ハイキックの少女(仮)⑥

【小説】

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ヤツらの攻撃をかわしながら、《僕》がハイキックを繰り出す。脳が指令を下す前に身体が反応して手足が繰り出される。

〈これは、何だ?〉

〈何だ、じゃないよ〉

僕の頭のなかのつぶやきに、北川ミナが答える。

〈きみはどこにいる?〉

〈あたしだってわかんないけど、闘わなきゃ!〉

ヤツらに囲まれ《僕》が闘っている。圧倒的な力をもって。

〈さっきまで、君が見る夢を見ていた〉

闘いながら、僕は北川ミナに話しかける。

〈それ、夢じゃない〉

《僕》の右手が一体の首を握り潰し、僕の左手がもう一体の顔にフックを入れて首をへし折る。左手は確かに僕の意思で動かしたが、右手は違う。

〈もしかして、同じ身体のなかにいる?〉

〈うん、考えたくないけど…〉北川ミナがまた跳躍してハイキックを決める。

〈…たぶん、そうだと思う〉

敵の攻撃を僕が両手で支え、北川ミナが右膝を脇腹に入れる。

僕らは協力しあいながら雑魚を倒し、ボスキャラの仏像と向かい合った。

すると仏像は黒い光を放ち、残る雑魚2体を引き寄せ、合体を始めた。それはおぞましくも美しい光景だった。

僕らもそんな風に合体したというのか。僕は、ヤツらの合体する様子を呆然と見つめた。

〈あたしも見たよ。おじさんの記憶。見たってより体験したっていう方があってるかな。7発の銃弾を受けた時には死んだと思った。それからヒーローショーで腕を切り取られたときも。一度映像で見てたけど、あの恐怖は本人じゃないとわからないよね〉

〈でも、きみに起こったことに比べたら、大したことじゃない。きみは最初に覚醒したとき、いくつだったの?〉

〈…5歳。でも、その話はしたくない〉

仏像が一体と融合していく。もう一体ははじかれて合体できなかった。

〈ねぇ、おじさん。あいつを倒したあと、あたしたちはどうなるのかな?〉

〈さあ、わからないけど、覚醒状態から戻ればそれぞれの身体に分かれるんじゃないかな〉

〈そうかな。でも、よかった。ヤツらに合体されずに〉

〈もしかしたら…、対策本部の狙いは僕らの合体だったのかもしれないな〉

ヤツらの合体が終わった。仏像はふたまわりほど大きくなって、阿修羅の悪鬼の面に顔つきが変わった。

〈何か武器がほしいね。おじさんのヌンチャクは?〉

〈そこ。ヤツの後ろに落ちてる〉

〈よし、いくよ!〉

北川ミナが声をかけると、《僕》は跳躍してヤツの首めがけ回し蹴りを放ったーー。

ガシッ。

放った左足をヤツに掴まれ《僕》は逆さに吊られた。化物みたいな握力に足首の骨がギシギシと軋む。ヤツは受け止めた衝撃で二歩、三歩と後ずさる。

〈届く!〉

《僕》の右手がヌンチャクを拾い、僕の左手に渡す。

〈おじさん、よろしくね〉

僕はヌンチャクの白刃を逆手に持ち、ヤツの右足の腱に突き刺し、そのまま腹筋で身体を起こすようにして、脚の付け根まで深く切り裂いた。

ヤツはたまらず掴んだ足を放してしゃがみこみ、その隙に僕は背後に回り、白刃を背中から心臓めがけて突き立てた。

グワッ、といううめき声をあげ仏像が膝まづき、振り向きざま《僕》の右腕を掴んだ。

強い。腕が引きちぎられそうなほどに強く握られ、ヤツは自分の身体に引き寄せようとする。

僕は左足をヤツの肩にあて突っ張るが、その引き寄せる力から逃れることができない。

そして、ヤツの身体が黒い光に包まれ始めた。

〈こいつ、合体しようとしてるよ!〉

《僕》の右腕が黒い光に覆われてゆく。

〈絶命前に合体して、生命を維持させようとしているんだ〉

僕は両足をヤツの肩にあてて、思いきり突っ張った。

〈痛い、腕が抜けそうだよ、おじさん!〉

は、な、れ、ろー!!

全身の力を振りしぼって、ヤツの肩を思いきり蹴ったーー。と同時に、僕の身体はヤツから飛ばされ床に叩きつけられた。

やった! ヤツを振り返ると、あたりが悲鳴に包まれた。

そこには、北川ミナが黒い光に飲み込まれてゆく姿があった。

「おじさん、助けて!」

僕は駆けよろうとするが、足がもつれて立つこともままならない。覚醒前の状態に戻っている。

「北川ー!」僕は叫ぶことしかできず、ヤツと北川ミナが合体していく一部始終を見届けた。

なんだ!怒りの感情が沸かず、覚醒できない。悲しみに怒りを覆われて身動きできない。

やがて、黒い光が消え去るとヤツは再びかたちを変えた。豹のようにしなやかな肉体に弥勒菩薩のような穏やかな表情で、僕をまっすぐ見据えている。

ヤツが一歩一歩、僕に近づく。そして目の前に立ち右手を僕の首に伸ばす。

首を鷲掴みにされ、僕はヤツの凄まじい力で床から持ちあげられる。

絞められた首の気道と血管が閉まり、酸素と血液が循環しなくなり、やがて意識が朦朧としてくる。

もうダメなのか。ここまで来ても僕は覚醒できないのか。薄らいでゆく意識が呼びかける。

〈北川、きみはその身体のなかで、自我を保っているのか?〉

すると、首を掴むヤツの右手が震えだし、徐々に首にかかる圧力が弱まってゆく。

〈北川?〉

ヤツの《右手》はふたつの意識が葛藤するかのように僕の首をめぐって争っている。

やがて、僕の首はヤツの《右手》からスルリと抜けて、床に身体がどさりと落ちた。

ヤツはそれでも全身を震わせながら、僕を捕まえ全身で潰すように抱きかかえた。

そしておもむろに身体の向きを変えると突然走りだし、全速力で強化ガラスに肩からぶち当たった。

ミシミシとガラスが音を立てて少しずつ割れてゆく。《ヤツ》はガラスにさらに体重をかける。

そしてついにはガラスがガシャンと弾けて、《ヤツ》と僕はゆっくりと地上350メートルの足場のない空間に放り出された。

僕の視界で、夜空の星と地上の街明かりがグルグルと回転して、万華鏡のように煌めく。

〈おじさん、ありがとね〉

北川ミナの声が、僕の脳に直接響いた気がした。

僕は《ヤツ》に抱きかかえられるようにして、真っ逆さまに地上に落ちていった。


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※全7回、週一回更新予定です。


※本作は、マガジン『闇との闘い!』に掲載した以下の作品の続編です。

真昼の決闘

3分間の決闘

決闘!ヒーローショー』(全3回連載)


tamito

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