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【ためスモインタビューvol.4】「何もしない」をする宿ーー廣川弘貴さん、絵梨子さん

映画「おおかみこどもの雨と雪」の舞台にもなった、富山県上市町

富山県で生まれ育ちながらも、上市町が気に入り県内移住した廣川弘貴さんは、妻の絵梨子さんとともにゲストハウス「種宿」を運営したり、会社を辞めて専業農家となったりと上市で素敵な暮らしをしておられます。

今回は、移住するに至った経緯や、上市での暮らしについて伺いました。

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◎世界をめぐり、富山に戻ってきた

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廣川さんが暮らす富山県上市町種集落

ーー廣川さんは生まれも育ちも富山県とのことですが、なぜ県内移住を決意されたのでしょうか。

弘貴さん:生まれも育ちも、高校も大学も会社も富山だったんです。自分のことを「富山しか知らない世間知らず」だと思っていました。

そこで、ありがちですけれど会社を辞めて1年間海外を巡りました。

ーー具体的には、どんな場所を巡っておられたんですか。

弘貴さん:自分は「生活感があるところ」が好きなんですよ。だから、先進国でも発展途上国でも田舎を訪れました。生活感の中から見つかる良さってあると思うんですよね。都市部よりも生活くさい、人間臭い、不便な場所を多く訪れたんですが、そういうところを見る中で「自分の好きなものって何だろう」と考えるようになりました。

ふと気づくと、自分は自然と海や山を目指していたんですよね。自分が行きたいと思うところは、海や山があり、日々の生活が間近で見られるような場所だった。そういうところに価値があると感じたんです。結局、それって「富山」だったんですよ。

ーーなるほど。そして富山へと戻ってこられたんですね。帰国後、上市町に移住されるに至った経緯を教えてください。

弘貴さん:海外で自分が価値があると感じた場所を富山の中で探してみることにしました。そして見つけたのが上市町の「種集落」という場所だったんです。自分が価値を感じる場所は近くにあったんです。

でも、同時に自分が魅力を感じた上市町の「人間臭いところ」が失われつつあることにも気づきました。町の景色、周囲の雰囲気、生活の匂いーー自分が思い描いた原風景が、失われつつあるって。

ーー失われそうになっているものを、守りたいと思われたんでしょうか。

弘貴さん:そうです。移住を決めた時から、こういう場所は将来的に貴重になるだろうし、みんなに知ってもらって守っていきたいという思いがありました。地元の人たちは、今の暮らしを当たり前だと思っているんですけどね。

それがゲストハウスという形でした。

◎「何もしない」をする宿

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▲可愛らしい看板が出迎えてくれるゲストハウス「種宿」

ーーそして、移住してから3年後に開業されたのがゲストハウス「種宿」ですね。

弘貴さん:はい。種宿は特別なおもてなしのない、不自由を楽しんでもらう場所です。原風景を楽しみに来たり、のんびりしに来たりする方が多いですね。

自分は会社を辞めて専業農家をしているので、ご希望であれば農業体験もできますし、近くで山菜も採れます。地域の人と語らうもよし、何もせず昼寝するのもよし。

ただ「何か欲しい」と思っても、近くにお店はありません。そんな不自由を楽しめる人にぴったりの場所です。

ーー「おもてなし」が評価される中で、逆を行っているわけですね。

弘貴さん:世界を巡っていた時、自分は生活感や人間臭さを見たいと思っていました。飾った姿ではなく、当たり前の姿が好きだと感じたんです。今度は種宿を訪れる人に、飾らない姿を味わってほしい。

旅先ではあるけれど、ここが自分の家だと思って過ごしてもらいたい。ここはいい意味で生活感が出ている地域なので、飾らずにそれを伝えたいと思ったんです。

背伸びしたりはしません。迎える側が、頑張っていない姿を見せるのもありかな、と。

ーー農業をされているとのことですが、農家になられたきっかけを教えてください。

弘貴さん:会社員に適応できなかったからとも言えるんですが(笑)。

この種集落に住んでいるとこの地域の課題が見えてきました。その一つが高齢化です。この辺りは、平均年齢が60~70歳。そうすると、農地の維持が課題になります。

自分の家の窓から見える景色はほぼ田んぼ。その景色が草ボーボーになるのは嫌だったんです。自分が農家をやれば、農地の問題が一つ解決すると思って。会社員をしながらだと農地の維持は難しいので、1年間県の農業学校に通って勉強してから就農しました。現在、田んぼ9町でお米を育てています。

