空気を読むのは、間違っていた

もちろん、場合によりにけりである。私だって、なんでこんな場でそんな事を言い出すのかという、全く空気の読めない人は、苦手だ。それを言ったところでどうにもならない場で、「ただの事実」を述べられても、役に立たないときもあるし、誰もいい気持ちはしない事もある。ただそれは、その事実を言ったところで、誰もプラスにならないし、その事実を知らなかったとしても、何の被害者もいない問題に限るべきだろう。

私達が今見ている、ジャニーズ所属タレントへの、故人が続けてきた性加害問題は、(事実、それは性犯罪以外の何物でもないが、責任を取るべき人は、何度も言うが盛大なお見送りをされ、様々なマスコミ、芸能関係者あるいは経済界ですら、所属タレントのCM起用などで、故人を偉人のように扱ってきたのは間違いない。)まさしく私を含めた大人達が、ずっと空気を読んできた結果に過ぎない。

これは実際、性犯罪が、家の近所で行われている事を知りながら、カーテンを下ろし鍵をかけ、防音のきいた部屋で、映画を見ているようなものかも知れない。おそらく、ずっと子供時代から、わたしたちの多くが一度は見てきた、いじめと、傍観者の構図でもあるのだろう。

そして絶対に忘れてはならないのが、大手マスコミは全くといっていいほど機能しなかったという、悲しく実に恐ろしい事実である。様々な陰謀論や、突拍子もない非科学的な言説が大真面目に語られる社会は危険である。

だが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、大手マスコミが、自分たちの知り得る事実を伝え、特に何らかの事件性、犯罪性、あるいは明らかな人権侵害が合った時に、それを調査し、報道によって知らしめ、その問題を食い止めるべく機能しなかったというのは、とても危険なことだ。

かつて、この国の侵略戦争を肯定した全てのマスコミが反省したはずなのに、戦後の、少なくとも報道の自由が、ある程度保証されているに違いない日本という国で、マスコミでさえ長いものに巻かれ、空気を読む体質は全く改善されていないのだろうと思う。

たかが芸能界相手に(つまり、せいぜいタレントが起用できないぐらいのリスクや、せいぜいそのファンが、記事を批判し祭りになるぐらいの、命の関わるような言論弾圧のない相手という意味での、たかがである)そして自分たちの利益のために、空気を読み続けたというのは、本来なら、特別番組でも作って「なぜ報道しなかったか検証すべき問題」ではないか。

もちろん、本当は「大したことだと思っていない。芸能界というのは、いかなる性別であれ、未成年であれ枕営業もあって当然、そんなの大騒ぎするな、必要悪だ。死ぬわけじゃなし、空気を読んで当然」ということなら、それはそれで、国民が同意するかどうかはともかく、一つの意見とは思うのだが。空気を読んでただ黙っていたというのは、一番、マスコミや言論人が取るべきでなかった選択肢だったろう。



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