マガジンのカバー画像

my favorite stories

20
これまでnoteで読ませていただいたみなさんの物語を、お気に入りとして束ねました。基本的に一人一遍です。
運営しているクリエイター

#詩

赤い実

赤い実

東京の深夜
コンクリートの白い壁に手をあてる
その冷たさに心がすこし痛んだ

ルイボスのティーバックは
乾燥が進んだと或る日、粉々になって
僕の頭上にぱらぱらと降ってきた
アパートは朝の6時を過ぎた頃だった
手でルイボスの残骸を払い落とすと
そこらじゅうから饐えた草の匂いがした

シャワーを浴びてすぐに仕事へ出る
恋人は近所のファミレスで勉強をすると言った

「湖」を貸してあげるから合間に読んでよ

もっとみる

はしる

ぼくとあたしはけんかした
あたしはいかりにわなないて
ぼくのそばにいたくなくて
ぼくのかおをみたくなくて
ぼくにくるりとせなかをむけると
はしってぼくからとおざかった
ずんずんはしった
ひたすらはしった
ちのはてめざして
どこまでもはしった
はあはあ
たったっ
はあはあ
たったっ
はあはあ
はっはっ
はっはっ
はっ……
いきがきれて
たちどまったそこには
おいてきたはずのぼくのすがた
ちきゅうをい

もっとみる

寝ちがえる

さびしさを夢見ました
寝ちがえたせいか
めざめたのはわたしではなく
あなたで
光が影をいじめるから
みんな箱を愛してしまうのだ
なんてつぶやいていました
どちらかといえば挑んでいるまなざしで
ふわふわのカルテばかり食べている
お医者さまのつむじはロールケーキ
フォークを持つより希望のほうが軽い
みたいな顔していました
存在してないほうへ飛び立った青春も
すっかり年老いて
照れ笑いで
まだバカンスの

もっとみる

窓という窓を曇らせて

どうかそれぞれの扉から旅立ち
ぼくの雪を降らせ
ぼくの雪を融かしてほしい
水蒸気となって浮遊するあなたのために
どうか水晶の静寂を揺るがし
窓という窓を曇らせてほしい

それぞれの言葉がすれ違う午前二時に
どうか明滅する信号機よりも彼方から
あなたの季節を届けてほしい
受け取り主のない配達物よりも彼方へと
あなたの翼は放物線を描いて去っていくだろう
真冬の真横から射す陽光のように
なにひとつ温めな

もっとみる
誰も彼も優しさなんて持ちあわせてないよ

誰も彼も優しさなんて持ちあわせてないよ

或いは此処は、地獄の七時間半に違いない。パソコンが人間の数より並んで、足音ばかりが立派に響いて、お茶は無料だなんて言う。私は地獄で昼間を過ごし、夜は地獄とは少しだけ程遠い東京の端っこで恋人と丸くなる。

地獄の七時間半で、君は私に小さな手紙を書いていた。汚い字で書きなぐった紙の数は八枚ぽっちで、君と私の時間を埋めるには足りないけれど、でもインクの滲みや擦ってしまった跡だとか、いたるところに君が

もっとみる