◎非日常ではなく「異日常」を体験してほしい

▲廣川さんがお米を育てている田んぼ

ーー種宿を訪れた方に、どんな時間を過ごしてほしいですか。

弘貴さん:理想は、携帯も何も持たないで、デジタルから離れる生活をしていただきたい。正直、この地域は不便すぎるので、その不便さを満喫してほしいです。周りにお店がないので、代わりにお昼寝したり、お散歩したりして過ごしてください。

情報を入れない時間があると、自分の心の中を見つめる時間にすることもできるし、空っぽにすることもできる。それが目的でここにこられる方もいらっしゃいます。

ーー現代では、スマホなしの生活が考えられない、という人も多いでしょうから、貴重な経験になりそうですね。

弘貴さん:デジタルから離れるということは、なかなか難しいことでもあります。現代人は情報が入らないと不安になるので。でも、振り切れると楽しめますよ。

ーー種での暮らしは、どんな人に向いていると思いますか。

弘貴さん:「不自由を楽しめる方」にとっては最高の場所です。不便なので、自分で暮らしを工夫できる人なら楽しめます。

自分は「屋根さえあれば暮らせるわ、屋根もなくてもいいや」くらいの気持ちで移住してきたので(笑)。

自分は、冬に上市町に移住してきました。雪が降る中、最初は隙間だらけ、暖房なしの家に住み始めたので、それに比べたら今はものすごく快適です。こんなに住まいにこだわらない人は珍しいと思うんですが(笑)。

古民家に住むために、DIYが得意である必要はないと思います。自分はDIYのやり方も分からずに移住したので、やっていけますよ。知らなくても、やったことがなくても「やってみよう」って思える人にはぴったりの場所です。

絵梨子さん:「やってみよう、別にやれなくてもいいや」と思える方に種集落はぴったりだと思います。例えば、周りには山菜がたくさん生えているんですが、今は食べられていなくても昔は食べられていたものがたくさんあるんですよね。それを工夫しながら食べたりするのが楽しい。地域の人に聞くといろんなことを教えてもらえます。

ーーちなみに、一番近くのお店はどれくらいのところにあるのでしょうか…。

絵梨子さん:車で10分のところにスーパーがあるので、もちろん利用していますよ(笑)。富山市街地も近いし、海も山も近いし。

山間部には面白い方がいっぱいいらっしゃるので、上市は面白い場所だと思います。「上市の将来を語り合う会」なんていうのもあるんですよ。

ーーそれはどんな会でしょうか。

絵梨子さん:行政として「こんな町にしていきたい」という思いと、民間で現在行っていることを共有し合い、課題を解決していこうとしていく会です。上市町は、一人の意見を大切にしてもらえるし、自ら「かかわりたい!」と思えば、実行できる機会を作ることができます。当事者になりたい方にはぴったりの場所だと思います。

econte(エコンテ)という有志の会もあります。子どもの向けのイベントから大人向けのイベントまで、自分たちがやりたいことを企画から実行まで行っています。今後の予定としては、何をやるかは未定ですが、現在も意見を出し合い続けています。

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常に情報にさらされている生活から、スマホを手放してみる。
効率を優先する生活から、非効率さを楽しむ生活にしてみる。
インターネットではなく、地域の生き字引から暮らしの知恵を学ぶ。

そんなゆったりとした暮らしを、体験してみませんか。
ためスモパートナーは、皆さんの富山ので暮らしをサポートします。

<今回ご紹介した ためスモパートナー>
廣川弘貴さん、絵梨子さん
弘貴さんは富山県入善町出身、絵梨子さんは高岡出身。2人の子どもと4人で富山県上市町の「種集落」で暮らしている。ゲストハウス「種宿」オーナー、専業農家。特別なおもてなしはなく、「日常」を大切にしている宿だ。



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