フォトグラフ、いつかの六月
【シークエンス】
僕は古い写真を見ている。
新郎新婦を囲んで友人たちが笑顔をカメラに向けている。
そのなかに僕はいない。なぜなら僕はファインダーのこちら側にいるからだ。
中央でブーケを持ち、その日いちばんきれいな人に僕は何年も恋をしていた。
でも、彼女はそんな気持ちなど知らない。友人のひとりとしてカメラを構える僕に笑顔を送る。
いや、正しくは僕のCarl Zeissを笑顔で見る。
いつかの六月、梅雨の晴れ間の土曜日のこと。
「じゃあ、みんなこっち見て」と僕が言う。
「ピント合ってんのか」とヤジが飛び、みんなが笑ったところでシャッターを切る。
「お前の頭の回線よりマシだ」と僕は返してもう一枚。
ファインダーを覗きながら「あと一枚撮るよ」と僕は言う。花嫁の表情が少し硬い。
「ゆうこ、表情硬いよ。笑って」と声をかける。
「こら、花嫁を呼び捨てにするな!」といっせいに罵声が飛ぶ。
「わかったよ。はい花嫁、僕に微笑みかけて」と言うと、彼女は今日いちばんの笑顔でこたえた。
パシャリ。
tamito
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