続・タイムマシーンがあったらなんて、きみが言ったりするものだから
【小説】
結局、ぼくはタイムマシーンを壊すことはできなかった。
時を行き来することは一見すると自由を手に入れたかのようにも思えるが、ほんとうはとても不自由で不幸なことなんだ。たぶん、誰がどんな目的で使っても幸せになることなんてないだろう。
それにしても旧ソビエト連邦はなんでこんなものを作ったのだろう。もしかして、これも冷戦時の兵器だったのだろうか。だとすれば、60年代のロケット開発競争が米ソの制宙権争いだったように、制時権争いをやはり米国と繰り広げていたのだろうか。
そんなことを考えて米ソの文献をもう一度調べなおしてみたけど、やはりどこにもタイムマシーンが実在したなんて記述はない。だいたいぼくがこのタイムマシーンを手に入れることができたのだって奇跡みたいなもんだ。ツイッターで「拡散希望!求むタイムマシーン」と英仏独露中日の6ヵ国語でつぶやいて、山のようなガセネタにもいちいちつきあいながら、信憑性のありそうな情報にたまたま行きついただけなんだから。
「あるよ(ロシア語、以下同)」
最初はそのひとことだけ。
「どこに?」
「ロシア国○△県××郡にある廃工場」
「なんで知ってるの?」
「作ったから」
「どうして作ったの?」
「コンスタンティン・チェルネンコ最高会議幹部会議長の命で」
やりとりはそんな具合で78回往復した。それでやっと“もしかしたら”と思って、そいつに会いに行ったんだ。
そんな苦労をしてまで手に入れたタイムマシーンなのに、「タイムマシーンがあったらいいなぁ」と言い出したきみが、いまはそのタイムマシーンのせいで他人になってしまったんだ。いや、正確にいえばぼくの使い方のせいだ。いずれにせよ、ぼくは最愛の人をなくした。いや、最愛の人が他人になったわけだ。
でも結局、ぼくはタイムマシーンを壊すことができなかった。いつか、なんとか方法を考えて、きみといた現実を取り戻そうと思っているからだ。だからそれまで、ぼくはきみなき世界で生きている。きみなき世界をひとりで生きている。
(つづく、いつかの未来に)
※『タイムマシーンがあったらなんて、きみが言ったりするものだから』
tamito
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