでに真夏の日差しだが木陰は涼やかで、池を渡る風を眺めながら言葉が浮かんでくるのを待つ。
 ふと「世界は美しい」なんてありきたりな、けれど目に映った景色そのままの言葉が脳裏に浮かぶ。前提条件として「この森にいる限り」とつけてツイートしてみる。
  そうだ、【シークエンス】のあのふたりに「世界の美しさ」について語らせてみようと、池のほとりのベンチに座りスマホを操る。彼らの思考は自分のことよりもよく知っている。だから10分少々で書き上げ、三度読み返して微調整をする。この【シークエンス】は明日のnoteにあげることにする。
 どこかのテラス席で早い昼食にしようと店を探すが、まだ11時半にもならないのに満席だったり開店前の列ができている。仕方ないので以前から通う東急横の洋食屋に行き、今日のランチとビールを注文する。ハンバーグステーキとエビフライ、クリームコロッケが盛られたお子様ランチのようなひと皿だ。ビールとの違和感に、今日はやはりイタリアンだったなと思いながらも、味は間違いのない料理を平らげ、店を出る。
 食後のコーヒーを飲もうと、吉祥寺駅近くに古くからある喫茶店「近江屋」へ行き、二階のテラス席に腰を落ち着ける。水だしのアイスコーヒーを注文して、すぐ目の前の交差点を行き交う人たちを眺める。ときどきゴオという音をたてて高架を中央線が通りすぎる。夏の日差しの下、歩く人たち。皆がみなしあわせなのかそうでないのか、世界を美しいと思っているのかいないのか、見た目では判断がつかない。たぶん、こうして昼から呑気に通りを眺める僕自身も、端から見たら判断がつかないだろう。
果たして僕はしあわせなのか、世界を美しいと思っているのかーー。
 さて、このテキストをnoteに載せるか否かを考えている。これまで詩や小説でしか表現をしてきていないし、なによりも仕事を放っておいている負い目がある。
 もう一度、森を散策してから決めよう。その後は、いくつかの仕事を片づけようか、それとも今日は日が落ちるまでのんびりしようか。
 それも風に聞いてみよう、とレシートを持って席を立つ。

 

tamito

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#散文 #随筆 #エッセイ

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